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国際平和拠点ひろしま

被爆直後に原爆歌集を秘密出版した正田篠枝
その壮絶な生涯と原爆文学に光を当てる




終戦直後の出版規制を乗り越え、被爆の現実を伝える歌集「さんげ」を出版した歌人・正田 篠枝(しょうだ しのえ)。出版したのは、原爆投下からわずか2年後の1947(昭和22)年。原爆に関する出版が規制されていた中、連合国軍総司令部(GHQ)による検閲の網を潜っての秘密出版で150部発行しました。厳罰を恐れて反対する声も多く、協力者もない中、広島刑務所の中で印刷したと言います。

「さんげ」にも収録されている原爆の惨状を詠んだ歌をはじめ、生活の一コマや身近な人を詠んだものなど様々な歌を紹介しながら、原爆症による乳がんで世を去るまでの正田 篠枝の人生を振り返る本が、1995(平成7)年に広島文学資料保全の会より出版された「さんげー原爆歌人正田篠枝の愛と孤独」です。

その本について保全の会代表・土屋 時子(つちや ときこ)さんに、出版の経緯や原爆文学について、また散逸の危機にある貴重な文学資料を守るための取り組みについて聞きました。


500部ほどが自費出版された「さんげー原爆歌人正田篠枝の愛と孤独」。現在は、残数わずかながら保全の会ホームページから購入できる


「被爆50年の記念の本として出版されました。広島文学資料保全の会の初代代表で、正田さんととても親しかった古浦 千穂子(こうら ちほこ)さんが中心に書かれて、会のメンバーが編集を手伝いました。」

太き骨は 先生ならむ そのそばに 小さきあたまの骨 あつまれり

「最初は「大き骨」だったものを「大きい」に変えて、その後、ご本人が点を書き加えて「い」を消されたんです。「大き」か「太き」かという論争が一部にありますが、遺された自筆資料からも分かるように、これが真相です。」


正田篠枝が残した“太き骨の歌”の直筆色紙には、後から書き足された「太」の点や「い」を墨で塗りつぶした跡が残る


目にしたもの、体験したことをそのまま言葉に写し取る感性と、技巧をこらし作品に仕上げていく短歌へのこだわりが垣間見えるエピソードですが、文壇の評価は必ずしも高くなかったようです。

「花鳥風月を詠うことが多い短歌の世界で、初めて原爆を扱った正田さんの短歌は、“あんなのは短歌じゃない”と異端児扱いされていました。がんと戦いながら、血を吐くように書き続け残された言葉ですから、当然、普通の文学ではないですよね。原爆作家はずっと暗いところに置かれ、評価されないままです。それは今も変わりません。2001(平成13)年に当会で開催した「原爆文学展―5人の作家たち」では栗原 貞子(くりはら さだこ)、原 民喜(はら たみき)、峠 三吉(とうげ さんきち)、大田 洋子(おおた ようこ)、正田 篠枝の文学資料を展示したのですが、すごい反響でした。その5人は生前、原爆文学の同志として交流があり、助け合っていたようです。」



不遇のうちに生涯を終えた原爆文学の作者たちが残した資料は散逸の危機にさらされています。絶版の作品も多く、貴重な原本や関連資料が所在不明となり“幻の資料”となっています。

「当会は市立中央図書館において、峠三吉、原民喜、正田篠枝などの資料整理をお手伝いしました。当時は紙の質も悪かったので原稿などはもうボロボロになっています。原民喜さんの「原爆被災時の手帖」はデジタル化して当会のホームページに掲載していますが、鉛筆書きで実物は読めなくなってきているので、きちんと保存することも大切だと思っています。」

広島文学資料保全の会は、1987(昭和62)年に設立され、広島の文学全般に関する資料を収集、保全することを目的として活動しています。独自に資料を収集し、原爆文学のデジタル化など保全に努めるかたわら、設立当初から「広島文学館」の開館を求める活動にも力を入れてきました。

2024(令和6)年1月に広島市は、旧広島藩主・浅野家の歴史的資料、そして広島ゆかりの作家の著作物、自筆原稿、書簡類などを収蔵する施設を創設する計画を明らかにしました。開館は2029(令和11)年度を予定しており、保全の会にとっても積年の夢であった文学館がついに現実のものとなりそうです。

「文学館ができたら、様々な資料が増えると思いますし、研究者も増えることが期待されます。当会にできることは限界があるので、広島市でしっかり保全・発信してもらえたらと思います。原爆文学に興味を持っている人は、世界各国にたくさんいます。広島は人類で最初に被爆した町。人類すべてにとって重要な場面を書き遺した文学資料が、大事にされる広島であってほしいと思います。」


【お問い合わせ】

広島文学資料保全の会

https://bungakuhozen.jimdofree.com/

082-291-7615

hiroshima.bungaku@gmail.com

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