当サイトを最適な状態で閲覧していただくにはブラウザのJavaScriptを有効にしてご利用下さい。
JavaScriptを無効のままご覧いただいた場合には一部機能がご利用頂けない場合や正しい情報を取得できない場合がございます。

国際平和拠点ひろしま

【インタビュー】核兵器禁止条約

   

    

2017年に採択された「核兵器禁止条約(TPNW:Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons)」が2020年10月に批准国が50か国に達したことにより、2021年1月22日に発効することが決まりました。TPNWについて、まずは長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA)准教授の中村桂子先生に話を聞きました。

 

TPNWの批准国が2020年10月24日に50か国に達成したことを祝し,原爆ドーム前で開催されたイベント

   

    

核兵器禁止条約とはどういうものですか?

       

「名前の通り、核兵器を全面的に禁止した初めての国際条約です。何を禁止しているかというと、核兵器を持つこと、作ること、使うことなど。核兵器を持っていなくても同盟国の核を自国に配備することや、自分たちを守るため『核兵器を持って』とお願いすること、使うために協力したりすることも禁止されています。

 核兵器の使用や核実験で被害を受けた人々の権利が明記されている点も条約の特徴です。条約に入った国は、自国内にいる被害者を援助し、核兵器で汚染された地域の環境を回復することが義務付けられています。核兵器を使用したり核実験を行ったりした国にも、援助を提供し、環境を回復する責任があるとしています。

また、核保有国がこの条約に入る場合は、どういうプランで核兵器ゼロを実現するか、それを提示して実施の約束をすることが定められています」

     

       

「核兵器不拡散条約(NPT)」「包括的核実験禁止条約(CTBT)」とは何が違うのですか?

       

「核兵器に関し、いま世界でもっとも大きな国際法の枠組みはNPTで、国連の加盟国のほとんどに加え5つの核保有国も加入しています。NPTとTPNWの一番の違いは、核兵器を完全に否定しているか否か。核兵器廃絶をゴールにしているという点では同じですが、NPTは保有国に対して『いつかはゼロに』と定めているものの、ある意味現状を容認しています。

 CTBTもあくまで核爆発実験の禁止であって、核兵器の保持や使用などの禁止を定めたものではありません。今回,TPNWが発効されたことでNPTもCTBTも不要になると思いがちですがそれは間違いで、現状行き詰まりをみせている核軍縮を前進させるため、TPNWは新たな風を吹き込む役割を担います。TPNW、NPT、CTBTなど、さまざまな法的枠組みをうまく連携させて、核兵器廃絶を成し遂げることが重要なのです」

       

        

日本国を含む“核の傘”に入っている国はどうして条約を批准しないのでしょう?

        

「TPNWが『核抑止によって安全や平和が守られている』という幻想を否定しているからです。核の傘に入っている国は、自分の国の安全を守るためには同盟国の核兵器が不可欠であり、それがなければ丸腰になって自分たちがやられてしまうと信じています。しかし「核の傘」が鉄壁の守りというのは思い込みです。私たちの安全を守るどころか、地球上に核兵器があるかぎり、誤って発射されることも含め、いつ使用されてもおかしくありません。

TPNWは核兵器保有などへの援助・奨励・勧誘を禁止しているので、米国の核の傘に頼っている日本も北大西洋条約機構(NATO)もこれに賛同することは自分たちの立場を否定することになってしまいます。NATOの一部の国にはアメリカの核が配備されているので、これもTPNWの配備の禁止に違反します。

 『TPNWは核保有国が加入してないから意味がない』という意見もあります。これは半分は正しく、半分は的外れです。確かに、核保有国自身が減らそうとしなければ、核兵器は一つもなくなりません。しかし、TPNWの真の狙いは、『核兵器は国際法違反の非人道兵器』というメッセージを世界に訴え、核兵器に対するイメージを変えていくことにあるからです。核保有国がすぐに賛同しないのは織り込み済み。“核兵器=悪”という価値観が徐々に浸透することで核廃絶の機運が高まり、核保有国や核の傘国への圧力となって、核廃絶に向かわせることを目指しています」

     

     

私たちができるアクションはあるでしょうか?

       

「一番の問題は、この条約の存在も条約が発効されるという事実も多くの人に知られていないことです。広島や長崎は核問題に対する関心が高いエリアですが、他地域では驚くほど話題にされていません。だからまずは核問題に関するニュースを調べてみたり、SNSを使って拡散したりしてもらえればと思います。2020年には日本でもBlack Lives Matterが話題になりましたが、著名人を含め多くの人が取り上げることで『これは重要そうだ』と関心が大きく広がりました。みなさんも新型コロナウイルスの感染拡大を経て、これまで当たり前であった社会の常識や日常の生活がどれだけ簡単に覆されてしまうかを痛感されたと思います。今は核兵器のある世界が当たり前ですが、数年後には『核兵器を持つなんてダサい』『核兵器廃絶について語るのはカッコいい』という世の中になるよう、一緒にイメージ作戦を展開してもらえればと思います」

 

 

続いて広島県の平和推進プロジェクト・チーム担当課長に、広島県はTPNWにどういう立場をとっているか話を聞きました。

 

「広島県としてTPNWは、核兵器のない平和な世界の実現に向けた有効な手段のひとつであり、核兵器廃絶に向けた大きな一歩だと認識しています。ただ、日本政府は条約に批准しないと表明しています。国としての立場があることは承知していますが、県としては日本政府に署名・批准への要望書を提出し、条約発効後の締約国会議へのオブザーバー参加も要請しています。

 核兵器廃絶の機運を高めるため、2019年広島県はこのウェブサイト『国際平和都市ひろしま~核兵器のない世界平和に向けて~』を立ち上げ、独自のコンテンツ発信をはじめました。まずは多くの人に核問題について興味を持っていただき、賛同していただきたいのです。ホームページには私たちの活動はもちろん、他団体の取り組みも紹介しているので、できるところから一緒に行動してほしいと思います」

      

       

     

核のある世界とこれからを考えるガイドブック(法律文化社刊)

中村桂子著

「なぜ核兵器はあるのだろう」という素朴な疑問からはじまり、「核がないこれからの世界」をどうしたら創っていけるのかを考えるための基礎的思考力を身につけるためのガイドブック。

     

      

長崎大学核兵器廃絶研究センター 准教授

中村 桂子(NAKAMURA, Keiko)

2012年4月のRECNA開設にともない、長崎大学に赴任。2012年3月までは特定非営利活動法人ピースデポ(横浜)の事務局長として、核軍縮・不拡散問題に取り組んでいた。

     

この記事に関連付けられているタグ