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国際平和拠点ひろしま

[インタビュー] 「積極的平和」と「SDGs」への取り組み 『住友林業』

 ビジネスと平和構築のあり方との関係を多面的に議論した「2020世界平和経済人会議ひろしま」の参加企業から、今回は住友林業株式会社の取り組みを紹介する。今回はサステナビリティ推進室長の飯塚優子(いいづか ゆうこ)氏にお話を伺った。

●会社としての考え方
 住友林業の創業は1691(元禄4)年、愛媛県・別子銅山(べっしどうざん)の開坑にともない、坑道の坑木や銅の製錬に欠かすことのできない薪炭用の木材、建築用木材などを調達する「銅山備林」の経営がはじまりです。ただし、長い歴史の中では苦い経験もありました。銅製錬による煙害や森林の過剰な伐採によって周辺の山々が荒廃し、地域の農民の方々が一斉蜂起するという事態を引き起こしてしまったのです。そうしたことへの反省から、1894(明治27)年、「大造林計画」を樹立しました。多い時には年間200万本以上の杉やヒノキを山に植林し、山々は豊かな緑を取り戻したのです。

明治期に荒廃した別子銅山[住友史料館所蔵]

現在の別子の山並み

 このように私たちは、ビジネスを行うことが周辺の環境や人々に大きな影響を与えてしまう可能性があることを身をもって学んできました。弊社は現在海外でも事業を進め、ニュージーランドやインドネシア、パプアニューギニアに約23万ヘクタールの森林を保有・管理しています。そこでも私たちは「地域の人たちと一緒に発展していくのが林業」という考えの下、道路を整備したり、学校や診療所を作ったりと現地の環境にプラスの影響を与えることを意識しながら事業を進めています。

 さらに弊社は林業を生業にしていることで、木を植えて、育てて、伐採して使用したらまた植えるという循環型の考え方を企業理念の根幹に据えています。たとえばヒノキは植えてから伐採まで80年近くかかりますが、会社を経営していく上でもこうした長期的視点は欠かせません。地域社会に対する影響を考慮しながらビジネスを進めていくこと、そして長期的に持続可能なビジネスモデルを構築すること……「世界平和経済人会議ひろしま」でも重要なテーマとなったSDGsという概念は、創業以来ずっと弊社の中で息づいていたものなのです。

 現在私たちはSDGsに関する取り組みを各事業部の具体的な数値目標に盛り込むことで、より現実的に目標を達成していこうとしています。目の前の業務を推進していくことがそのままCO2の排出量削減や産業廃棄物の量の縮小につながるような、そうした仕組みづくりを進めています。

●近年の取り組み
 世界では2015年のパリ協定以降、気候変動に対する関心が増し、国だけでなく企業がどれだけそこに貢献できるか、社会から大きな期待を寄せられるようになりました。そんな中、地球温暖化の主な原因のひとつと見なされているのが森林減少の問題です。弊社も現在の気候変動に対して何ができるのか、積極的に話し合う機運が高まっています。

 私たちは1975年に国内注文住宅事業を開始しましたが、たとえばゼロエネルギーハウス(断熱性能の向上や太陽光発電などの導入で、年間の一次エネルギー消費量がゼロになることを目指した住宅)の供給を増やすことでCO2排出量の削減に貢献できます。また、木材の内部には炭素が固定されるので、木造の建物を増やすこと自体が炭素排出の抑制につながります。こうしたことから私たちは今、住宅だけでなく幼稚園や老人ホーム、コンビニエンスストアといった非住宅の木造化・木質化も積極的に推進しています。

 一方、社内ではこうした気候変動への対策として森林や木材がどれくらい役に立つか、見える化していく作業も進めています。弊社社員は誰もが森林の持つポテンシャルを感覚的には理解していますが、たとえば木のぬくもりや調湿機能などだけでなく、「家一棟を木で建てたら環境に対してこれくらい貢献できる」と数値化できれば、営業もより自信をもってそうした製品を提案できますし、顧客もより納得してその製品を選ぶことができます。森林の持つ価値をみなさんにご理解いただく努力も含め、弊社が気候変動に対して貢献できることは数多くあると感じています。

●次世代に対する啓発活動
 森を守っていくことを考えると、次世代の人たちに森の重要性を伝えていく行動も欠かせません。弊社は1998年より「富士山まなびの森」プロジェクトをスタートさせました。これは台風で被害を受けた富士山麓の国有林を再生させていこうとする100年がかりのプロジェクトですが、この事業を成功させるためには私たちの世代だけではだめで、次世代の人たちに手伝ってもらう必要があります。私たちは地元の富士宮市内の小学校の生徒約1,000人に自然林と人工林を歩いてもらい、森について学んでもらう活動を毎年行っています。

目隠しをしながら木の表面を触って名前をあてるゲーム

 またここ広島では原爆の被害を免れたサクラである広島市指定天然記念物「エバヤマザクラ」を後世に引き継ぐため、広島大学附属高等学校の生徒たちと共同で同木の組織培養による増殖に取り組みました。(2012年10月増殖に成功)増殖に成功したエバヤマザクラは広島市江波地区の公園に植樹したほか、東日本大震災の被災地である福島県の高校にも寄贈されました。

●広島への想い
 原爆投下後の広島の街は「75年は草木も生えない」と言われました。しかし今、広島の街は緑にあふれています。弊社も荒廃してしまった別子銅山周辺を大造林計画によって回復させた歴史があります。やはり一見不可能と思われる事柄を可能にするのは人々の想いであり、情熱、パワーなのです。そして広島という都市は「強い想いがあれば一見不可能だと思われる事柄でも成し遂げることができる」というメッセージを全世界に向けて発信できる資格のある街だと思います。SDGsの達成に向け、ひとりひとりが何ができるのかを考え、実行に落とし込んでいく過程の中で、もっとも重要なのはそれを真剣に希望する人の心です。ぜひ広島県には、あきらめることなく理想を追求することの意義や重要性を率先して訴えてほしいと思います。

住友林業株式会社
サステナビリティ推進室長 
飯塚優子

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