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国際平和拠点ひろしま

「核抑止を再考する-乗り越えるためのアプローチ-」
長崎大学・西田充教授インタビュー




2023年4月28日、G7広島サミットを間近に控えた広島でサミット関連公開イベント「核抑止を再考する-乗り越えるためのアプローチ-」が行われました。これは核兵器のない世界を目指すにあたり、今なお核保有国が根拠にする「核抑止論」について改めて考えてみようとする試み。当日は米ハーバード大学が主導するワーキング・グループ協力の元、多様な視点が紹介されました。今回は同イベントでモデレーターを務めた長崎大学多文化社会学部・西田 充(にしだ・みちる)教授に、当日議論された内容について解説してもらいます。


4月28日に広島国際会議場で行われたイベントでモデレーターを務める西田充氏(画面左)


●核抑止をめぐる現状について

現在は核抑止という概念が生まれた冷戦時とは大きく違った状況が作られています。冷戦時はソ連・アメリカ、それぞれが率いる東西陣営が国際政治を動かすという二極構造で、当時の核抑止は米ソの全面核戦争を防止することが主な目的でした。しかし、現在ロシアは凋落傾向にあり、それに代わって中国の台頭が見られます。3極で戦力バランスをとるというのは非常に不安定で、なおかつ現代はウクライナや北朝鮮を筆頭に各地域における軍事衝突・紛争が核使用にエスカレートすることの方が喫緊のリスクとなっています。そういう意味で核抑止をめぐる状況は冷戦時より複雑さを増していると言えるのです。


●核抑止を見直す必要性について

上記のような状況を鑑みると、現状を踏まえた上で核抑止というものを再検討する必要があると思われます。「見直す」というのは現在の状況に適合させるという意味もあるでしょうし、「そもそも今の状況に核抑止は必要なのか?」という前提から考えることも含まれるでしょう。

さらには伝統的な安全保障の議論を超えて、これまで核抑止とは無関係と思われてきた分野から捉え直すことも必要かもしれません。今回のセッションでは核兵器の使用によって引き起こされる気候変動や放射能による地球汚染に着目した「環境」という視点、核自体が男性的な存在であるという「ジェンダー/フェミニズム」の視点等、多様な切り口が紹介されました。


●核抑止を再検討する際の難しさについて

核抑止を再検討するにしろ、たとえば自国に脅威を与えていると考えられる他国が核兵器を保有する中で、一般的には、自国だけが核兵器を放棄するという選択は極めて困難です。「両方一緒に減らしていく、両方一緒に放棄する」という方法が考えられますが、それを実行するには「両者のパワーバランスを均等に保ったまま行う」という付帯条件が付きます。核兵器は特に弱者にとって自らの安全を担保するものだと見なされているからです。北朝鮮の例を出すまでもなく、弱者の側は核兵器を所持しているからこそ強国との間での不均衡なパワーバランスを大きく是正し、自国の体制を維持できていると考えている側面があります。ですから「一緒に核を放棄しよう」と提案したところで、その結果、 パワーバランスが不均衡な状態になるのであれば、彼らが、バランスを均衡させる、あるいはゲームチェンジャーとみなす核を手放すことはなかなかないでしょう。つまり安全保障的にはどのやり方を取るにしても核抑止の再検討には困難がつきまとうのです。


●核抑止脱却の前例から考えられることとは

南アフリカは冷戦時に核兵器を保有していましたが1990年頃、すべての核を放棄しました。これは当時、ソ連の崩壊を含め、南アフリカ周辺の安全保障環境が大幅に改善していたことが大きいです。さらに、黒人政権の誕生が見込まれる中で、白人政権が核兵器を黒人政権の手に渡したくなかったことも理由として考えられています。

南アフリカなどの例から導き出されるのは、周囲に脅威となる国があると認識し、その脅威に対し核兵器は国や体制の存続を保証するものだと見なしている限り核兵器は必要と考えられているということです。逆に言えば、そうでなければ核の放棄は可能なのです。もちろん、安全保障だけが核保有か核放棄かを決める要因ではなく、国内政治や国際政治といった要因もありますが、少なくとも安全保障の観点では、他国が南アフリカの例にならうことができるか否かは、その国が置かれた安全保障環境と脅威認識によるのです。


長崎大学 多文化社会学部 教授

西田 充(にしだ・みちる)

専門は国際安全保障、軍備管理・軍縮・不拡散。外務省で軍縮不拡散専門官として長年核問題に従事する。ミドルベリー国際大学院モントレー校で修士号(国際政策研究、不拡散専攻)、一橋大学で博士号(法学)を取得。長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA)を兼任。

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