被爆者の人生を表現 高校生と被爆者でつくる「ボディマッピングアート」
「2022せこへい美術館」の展示の中より
『ボディマッピング』。このあまり耳にすることのないワークショップを通して、被爆者の被爆体験とこれまでの人生を見つめ、理解を深めることで、これまでにない被爆体験の継承をしていこうと取り組んでいる広島の高校生たちがいます。広島高校生平和ゼミナールの活動にお邪魔しました。
被爆体験を個性豊かに表現
被爆者からの聞き取りを行う様子
このワークショップで高校生たちがはじめに取り組んだのは、いくつかのチームに分かれ、被爆者から被爆体験やこれまで歩んできた人生を、数名でしっかりと聞きとることです。その後、話を聞いた被爆者と一緒になって『ボディマッピング』を行っていきます。
ボディマッピングとは、タタミ1畳ほどの大きな紙に自分の顔と身体の輪郭を描き、そこにこれまで体験してきた出来事や考え方、大切にしてきた思いなどをマッピングしていくアートです。これまでの人生を一枚の紙に図像化することで、自分自身を捉え直すことを目的としています。
今回のワークショップでは、聞き取りをした被爆者の方の身体の輪郭を紙に描き、その方と相談しながら自由な手法でマッピングを行いました。印象的な言葉をより強く表現するために大きく描いたり、折り鶴を使って立体的に表現したり、一目でどんなことを伝えたいか分かるようにイラストを書き込んだりと、どれも創意工夫が盛り込まれた作品になっています。
理解が深まれば自信に繋がる
被爆者の方たちと一緒に制作する様子
このボディマッピングを応用した被爆体験の継承プロジェクトを提唱するのが、広島大学ダイバーシティ研究センター教授の大池真知子(おおいけ・まちこ)さんと、広島大学平和センター准教授のファンデルドゥース・ルリさん。今回のワークショップも、この二人のナビゲートで行われました。
大池教授は、世界のボディマッピングとこの取り組みの違いを説明して、「通常のボディマッピングでは、自分の人生を自分で表現しますが、今回の取り組みでは、高校生が被爆者と一緒に被爆者の人生を表現しました。この協同作業がユニークなところで、世界に例を見ないものになりました。」と話されました。
またルリ准教授は、高校生のアンケート分析結果を示しながら、「ボディマッピングは、その人の心の情景、心象風景を表現するものです。マッピング作業中、高校生は被爆者との対話を通じて被爆の実相とその後の人生の記憶について学びました。被爆者による証言とボディマッピングの併用という新たな被爆体験継承の試みを通じて、高校生たちの間に『当事者』意識が生まれたようです。さらにそれが、平和な未来に向けて自発的に活動する自信に繋がっています。頼もしい成果に驚き、本当にうれしく思います。」と話されました。
受け身から伝える側へ
ワークショップの振り返り学習会の様子
参加した安田女子高校社会科学研究部の生徒の一人は「これまで被爆者の方たちのお話を聞くことはあったけど、それを表現することはありませんでした。被爆を体験されたのは幼少のころなので、その記憶はほとんどなくて『自分は被爆者じゃない』とずっと思ってきた方が、やはり伝えていかなければいけないと考え、私たちに話してくれたことが印象的でした。」と、自分たちの使命をはっきりと見出せたようです。
また、崇徳高校平和問題研究部の生徒の一人は「実際に表現することで、これまでよりもしっかりと考えて、より理解が深まりました。僕たちは同世代の人たちに一人でも多く、原爆のこと、平和のことについて伝えていくことが大切だと思います。できれば、もう一回被爆者の方たちとボディマッピングをして、もっと表現できたらいいな。」と答えてくれました。ボディマッピングを通して、それまでの『被爆体験を聞く』という受け身の姿勢から、『被爆者と一緒になってその人生を表現し伝える』という積極的な姿勢へと、自身の変化が表れたことに手応えを感じているようです。
被爆者と若い世代を繋げる
ワークショップの振り返り学習会の様子
広島高校生平和ゼミナールの活動と一緒に、核や戦争のない世界の実現に向けて活動しているのが、『世界の子どもの平和像(せこへい)をつくる会ヒロシマ』です。旧市民球場跡地の前に「世界の子どもの平和像」が建立された翌年、2002年から毎年夏に「せこへい美術館」を開催しています。
事務局の望月照己さんは「若い人たちと被爆者が一緒になって、ポジティブにつくり上げていくこのワークショップは、高校生はもちろん、被爆者の方たちからも『自分たちの思いが伝わったと実感することができた』と感想をいただきました。被爆当時のことを実際に聞くことは、これからもっと貴重になってきます。そしてただ聞くだけではなく、今回のように一緒になって活動をすることで、若い人たちがより理解を深め、自分のことばで語れるようになったのは、とても大きな収穫でした。」と話します。
被爆者と直接交流ができる時間は、あまり残っていません。そのわずかな時間のなかで、少しでも多くのことを伝え、受け取ることの大切さ。そしてそこから、次の時代を担う若者がより多くの人たちに語りかけていくこと。たくさんの人たちが、あの日の出来事をこれからもずっと繋げていく活動をしています。
※この活動は、日本学術振興会国際共同研究加速基金21KK0032(Pl:Luli van der Does)の助成を受けています。
広島大学ダイバーシティ研究センター
HP:https://www.diversity.hiroshima-u.ac.jp/dandi.html
広島大学平和センター
HP:https://heiwa.hiroshima-u.ac.jp/
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