当サイトを最適な状態で閲覧していただくにはブラウザのJavaScriptを有効にしてご利用下さい。
JavaScriptを無効のままご覧いただいた場合には一部機能がご利用頂けない場合や正しい情報を取得できない場合がございます。

国際平和拠点ひろしま

自分にもできる平和活動を考え、アクションを
~絵本制作を通じて学んだこと~




「戦争」や「平和」をテーマにした絵本は国内外に多数ありますが、ここ広島から被爆樹木をテーマにした一冊が新たに誕生しました。それが『―被爆樹木の絵本― きっと きこえるよ』です。作者は長年絵本の読み聞かせグループに携わっている2人のママ。著者の1人である藤原美香(ふじわら みか)さんに、制作の経緯などについてお話を伺いました。

作者の藤原美香さんは元保育士。自身の子が通っていた広島市立翠町小学校の読み聞かせグループで活動してきました。ある時、学校のPTC(保護者と教職員の会)で保護者向けの「親磨き講座」が開催され、そこに講師として招かれたのが「ANT-Hiroshima」の理事長、渡部朋子(わたなべ ともこ)さんだったのだそう。

同組織は国際協力事業や国際平和事業、教育事業などを広く行うNGO。この時、渡部さんが紙芝居を用いて語ってくれたのが被爆樹木についてだったといいます。「実は私はそれまで、平和教育については疎くて。どちらかというと怖いという感情が勝り、子どもの頃は苦手意識すらありました」と、藤原さん。しかしながら渡部さんの話を聞くうちに、被爆樹木の存在に惹かれていったそうです。「一番衝撃だったのは、被爆樹木の何本かが爆心地の方向に傾いているという事実です。そのくだりを渡部さんが語った瞬間、不思議なんですが、被爆樹木の声が聞こえた気がしたんです。『自分たちのことを知って声を聞いて』って」。


被爆樹木の声に突き動かされたという藤原さん


講座終了後、同じ紙芝居をぜひ読み聞かせグループでも活用したいと思い、渡部さんのもとを訪れたという藤原さん。残念ながら紙芝居は1セットしかなく、貸出ができないとのことでしたが、「だったら自分で作ってみたらどう?」と、思いがけない提案をもらったといいます。藤原さんは、同じ読み聞かせグループのメンバーである村本美香(むらもと みか)さんに相談。そこで「ダブルミカ」という名で、絵本制作をしようという意志が固まっていきました。

絵本の要となるイラストは、広島在住のイラストレーター・瀧川裕恵(たきがわ ひろえ)さんに依頼。色々な作家さんを調べる中で、「この方しかいない」と思えるくらい、繊細なタッチの瀧川さんの絵に魅了されたそうです。「限られた予算の中での制作でしたが、趣旨に賛同してくれた瀧川さんが快く引き受けてくださいました」。


すてきな絵だなと思ったイラストが全て瀧川さんのものだったそう


1年8カ月に及ぶ制作期間の中で、約160本ある被爆樹木のほとんどを巡ったという藤原さんと村本さん。時には我が子を連れて木に会いに行かれました。文章も、昔のことを知る町内の人から話を聞くなどして考えたそうです。

「参考にさせてもらったのは、石田優子(いしだ ゆうこ)さんが書かれた『広島の木に会いにいく』(偕成社刊)という本と、緑の伝言プロジェクト(広島市平和推進部による被爆樹木保存活動の支援を目的としたプロジェクト)から発行されている被爆樹MAPです。さまざまなエピソードのある被爆樹木がこんなにも存在することを、あらためて知りました」。色々な木を知る中で、藤原さんと村本さんが「この木を主人公にしよう」と、ぴたりと意見が一致したのが、地元南区の比治山公園のクスノキと、同じ公園にあるソメイヨシノでした。

大きなクスノキは爆心地から距離があるため、当時は戦火から逃れた人たちを見守ったのではといわれています。また、今にも枯れそうなソメイヨシノは、しかしながら毎年懸命に花を咲かせ、そのいじらしい姿に胸を打たれたのだと藤原さんは話します。

絵本の話の中には、渡部さんから聞いた「爆心地の方向に幹が傾いている被爆樹木がある」というエピソードを盛り込み、復興の象徴である「ひこばえ(切った木の切り株などの根元から新たに生える芽)」が登場。原爆が投下される前のキラキラした街の姿と、投下された後の焼け野原になった街を同じアングルで対比させるなど、絵の描き方にも色々な工夫が凝らされています。

「私が昔、平和学習を怖いと感じてしまったように、あまりにもおどろおどろしい内容にはしたくなかったんです。ブックカフェなどに並べても違和感のないような、優しい雰囲気の一冊を目指しました。まずは、多くの親子さんに手に取ってもらうことが目的なので」と、藤原さんは制作の意図について話してくれました。


読み聞かせがしやすいように、四方には空間を作るなどの工夫が施された


2019年、町内の人たちや、活動に賛同してくれた友人などの支援により完成した絵本は、広島市南区の幼稚園や保育園、小学校ほか、市内の図書館に寄贈。その後、反響が大きかったため、再度手直しをして2020年に第二版として自費出版し、販売されることになりました。絵本は現在、各学校の平和学習などで用いられているほか、2022年にドバイで開催された「シャルジャ国際ブックフェア」にも参加し、海外にいる外国の人たちにも読まれています。

「絵本を作ることがゴールではなく、この絵本を通じて被爆樹木について知ってもらい、平和について考えるきっかけとなることが私たちの目的です。被爆樹木にもらった力が、この絵本になったのだと思います」と、藤原さん。読み聞かせグループの活動で、この絵本を使うことも多く、子どもたちから「木が戦争しちゃいけんって教えてくれたんだと思う」という感想が寄せられた時は、うれしく感じたそうです。

「願うだけでは、平和は構築されません。私たちはどこにでもいる普通の主婦ですが、被爆樹木に出会い、絵本を作ることができました。きっと皆さんにも、自分にできる平和活動が何かあるはずです。この絵本を通じ、ひとつでも平和へのアクションを起こそうと思ってもらえたらうれしいです」。

自分にもできる平和づくり―。もしかしたらその“何か”を、被爆樹木の絵本が教えてくれるのかもしれません。




【問合せ】

『―被爆樹木の絵本― きっと きこえるよ』

ダブルミカ(藤原)

080-5238-1288

fujinoki93@gmail.com

販売サイト:https://voices-of-the-trees.jimdofree.com/

【関連記事」

木に会いに行く~広島から世界へ被爆樹木を~

https://hiroshimaforpeace.com/sending-trees-that-survived-atomic-bombing-from-hiroshima-to-the-world/

被爆樹木の物語を 多くの人に伝えたい

https://hiroshimaforpeace.com/sharing-the-story-of-a-bombed-trees-with-as-many-people-as-possible/

この記事に関連付けられているタグ