当サイトを最適な状態で閲覧していただくにはブラウザのJavaScriptを有効にしてご利用下さい。
JavaScriptを無効のままご覧いただいた場合には一部機能がご利用頂けない場合や正しい情報を取得できない場合がございます。

国際平和拠点ひろしま

被災を免れたご神体 平和の神様・徳川家康を祀る広島東照宮

 JR広島駅の北、約300mの高台にあり、徳川家康を祀る広島東照宮。本殿と拝殿は原爆によって焼失し、その後再建していますが、創建時から存在する唐門、翼廊、手水舎、本地堂、御供所、脇門、神輿は広島市指定重要有形文化財で、現在も江戸時代初期の建築の特徴を見ることができます。(※本地堂は2023年まで解体修理中)
 原爆が投下された直後、広島市街を望むこの場所には水を求めて多くの人が集まり、参道の脇には原爆慰霊碑も建立されています。禰宜の久保田桂子さんに、広島東照宮の成り立ちや被爆時の様子などについて伺いました。

 広島東照宮は慶安元年(1648年)、時の広島藩二代藩主・浅野光晟(あさの・みつあきら)公によって建立されました。光晟公は徳川家康公の孫にあたり、お爺さんを敬慕する思いも強く、京都から有名な工匠を招聘するなど、ほぼ3年の歳月をかけて熱心に造営に当たったそうです。
 江戸時代は、長く続いた戦乱の世が鎮まり、約260年に渡って平和な時代でした。世界的に見てもこれほどまで平和が続いた国はないそうです。お祀りしている家康公は、泰平の世の礎を築かれた「平和の神様」であると言えます。

 原爆が落とされた時、爆心地から約2.3㎞に位置する当宮は、爆風で唐門や翼廊が傾き、熱線によって桧皮葺きだった本殿と拝殿からポツポツと煙が出て、その後火の手が上がりました。当時、軍隊の通信隊の方たちが駐在されていて、裏手の井戸からバケツリレーで消火活動をしてくれたそうですが、火の回りが早く、本殿と拝殿は全焼。しかし、本殿に安置されていたご神体は危うく燃えるところを、兵士の方たちが中に入って運び出してくださったと聞いています。市内の多くの神社仏閣が丸焼けになった中で、奇跡的にご神体は難を逃れることができたのです。

大正時代ごろの本殿

 先代の宮司で、当時中学生だった私の父は、八本松(東広島市)に疎開していたため直接の被爆は免れましたが、3日後に広島に帰ってきた際、街の惨状を目の当たりにしました。そして東照宮へ戻ってみると、参道にもなっている階段の下にたくさんの人が横たわっていたそうです。その辺りには湧水があるので、みなさん水を求めてこられたのだと思います。また、当時はまだ高い建物がなく、市内一円からよく見える場所のため、信仰のシンボル的な存在として東照宮を心のよりどころとされていた方が、救いを求めて来られたということもあったのかもしれません。

 父は自分と同じくらいの歳の女学生から「水をください」と言われたのですが、水を飲ませてはいけないと聞いていたため、ごめんなさいと断ったそうです。直後に女学生は亡くなり、父はそのことをずっと悔やんでいました。若いときはそういった原爆のことをあまり語りませんでしたが、晩年になって話してくれるようになりました。原爆投下の翌日にこちらに避難して来られていた詩人の原民喜(はら・たみき)さんは、「この有様を伝えることが生き延びた私の天命だ」という言葉を残され、この言葉は階段下の原爆慰霊碑の横にある石碑に刻まれています。父は、自分も宗教者として伝えなければならないと思いを変えたのでしょう。亡くなるまでの数年間は、毎年8月5日に東照宮を含む二葉の里近隣の七つの神社やお寺で行っている「平和と祈りの夕べ」で、自らの被爆体験を語っていました。現在も、父の体験を一人でも多くの方にお伝えできればと、現在の宮司や職員が引き継いで続けています。

 また、先々代の宮司である私の祖父は、被爆し大きな傷を負いました。すぐ近くにあった東練兵場では、亡くなられた方たちが山積みにされて火葬されていたそうです。そんな経験もあり、当宮の階段下には原爆慰霊碑を建てました。毎年8月6日の8時15分には、職員で慰霊祭を行っています。

 平成27年(2015年)には、文化12年(1815年)を最後に途絶えていた、家康公の没後50年ごとに行われていた「通り御祭礼」を復元しました。被爆70周年と重なったため広島市の記念事業としても取り上げられ、被爆によって失われた伝統文化の復活と歴史的祭りの継承、地域の活性化へとつながる盛大な祭りとなりました。今後もこういった活動を数多く続けていきたいと考えています。
 本殿と拝殿に近い本地堂と手水舎には、昭和50年(1975年)ごろまでは焼け焦げた跡がありましたが、建立時の姿へと修復を施しました。また、爆風で傾いた建物も台風や地震などで倒壊する恐れがあり順次修復を行ってきたため、現在は被爆の傷跡を直接見ることはできませんが、被爆を経験した建物であり、平和の神様をお祀りしているという意味でも、平和を守ることが広島東照宮の使命だと思って、これからも活動してまいります。

広島東照宮
住所:広島市東区二葉の里2-1-18
電話番号:082-261-2954
HP  https://www.hiroshima-toshogu.or.jp/

この記事に関連付けられているタグ