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国際平和拠点ひろしま

平和な国に住む僕たちが
次世代にも「平和」を紡ぐために(木下ゆーき)

木下ゆーき




長崎出身の祖父母の家で過ごした夏

 僕の父は長崎県出身です。

僕が子どもの頃、夏休みは毎年、長崎の祖父母の家で過ごしていました。そのため、子どもの頃から平和公園に行き、原爆資料館も見ていました。祖父から戦争の話、原爆で起こった話も聞いています。直接の身内に被爆者はいませんが、父から近所のおじさんが被爆されて背中にケロイドがあったという話は聞いていました。あとは祖父から、当時、佐世保に住んでいた祖父の父が、原爆投下直後に長崎入りして、その影響なのか、その後、病気で亡くなったという話も聞きました。





当時、こうした話を見聞きして、子ども心に戦争や原爆は、怖いもの、いけないことだと強く感じていました。当時は小学生くらいだったので、原爆の詳しい資料を見聞きしたり、人々の日記や手記などをしっかり読んだりしていたわけではありませんでしたが、原爆投下直後の焼け野原、被爆して真っ黒に焼け焦げた人や建物の写真を見て、視覚だけでも十分「悲惨だな」と痛烈に感じたのは覚えています。


広島移住で改めて感じた「平和」

僕は名古屋で生まれ育ち、結婚して子どもが誕生。名古屋は住みやすいのですが、「いつかは自然豊かな町で子育てをしたいよね」と常々、妻と話していました。

僕は15歳の頃から大道芸人として人前に立ち始め、19歳でお笑いの世界に入りました。トークができる大道芸人として認められ、全国各地でイベントの司会もしていました。毎年5月に、福山ばら祭りと同じ時期に行われている「ふくやま大道芸フェスティバル」にも総合司会として出演していたため、約10年前から毎年のように福山に来ていました。その時から、福山は自然がいっぱいあり、人も温かい素敵な街だという印象でした。

福山に住むことを決めたきっかけは、出川哲朗さん出演のテレビ番組『充電させてもらえませんか?』です。出川さんたちが電動バイクで走っていた「しまなみ海道」の景色がとてもきれいで、感動しました。しまなみ海道は、毎年仕事でお世話になっている福山に近いし、福山にはすでに仕事仲間などの繋がりもできていたので、福山に移住することを決めました。2020年のことです。当時はまだ子どもが2人で、長男が7歳、長女が1歳。その後、福山で次男が生まれました。

福山は車で30分も走れば海にも山にも行けるし、川もあります。その移動中の景色も素晴らしい。だからちょっとした移動時間も苦じゃないし、むしろ贅沢な時間だと感じています。これが都会だと、30分移動しただけでは、周りは建物ばかりで変化がないんです。福山の人って、この自然の豊かさに気づいていない人が多くて、移住の前後も「福山には何もないよ」っておっしゃるんですよね。とんでもない! 

福山に引っ越してきた当日、子どもたちを連れて近所の公園に行きました。空を見上げるとトンビとカラスが空中でケンカをしていました。まず、当時7歳の長男は「トンビとカラスがケンカをしている」というだけで大興奮。トンビとカラスは、ケンカを続けながら見えなくなるまで遠くに飛んでいきました。都会では、飛んでいる鳥や飛行機もすぐに建物で隠れてしまうのに、ここでは空が広いから鳥が小さくなって、見えなくなるまで見送れる……。その空の広さってすごいな、と。

空が広くて青い、山の緑が綺麗、その景色の素晴らしさは移住して4年目のいまも時おり感動します。豊かな自然を毎日目の当たりにできる。こんなに贅沢で平和なことはありません。


親になって感じた平和の尊さ

僕自身、子どもが生まれる前は未来のことなどは考えていませんでした。別にこの先の日本が、世界がどうなるかってことにも興味がなかった。その日その日だけが大切で、自分の幸せだけを考えていました。

しかし、子どもが産まれてからは、自分だけじゃなく、この子たちが育っていく世界がいい世界であってほしいと思うようになり、広島に住み始めると、さらに平和についていろいろ考えるようになりました。

現在、週に一度出演させていただいている中国放送の『イマナマ!』のテレビ番組内でもそうですが、広島は戦争関連、原爆関連の報道が、他の地域に比べて圧倒的に多いと実感しています。

先日、うちの息子が遠足で広島市の平和記念公園に行きました。事前に学校で原爆のこと、平和記念公園についての予習をしていました。名古屋では、小学生の時にはこれほど平和学習をしていなかったので、こうした広島の平和学習への取り組みの多さにも驚いています。このような環境は県民のみなさんの平和に対する意識の高さを育み、根付かせているのだなと感じます。

僕自身が親になってから広島の原爆資料館を訪れた際に抱いた感情は、子どもの頃、長崎で見た時や高校の修学旅行で広島の平和公園を訪れた時の印象と、大きな違いがありました。  

子どもの頃に長崎の原爆資料館で見た悲惨な写真や資料は、「悲惨」としか思えなかった。しかし、親になってしっかりと資料や写真を見ると、さまざまな現実が理解でき、その出来事は決して許されるものではないと改めて気づきました。

広島の原爆の写真や資料の中には、自分の子どもと同じ年頃の子どもが亡くなっていたり、妹を戦争で失った兄の思いなどもありました。それらを見るにつけ、つい自分の子どもたちと重ね合わせてしまい、胸が苦しくなります。

決して戦争は人ごとじゃないんだなと強く感じました。

これからも僕たちはずっと広島に住みたいと思っています。「子どもは親の背中を見て育つ」と言います。本当にそう思います。親が偏見や差別意識などを持っていると、子どももそうなります。だから僕自身が常に相手を思いやること、相手に対して尊敬や感謝の気持ちを持つこと、人間は、人種、国、性別、年齢は関係ないという姿を見せていきたいと思います。


平和な国に住む僕たちが考える「なんで戦争をするのか」

育児をする上で心がけていることは、僕自身が仕事や日常のことを子どもになんでも話すようにしていることです。例えば「今日は、仕事行きたくないな」とか、「今日、仕事で失敗しちゃったよ」とか。自分のネガティブな感情や正直すぎる愚痴を子どもに聞かせたくないと言う親が多いと思いますが、僕はあえて言うようにしています。

今、長男は小学5年生。例えばこの先、長男が友だちとケンカして「学校に行きたくない」という気持ちになった時、その気持ちを家族に話していいんだってことを知ってほしいからなんです。「学校に行きたくない」「友だちとケンカした」なんて、親には言いづらい。だけどそんなマイナスな感情を、家の中では爆け出していいんだってことを知ってほしくて、自分が率先して言っています。逆に仕事から帰った時、長男が「父ちゃん、今日ウケた?」と聞いてくることがあります。そんな時には「いや、スベったよ」と正直に話します。僕が仕事でうまくいかなかったってことは、子どもにとっては学校で先生に怒られたと同じような次元でしょう。それを話すことは恥ずかしいことでも、情けないことでもないと思ってほしい。

子どもが「今日、怒られた」って言えれば、親は「どうしたの?」って聞けます。「じゃあこうしたほうがいいかもね」と助言もできます。心の底の部分を言葉にしてアウトプットできないと、感情が溜まって辛くなる。そうならないように、日頃から家族の会話は多いです。逆に僕がウケた時には大袈裟に言っています。「今日はスタジオが揺れたよ」って。いろいろな思いや感情を共有できる家族がいることは、僕にとって最も大切なことだと感じています。

そんな親子関係を築いているので、当然のように世界で起きている戦争について、子どもと話したこともあります。子どもたちも、平和学習などを通じて「戦争は怖い」「やっちゃダメ」という意識が根付いているので、折に触れ、戦争は絶対ダメだよねって、平和への気持ちを根付かせています。

戦争や内戦で、空爆によって子どもが被害にあったというニュースを見ると、胸が締め付けられます。戦争はその国の偉い人たちが始めたことで、何の罪もない小さな子どもの命が失われたり、家族を失ったりするのは許せないことです。戦争をするには、偉い人にしかわからない事情があるのかもしれないです。けれど絶対にしちゃいけないこと。それなのになんでしちゃうんだろう。僕も疑問です。

国の偉い人たちが「もしかしたら自分の子どもが被害に遭うかもしれない」「自分の子どもが戦争で戦わなきゃいけなくなるかもしれない」「家族を失うことになるかもしれない」って想像したら、戦争を続けられないはず。なぜそんな想像力が働かないんだろう……。

例えば小さい子どもは、よくひとつのおもちゃを取り合います。「貸して」「いいよ」ができない。幼い子どもは、相手を思いやることができない時期があるので、おもちゃを取られたら、泣いたり、叩いて相手から奪ったりもします。戦争って、それと同じことをやっている気がします。

ひとつのおもちゃをふたりで遊べる方法を考えることはできないのか。暴力を振るう前に譲り合うことはできないのか。子どもの頃、誰もが大人からそう教わったはず……。大人も子どもも、一つの国をまとめる偉い人も、相手の気持ちを知ること、相手に対する思いやりの想像力を働かせることが大事ではないかと、子どもを見ていると感じます。

日頃、子どもから「どうして〇〇なんだろう」「これって何?」と聞かれた時、以前の僕は「それは〇〇だよ」と結論を教えていた時期がありました。聞かれたから答えていただけなんです。でも、ある時妻が、「どうしてだと思う?」と子どもに聞き返したことがありました。その時、僕は妻から「子どもに直接答えを教えるのではなく、もっと考えさせたほうがいいんじゃない?」と教わって。確かにそれって大事なことだなと気付かされました。

それ以来、すぐに答えを教えるのではなく、ヒントを与えながら考えさせるようにしています。「どうしてそうだと思う?」と聞かれると、子どもは自分なりの仮説を立てた上で、調べたり、考えたりできます。結果としてその方が知恵として身につくはずです。そしてなんでこうなるのかなど、想像力を働かせることができます。

 特に現代の子どもたちって、インターネットですぐに調べられるので、すぐに「答え」を求めがちです。「答え」を知るだけで満足し、なぜそうなるかという過程を調べなかったりします。それって、「どうしてだろう」「なんでこうなるんだろう」と考え、想像する機会を失っている気がします。

 想像力を持つこと、相手の気持ちを考えること。それは人との関係を育むために最低限必要なことですし、そうした思考や習慣の積み重ねがあれば、きっと世の中から争いごとがなくなるのではないでしょうか。

「なんで戦争をするの?」

平和な国に住む僕たちが、次世代を担う子どもたちと一緒に考えることが大事だと感じています。


次世代にも平和な日々を

子どもたちには差別や偏見を持ってほしくないので、世界中に友だちを作ってほしいと思っています。

先日、家族で大久野島に泊まりに行った時、アメリカのフィラデルフィアから来ていたご家族と仲良くなりました。長女は同い年の女の子と意気投合して、言葉は通じないけれど、手を繋いで一緒に走り回っていました。最後には子ども同士でハグしてバイバイ。

こうやって世界中に友だちがいたら、その国の人と戦争しようと思わなくなるはずです。だから子どもたちにはいろんな国の友だちを作って仲良くなってほしい。そして広く温かい視野を持ってほしいと願っています。


Profile

木下ゆーき(きのしたゆーき)

1989年3月、愛知県生まれ。タレント、SNS総フォロワー数70万人超えのインフルエンサー。元シングルファーザーで現在は3児のパパ。チャイルドカウンセラー資格保有。著書は「#ほどほど育児」「世界一楽しい子育てアイデア大全」。

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