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国際平和拠点ひろしま

平和とアート 「記憶がどう伝わっていかないか」

2021年2月20日(土)~3月7日(日)まで旧日本銀行広島支店で開催されている「どこ×デザ in 旧日本銀行広島支店」。この展示では,広島市現代美術館が公募した「ゲンビどこでも企画×ゲンビ『広島ブランド』デザインスペシャル公募2020」で選ばれた8作品が公開されています。その一つ「Senbazuru」の作者である菊田真奈さんに今回応募された作品について,ご自身の作品のテーマなどについて伺いました。

「どこ×デザ in 旧日本銀行広島支店」はこちら
旧日本銀行広島支店で展示された「Senbazuru」
©Mana Kikuta

菊田さんは広島県出身で,2009年日本大学芸術学部写真学科卒業後,2013年からフランスに渡り,国立メディア・アート学校などを経て現在,フランス・日本で活動されています。

 

公募の経緯

 

今回の公募は,旧日本銀行広島支店の魅力を引き出す作品のアイデアとその展示プランの募集ということでした。2002(平成14)年度から原爆の子の像のまわりに整備された折り鶴ブースで1~2か月間展示された千羽鶴の一部が旧日本銀行広島支店で展示されていたということを知りました※。すでに制作していた「Senbazuru」という作品がこの公募にあうのではないかと思い応募しました。

※折り鶴に関する広島市の取組,https://www.city.hiroshima.lg.jp/uploaded/attachment/32307.pdf

 

折り鶴の作品をつくるきっかけ

 

原爆の子の像には毎年10トン以上の折り鶴が国内外から捧げられています。現在は,この折り鶴を再生紙などにして活用されていますが,形は変わっても折り鶴を折った人々の平和への思いはどこかに残っているのではないかと希望を持ち,折り鶴をモチーフにした作品をつくろうと思いました。また,広島出身である私にとって,折り鶴は身近にありすぎるものでした。海外に行き,自分の出身地のことを聞かれたり話したりする立場になって改めて折り鶴について考えるようになったのも一つのきっかけです。

広島の平和記念資料館で見たオバマ元米国大統領が折った折り鶴。パリ同時多発テロ後にパリのレピュブリック広場の像に供えられた折り鶴。折り鶴は広島だけのイメージではなく,世界中の平和のシンボルとして新たな意味合いが生まれているのではないかと思っています。

オバマ元米国大統領が折った折り鶴 
©広島市
パリ同時多発テロ後にパリのレピュブリック広場の像に供えられた折り鶴。折り鶴には平和を意味するフランス語「PAIX」が書かれた文字が見える。
©Mana Kikuta

「Senbazuru」

 

作品は映像と折り紙で構成されています。紫外線によって青くなる感光性容液(サイアノタイプ)でコーティングされた折り紙を鶴に折り,平らに広げ,そしてまた鶴に折る。そのジェスチャーが繰り返される映像と折る時間や太陽の光で一つとして同じものはない1,000枚の折り紙で構成されている作品で,旧日本銀行広島支店での展示では,1,000枚の内363枚が展示されました。

平和を壊すのも人間。そして平和を作るのも人間。また,平和を願い鶴を折るのも人間です。本当に戦争の悲惨さなどを伝えるときに同じものを伝えることができるのかという疑問と平和への祈りはどこかに残ってほしいという希望を込めて,鶴を折る,平らにする,また鶴折るという作業を繰返した作品となっています。

© Mana Kikuta

 

広島の作品をつくるときは躊躇する

 

毎回,広島をテーマとした作品をつくるときは躊躇します。私の世代は被爆した方々が祖父母にあたる世代です。私の祖母も被爆者です。実際には被爆のことは経験していませんが,家族から原爆の経験を聞くことはある世代です。原爆のことを知っているけど知らないという世代なんだと思います。だから原爆・平和に関する作品を作るときは躊躇します。でもこの躊躇する感覚を大切にしていきたいとも思っています。

 

記憶がどう伝わっていかないか

 

元々,原爆や平和にだけ特化した作品を作りたいと思っているわけではありません。「記憶がどう伝わっていかないか」という点が一番のテーマです。自分が生まれて,教育を受けた場所である広島に影響を受けているのも事実です。祖母から聞く話,学校で教えられる話,広島を離れて周りから質問されること,それぞれの人や立場,世代によって異なるという点に気づいたことが今の活動に繋がっています。

 

 

菊田真奈(きくた・まな)さん

広島県出身。2015年フランス国立メディア・アート学校卒業。記憶に対し写真の限界を通して探求する作品を制作。フランス、日本を拠点に活動。

Web: http://manakikuta.com/

※「Senbazuru」は菊田さんのウェブサイトでご覧いただけます。

http://manakikuta.com/works/senbazuru

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