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国際平和拠点ひろしま

これが廃れてなくなってもいけん…
被爆者の想いや経験を後世へ残していくために




爆心地から約3km離れた二葉山で被爆した池尻博(いけじり ひろし)さん(2023(令和5)年4月、97歳で死去)は、自身の体験をもとに紙芝居を作って福山市内の小中学校などで講演を行なっていましたが、2021(令和3)年、年齢や新型コロナウィルス感染拡大を理由に勇退。福山市原爆被害者友の会の事務局長で、池尻さんの講演活動をサポートしていた植岡進次(うえおか しんじ)さんがその活動を受け継ぎました。


池尻さんの紙芝居を受け継ぎ、語り部活動を続ける植岡さん


福山市原爆被害者友の会は、前身である福山市原爆被害者の会が解散したのを受けて2015(平成27)年に発足。現在は被爆者17名を含む52名が在籍し、植岡さんを含む被爆二世が中心となって活動しています。

植岡さんが池尻さんと出会ったのは、母・淳子(あつこ)さんに付き添って会の集まりに顔を出すようになったことがきっかけでした。定年退職後、時間に余裕ができたことで事務局の手伝いをするようになり、講演への送迎など池尻さんの活動支援も始めたそうです。池尻さんが後継者として植岡さんを頼りにしたのは、自然な流れだったのかもしれません。

「私は語り部の教育も受けていませんが、池尻さんの絵と読み原稿があるし、「これが廃れてなくなってもいけんから(代わりに)してくれんか」という言葉を聞いて、代読ということならと引き受けました。」

講演に使用する資材すべてを受け継いだ植岡さんは、A4サイズほどの大きさの紙に手描きされた絵をパソコンに取り込み、広い会場でも見やすいようプロジェクターで投影する方法を新たに採用。13歳で被爆した淳子さんの被爆者健康手帳(原爆手帳)を持参し、見せながら体験談を紹介するなど、より被爆の実相が伝わるよう工夫をしています。


手描きの紙芝居は大切に保管され、描かれたばかりのように鮮やかなままだ


最近はウクライナやイスラエルなどの戦禍がテレビで流れ、戦争は決して過去の遺物ではないのだと痛感する機会が増えていますが、語り部活動も、戦争の怖さや悲惨さを自分ごととして捉えてもらうきっかけになっています。

「池尻さんは小学校で講演をするとき「皆さんと同じ小学校、当時の国民学校の生徒たちはどうだったのでしょう」と語りかけていました。「8月6日当日は、焼夷弾による火災の延焼を防ぐため建物を取り壊す「建物疎開」に13校から約1,760名の小学生が参加していて、約70%にあたる約1,255名が爆死しているんです。」と話すと、子どもたちはみんな真剣に話を聞いてくれます。」

友の会では、語り部の活動以外にも、池尻さんがずっと保管していた「被爆会報」を冊子にまとめ、福山市や広島市の図書館、平和資料館や原爆死没者追悼平和祈念館へ寄贈するなど、貴重な資料を後世へ残す取り組みを続けています。

原爆投下から79年目を迎え、被爆者はもちろん、その子である被爆二世の高齢化も進んでいる現状。被爆の記憶を継承し、恒久平和への想いをつなげていくことは、より困難になりつつあるのです。担い手不足により解散を余儀なくされる被爆者団体も少なくありません。

「この後どうすればいいんだろうという不安は、どの団体も持っていると思います。我々の会でもそうですが、二世の方々は親から原爆の話を聞いていない人がほとんどです。私も母から話を聞いたのは、亡くなる2〜3年前のことでした。悲惨な過去を思い出したくないとか、昔は差別もあり話せなかったんだと思います。それでも、大切な資料や、被爆者の皆さんの経験や知識は、後世へ残していかなければいけません。池尻さんの絵や原稿も、私が死んだらどうなってしまうか。個人が持っていたら、貴重な資料がなくなってしまう可能性が高いんです。まだ友の会として活動しているので今すぐ手放すつもりはありませんが、いずれは引き継いでくれる誰かに寄付するなどして、残していかなければいけないと思っています」。


母・淳子さんの被爆者健康手帳には、被爆当時の状況や検診・診察等の記録が細く記されている


原爆被害の記憶が風化してしまう危機感の中、戦争はいけない、戦争のない世界を作りたいという思いは誰もが抱いているはずですが、地球上から戦火が消える日はなかなか訪れません。世界平和を実現するために、何かできることはないのでしょうか。

「武力に頼って物事を解決するのはいけないことで、それはみんなわかっていると思うんですが…難しいですね。過去のことや現状など、皆さんに知っていただくことによって少しでも皆さんの考え方が変わり「こういうことをしよったらいけんのじゃ」と平和につながっていけばいいと思います。そういうことしかできないですよね。」

個々人ができるのは、種を蒔き、丁寧に水をやるような小さなことかもしれません。それでも、そうして地道にコツコツ続けることは、無駄なことではないはずです。


福山市原爆被害者友の会 事務局

e-mail:shinsatonorihiro@outlook.jp

〒720-0805 福山市御門町1-11-23

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