“永遠の折り鶴”となって世界へ羽ばたく 佐々木禎子さんの折り鶴を金属で再現
平和記念公園に立つ「原爆の子の像」のモデルとなった佐々木禎子さんは、2歳の時、爆心地から約1.6kmの自宅で被爆。10年後の12歳の時に白血病と診断され、闘病の末に亡くなりました。「鶴を千羽折ると願いが叶う」という言い伝えを信じ、1300羽以上の鶴を病床で折り続けたそうです。2021年8月6日、禎子さんが折った紙製の折り鶴が金属製の折り鶴になって蘇りました。手がけたのは、福山市(広島県)の精密鋳造メーカー「キャステム」。プロジェクトのリーダーを務めた池田真一さんに、製作のきっかけや苦労した点、平和への思いを伺いました。
当社は2018年に、歴史と記憶を伝えるブランド「ヒストリーメーカー」を立ち上げました。コンセプトは「その瞬間・想いを永遠に」。50年培ってきた鋳造技術と最新テクノロジーを融合して、圧倒的にリアルでストーリー性のある金属製品を製作しています。これまで、世界的ボクサーのマニー・パッキャオ選手や井上尚弥選手、カープ選手の手型、福山城のシャチホコなど、著名人の体や歴史的な物を金属という永遠に残る素材で再現してきました。
佐々木禎子さんの折り鶴を金属で作れないかと考えたのは、2020年の冬。広島県に本社を置く企業として、自社の技術を活かした商品で平和を発信したいという思いからです。すぐに広島市役所の方を通して、禎子さんの兄・佐々木雅弘さんを紹介してもらったのですが、声をかけたタイミングが運命的でした。ちょうど雅弘さんも「世界中から禎子の折り鶴を寄贈してほしいと依頼されるが、100羽ほどしか残っていないので、すべての要望に応えられない」と悩まれていたところだったようです。また、紙製のため、色の退色や劣化など保存の問題もあったそうです。今回の企画をお話しすると「こんな技術があるんですね!」と驚いていただき、お互いの気持ちが合致したため、すぐにプロジェクトは動き出しました。
佐々木禎子さんの兄・佐々木雅弘さん
再現するのは、禎子さんが生前最後に折った折り鶴。亡くなられた時に枕元にあったものだそうです。手に取り、間近で見ると、折り方の丁寧さと力強さに驚きました。最後まで強い願いを込めて折っていた禎子さんの思いを、多くの人に伝えたいと改めて思いました。折り鶴の大きさは、縦7mm、横23mm、高さ13mm。薬の包み紙のような薄い紙で折られていました。
禎子さんが生前に折った折り鶴
作業としては、まず、3Dスキャン、3Dプリントといった最新のデジタル技術を駆使して原型を作ります。紙の質感や折り目を忠実に再現するために、試行錯誤を繰り返しました。試作は70回を超えましたね。
原型が出来上がると、長年の精密鋳造技術により、溶けたステンレスを流し込んでいく作業です。薄い部分に、ステンレスを流し込む作業は大変難しく、苦戦しました。企画の発案は私ですが、新規事業本部のチーム全員で、もっといい方法はないかと模索し続けた半年間でした。
そして、キャステムの技術力を結集した金属製の折り鶴が完成。何千年も劣化しない、永遠に残る折り鶴です。量産できるので、世界中の人に無限に届けることもできます。完成品を雅弘さんにお見せすると、「感無量です」と言っていただけました。商品は雅弘さんによって「SADAKO」と命名。禎子さんの思いを「SADAKO」に乗せ、世界中に向けて平和の願いを発信していきたいです。
シリアルNO.001の商品第1号は、オバマ元大統領にお贈りできないかと考えています。オバマ元大統領は、2016年に米国の現職大統領として初めて被爆地・広島を訪問した際、4羽の折り鶴を寄贈されました。折り鶴と関わりの深いオバマ元大統領に受け取ってもらえたら、平和に一歩近づくのではないかと。実は、オバマ元大統領が寄贈した折り鶴も金属で再現できないかと数年前から考えていて……。こちらもぜひ実現したいですね。
SADAKO1100円
キャステム本社(広島県福山市)、キャステム京都LiQ(京都府京都市)、metamate(東京都中央区)、おりづるタワー(広島県広島市)、平和記念資料館(広島県広島市)、大刀洗平和記念館(福岡県朝倉郡)、キャステムECサイトhttps://www.ironfactory-castem.com/などで販売
株式会社キャステム
医療機器や航空宇宙など、あらゆる産業の精密な金属部品を製造・販売する精密鋳造メーカー。製造業の中で、いち早く3Dプリンターや3Dスキャナを導入し、従来のアナログ技術と最新のデジタル技術を融合。個人のお客を対象としたストーリー性のある商品の企画・製造・販売にも定評がある。
https://www.castem.co.jp/
ヒストリーメーカーhttps://www.history-maker.jp/about/
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