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国際平和拠点ひろしま

【インタビュー】「平和における情報の重要性と情報企業の果たす役割」について

「スローニュース」




ビジネスと平和貢献のあり方との関係を多面的に議論する、「世界平和経済人会議ひろしま」。第8回目となる2023年4月の開催では「ウクライナ侵攻後の国際社会経済とビジネスによる平和貢献」と題し、真に平和で持続可能な国際社会実現に向けての議論が行われた。今回は、「平和における情報の重要性と情報企業の果たす役割」について、セッション1に登壇いただいた、スローニュース株式会社社長の瀬尾 傑(せお まさる)氏に話を聞いた。


●事業内容と事業にかける思い


健全な民主主義の発展に、ジャーナリズムは欠かせない存在です。中でも、ジャーナリストが時間をかけて調べ、責任をもって報道する「調査報道」は極めて重要な役割を果たしてきました。真実を追求し、客観的な情報を伝えることで、市民は適切な情報を得ることができ、自己の意思決定や政治参加に基づく判断が可能となるのです。また、調査報道は社会的な問題や不正行為を浮き彫りにします。公共の関心を喚起することで、社会の意識が高まって、問題解決や改革のための行動が促進されます。


しかしながら、調査報道は前述したような特性を持つため、記事として世に出るまでに大変な時間とコストがかかります。デジタル化によってメディアのビジネスモデルが変化していく中で、負担が大きく、その維持が困難になっています。その調査報道を次世代に引き継いでいこうと立ち上げたのが弊社です。


具体的には、調査報道を行うジャーナリストを育てること、丹念な取材に基づいて得られたスクープを発信すること、新聞やテレビ、雑誌などから探した本当に良質な情報を届けることなど、調査報道の「エコシステム」をつくるために様々な活動を行っています。


そのひとつとして、調査報道に取り組むジャーナリストやフリーライターへ取材費を支援したり、作成したコンテンツを配信するために、「SlowNews」というサイトを運営しています。ここでは、調査報道のつくり手やそれを応援したい人が集まるコミュニティを運営しています。SlowNewsの連載から書籍も20冊近く生まれており、そのひとつ、ノンフィクション作家伊澤理江(いざわ りえ)さんの『黒い海 船は突然、深海へ消えた』(講談社刊)は、今年の大宅壮一ノンフィクション賞、講談社 本田靖春ノンフィクション賞、日本エッセイスト・クラブ賞を受賞しました。


大宅壮一ノンフィクション賞授賞式にて

SlowNewsが協力した『黒い海 船は突然、深海へ消えた』著者の伊澤理江さん


われわれは、取材において「オープンデータウォッチ」というデジタル社会に即した手法も取り入れています。これは開示されている公の情報を分析し、「国や行政は何を見せたいのか、あるいは何を見せたくないのか」ということを調査します。ジャーナリストの育成においては、こうした手法を教えたり、災害現場で何を取材してどう伝えれば被災者の役に立てるかを考える防災報道についてのノウハウを共有していきます。これまで取材スキルは各々のメディアで有してきましたが、今後は共有していくことが大事です。当たり前ですが、きちんと取材することが、不当な人権侵害や名誉毀損の回避につながります。しかし、テレビ番組の発言を書き起こしただけで書いた「こたつ記事」を粗製乱造するメディアもあります。ネットの仕組みの中では、スピードを競い、怒りや悲しみばかりを刺激する「ファストニュース」が溢れています。それに対し、私たちはじっくりと取材して発信することに意義を見出す「スローニュース」を社名に掲げ、ビジネスの仕組みを変えたいという狙いで活動しています。


●「平和における情報の重要性と情報企業の役割」について課題と解決策


ファストニュースや、もっと悪質なフェイクニュースが流れる現代で重要になってくるのが、情報リテラシー(世の中にあふれるさまざまな情報を適切に活用できる能力)の向上です。


インターネットが登場したことで情報の伝え方、伝わり方は劇的に変化しました。若い世代は学校現場で情報を適切に処理し、活用するための教育が受けられますが、そんな環境から離れた高齢者などには、情報リテラシーの向上を促すことは難しいのです。ある調査では、インターネット上で流れる陰謀論のような偏った説を信じてしまうのは、高齢者層に多いという結果が出ています。生成AIによって、画像も音声も簡単にフェイクが作れてしまうようになった現代では、より高い情報リテラシーが求められます。情報リテラシーの向上のために、行政などによるいっそうのサポートが必要だと考えられます。


また、情報を流すプラットフォーマー側の社会的責任や企業倫理も極めて重要です。情報が事実に基づいたものか、適切なアルゴリズムが適用されているのか、プラットフォーマーが利用者に約束することが大切です。報道機関についていえば、最近では「マスゴミ批判」といった言葉も見受けられ、メディアに対する信頼度の低さが伺えます。情報はかつて一方通行のものでしたが、最近ではメディア自体も受け手からチェックされるようになりました。批判をきちんと受け止め、改善していこうとする真摯な姿勢が必要です。


政府の情報開示の不透明さは、フェイクニュースや陰謀論の温床になります。国や行政は、透明性のある情報開示、のちに検証が可能な記録として残る情報の扱いを行うことが大事です。ロシア・ウクライナ戦争においては、かなりの情報操作が行われました。プロパガンダ(特定の主義・思想についての宣伝)もそうですが、フェイクニュースが流れるパターンは3つあり、ひとつがフェイクニュースで儲けようとする人、もうひとつが面白いと感じたり、あるいは善意からフェイクニュースを広げてしまう人、そして最後が政治的意図や社会の混乱を目的にフェイクニュースを流す人です。


こういった世の中において、それぞれが情報リテラシーを高めるのはもちろんのこと、何より大事なのは「自分もだまされてしまう存在かもしれない」と認識することが肝要です。「自分はリテラシーが高いから絶対にだまされない」と思い込んでしまうことこそ危険です。自分はだまされうる存在だと認めた上で、与えられた情報にすぐに飛びつかない、時間をかけて真実を見極めようとする行動が必要になってきます。どちらが悪でどちらが正義と決めつけてしまう余裕のなさ、あるいは「論破」といった言葉に代表されるような他者を切り捨ててしまう姿勢は、世の中の複雑さから目を背けさせ、真実から遠ざけます。仮にフェイクニュースにだまされる人がいてもノイズとしてのりしろの中に吸収してしまえるようなゆとりを持つ、それが叶えられるのが、偽情報に本当に強い社会と言えるのではないでしょうか。


●広島に期待すること


2023年5月に開催された「G7広島サミット」は、各国の首脳たちが平和記念資料館を訪れるという、歴史的に大きな意味を持つイベントになりました。各国の首脳たちはそれぞれに何かを感じただろうし、有意義な情報も得られただろうと思います。そして、それらが世界中へ発信されたことで、絶大な社会的インパクトと影響を与えました。サミットが実現し、成功した背景には、広島という土地の風土とそこで暮らす人々の想いや考えが大いに関係していたと感じます。例えば、もしも広島の人たちが、過去の出来事に強い遺恨を残していたならば、決してあのように他国の首脳たちを歓待することはできなかったでしょう。戦争の惨禍という歴史的事実は受け継ぎつつも、前を向く姿勢や、未来への平和を築こうとする強い想いがエネルギーになっているのだと感じます。平和記念公園の原爆死没者慰霊碑には「安らかに眠って下さい 過ちは繰返しませぬから」という言葉が刻まれています。この言葉には「主語がない」という批判もありますが、だからこそ誰もがこの言葉を自分ごととして捉えられているのではないでしょうか。


ビジネスと平和のあり方との関係を多面的に議論する「世界平和経済人会議ひろしま」は、大変現実的でチャレンジングな取り組みだと、当初から注目してきました。平和を構築するにあたっては、“想いを受け継ぐ”のももちろん大事ですが、ビジネスの側面からそれを持続できるものとすることが極めて重要になってきます。経営者がステークホルダー(利害関係者)として、平和を大切にすることに取り組み、サステナブルな社会を求めていくことが、真の平和の実現につながります。ロシア・ウクライナ戦争による物価の高騰などをあげるまでもなく、世界で起こっていることが、私たちの生活に直結するのです。どうか今後も、経済という観点から平和を捉える「世界平和経済人会議ひろしま」を、長く続けてくれるよう期待します。そして、先述したような広島という土地が持つ歴史や人々の想い、復興への力などを強いメッセージとして込め、若い世代にも伝えていってほしいと願います。


スローニュース株式会社

代表取締役社長

瀬尾傑

▶世界経済人会議については こちら

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