今こそ平和の大切さ・命の尊さを学ぼう 日本で唯一の「ホロコースト記念館」
「なぜ人間は、おたがい仲よく、平和に暮らせないのだろう」
ドイツに生まれたユダヤ人の少女アンネ・フランクが『アンネの日記』に遺した言葉です。第2次世界大戦中のヨーロッパでは、ユダヤ人という理由だけで差別と迫害を受け、ガス室などで600万人の生命が奪われました。その中には150万人の子どもたちがいたと言われています。
広島県福山市にある「ホロコースト記念館」は、ホロコースト(ナチス・ドイツがユダヤ人などに対して行った大量虐殺)の歴史と真実、その時代を生きた人々について学べる施設です。ロシア軍によるウクライナ侵攻など、無差別な殺りくや日常を壊されることへの怒りや恐怖を感じることが増えた今、同館を訪れ、改めて平和の大切さや命の尊さを考えてみませんか。館長の吉田明生さんに館内を案内していただきました。
当館は、戦後50年の節目にあたる1995年に、日本初のホロコーストの教育施設として開館しました。開館のきっかけは、初代館長の大塚信とアンネ・フランクの父・オットー・フランク氏の運命的な出会い。1971年春、大塚が合唱団の一員としてイスラエルを訪れた時に、二人は偶然出会い、交流が始まったそうです。「アンネをはじめ150万人の子どもたちに、ただ同情するだけではなく、平和をつくるために、何かをする人になってください」というオットー氏の思いをたくさんの日本人に伝えたいと考えた大塚は、自身が仕えていた御幸教会の敷地内に、平和の発信拠点として当館を建てました。小さな建物でしたが多くの方に興味を持っていただき、2007年には展示スペースを5倍に拡張した新館が開館。2022年4月までに、約19万人が訪れています。
来館者には、まずホールで当館に関する映像を見てもらいます。その後、2階の展示室へ。階段を上った壁にはヘブライ語で「わすれないで(直訳では「覚えていて」)」と書かれています。「ホロコーストで犠牲になった子どもたちを忘れないで(覚えていて)」という願いが込められているのです。
展示室には、ユダヤ民族を象徴する印として使われた黄色い星「ダビデの星」、切り裂かれた聖書、収容所で使用されていた服や食器など、世界40カ国から寄贈された貴重な遺品を展示。当館を訪れる子どもたちに関心を持ってもらえるように、ゲットー(ユダヤ人を収容所に送るまでの一時的な居住区)の壁の再現や、ナチス最大規模のアウシュヴィッツ絶滅収容所のジオラマなど、立体物を使った体験型の展示も設けました。
当時、実際に使われていたダビデの星
切り裂かれた聖書も当時のもの
アウシュヴィッツ絶滅収容所のジオラマやユダヤ人が着せられていた収容者服など、収容所に関する展示
記念室は、犠牲になった子どもたちを思い、静かに過ごす場所。150万人の犠牲となった子どもたちを象徴する「15センチの子どもの靴」、天に向かっているステンドグラスを見ながら、犠牲となった子どもたちのことを思い出し「私たちには何ができるか」をゆっくり考えてみてほしいです。
記念室の壁には、ナチスによって虐殺が行われた村のユダヤ人の写真が並べられている
次は、廊下の先にあるアンネ・フランクの展示室へ。アンネの日記の精巧なレプリカ、オットー氏が使っていたタイプライターの同型品など、アンネの生涯とオットー氏に関するものが並びます。奥には、オランダのアムステルダムにあるアンネが隠れていた部屋を再現したスペースも。一日中、窓もカーテンも閉まった暗い部屋で、13~15歳のアンネは日記を書いていました。当館を訪れたアンネと同世代の子どもたちは、「アンネの部屋が印象に残った」と話します。
アンネの日記のレプリカ
アンネが身を潜めていた部屋を再現した「アンネの部屋」
他にも、ユダヤ人難民を「命のビザ」で救った日本の外交官・杉原千畝の功績を紹介するコーナーや、ホロコーストに関する書籍やDVDが閲覧できるライブラリー、子どもたちが自由に学べるこどもの部屋、オットー氏から贈られたバラが育つアンネのバラ園など、たくさんの見所があります。こんな時代だからこそ、同館は平和を考えるきっかけになるのではないでしょうか。この空間に身を置き、「自分ならどうするだろうか」「自分には平和をつくり出すために何ができるだろうか」と考えてみてください。頭で学ぶだけでなく、自分で考えたことや感じたことは、ずっと心に残りますから。
杉原千畝を紹介するパネル
アンネの銅像を中心にした「アンネのバラ園」
オットー・フランクさんから贈られた燭台(しょくだい)とメッセージ
入り口横に植えられている、アンネの隠れ家から見えたというマロニエの木の2世
ホロコースト記念館
電話番号:084-955-8001
住所:福山市御幸町中津原815
時間:10:00〜17:00(入館は~16:30)
休館:日・月曜、祝日、8/13~16、12/27~1/5
料金:入場無料
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