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国際平和拠点ひろしま

被爆経験を原点に救済への願いを描く 平山郁夫《広島生変図》

平山郁夫《広島生変図》1979年 広島県立美術館蔵

真っ赤に燃える広島の街と、炎の中から街を見下ろす不動明王。広島出身の画家・平山郁夫(ひらやま いくお)の《広島生変図》(1979年広島県立美術館蔵)を写真で目にすると、凄惨なイメージを持つ人も多いでしょう。しかし、実際に絵の前に立つと、また違った印象を抱くのだと、広島県立美術館主任学芸員の神内有理 (じんない ゆり) さんは言います。

「《広島生変図》は横3m64cm、縦1m71cmと大きな作品なのですが、画面のほとんどが炎の赤で埋められています。でも、そこには金色の火の粉が細かく描き入れられていて、その火の粉が不動明王のほうに向かっているように見えます。不動明王といえば憤怒の表情で知られていますが、この作品のお不動さまは、憤怒の中に深い悲しみを湛えた表情が印象的です。不動明王に向かう金色の火の粉は、人々の魂を表す、鎮魂の意味を持っているのかもしれません。」

広島出身の画家  平山郁夫 氏(1930年-2009年)

平山氏は広島県の生口島で生まれ育ち、広島市内の修道中学校に入学。中学3年生のとき、勤労作業中に被爆しました。偶然にもB-29が落とした白い落下傘を目撃し、それを友人に教えるために小屋に入っていたため、奇跡的に助かったといいます。《広島生変図》は、終戦から34年後に、平山氏が唯一描いた原爆の大作です。

平山氏は著書の中で次のような言葉を残しています。

「“あの日”私は生きた。生き残った。それは有難いことです。でも、それは私にとって、何かを償わなければならない決定的な罪を負ったことではなかったのか」(平山郁夫『悠久の流れの中に』1993年)

《広島生変図》は、原爆から生き残った平山氏が、自らの生の意味を問い続け、ようやく描くことができた作品です。「平山自身が、この作品の中に“救済”を求めていたのでしょう。」と神内さんは語ります。

「私が原爆を描く機会があるとしたら、それは絵かきとしてではなく、あの原爆の日を生き、原爆の日に多くの友を失った一人の人間として、描くことができるようになった時だと思ってきました。その絵は死んだ人々と私自身、そしてこの狂気の兵器を生み出した同時代の人びとの贖罪と救いを願う絵にならなければならない」(平山郁夫『群青の海へ-わが青春譜』1988年)

広島県立美術館主任学芸員の神内有理 さん

被爆後、平山氏は転校し、大叔父であり彫金家の清水南山の家に下宿しながら竹原市の中学校に通いました。その後、数十年にわたり、広島市内に足を踏み入れることさえ避けていたといいます。《広島生変図》を描いたときは、テレビ番組で平和記念公園に行くという企画があり、平和の灯の炎を見たときにイメージが膨らみ、帰りの東京までの新幹線の車中で構想を練ったそうです。

「平山は、《広島生変図》だけでなく、平山の芸術そのものが、『戦争で死んでいった人々への供養』だと綴っています。」と神内さん。



南山の勧めで東京美術学校(現東京藝術大学)日本画科へ進み、画家として歩み始めた28歳の頃、平山氏に白血球の数が人の半分しかないという原爆後遺症が発覚します。死の影に怯え、絶望した平山氏は、「死ぬ前に一枚でもいいから、心に残る絵を描きたい」と、玄奘三蔵がインドから中国へ経典を持ち帰る帰途を描いた《仏教伝来》(1959年 佐久市立近代美術館蔵)を描きました。

そこから仏教画題を描くようになり、やがてシルクロードへの関心を深め、亡くなる直前までの約40年間、シルクロード各地を訪れては作品を描きました。そして後年は広島の嚴島神社を描くなど、日本の神社仏閣も盛んに描き、シルクロードの終着点である日本の美を再発見しています。

瀬戸内の海の彼方を眺めた幼少時代から、被爆を経験し、シルクロードと日本とを行き来して比較する中で、日本ならではの美を見つめていく。日本画でシルクロードを表現するということ自体がかつてなかった時代に、高い視座から独自の作品を生み出し続けた平山氏の人生と芸術の原点が、平和への願いだったのです。

広島県立美術館では、毎年夏に平山郁夫の《広島生変図》を展示しています。その他、館内のウェルカムギャラリーで県立美術館が所蔵する平山氏の作品が見られます。

広島の平和への想いをつなぐ作品を、「ぜひ多くの方にご覧いただきたいと思います。」と語ってくれました。

広島県立美術館

TEL:082-221-6246

住所:広島市中区上幟町2-22 

時間:9:00~17:00(入場は閉館の30分前まで)

2023年4月1日~9月24日の金曜日は20時まで開館

9月25日~3月31日の金曜日は19時まで開館

休館:月曜日、年末年始(12/25~1/1)

※祝日・振替休日を除く。特別展によっては会期中無休

HP:https://www.hpam.jp/museum/

【所蔵作品展 】

第2期 サマーミュージアム

魔法の広島県立美術館/縮景園連携企画

7月6日(木)〜9月10日(日) ※上記期間中、『広島生変図』展示予定

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