Event Report HICARE【Event Report】被爆の研究とみなさんの生活
令和2年2月22日(土)に広島国際会議場にて,HICARE主催の講演会「被爆の研究とみなさんの生活」がありましたので報告します。(報告者:広島県平和推進プロジェクト・チーム職員)
1 HICARE(ハイケア)とは
今回の講演会を主催したHICAREは,放射線被曝者医療国際協力推進協議会のことをさします。
HICAREの発足は1991年4月になります。HICAREは,1986年に起こったチェルノブイリ原子力発電所事故をきっかけに,世界の放射線被ばく者に対する医療面での支援をオール広島の関係機関が協力することを目的に発足しました。HICAREの活動は,研修生の受入,専門家の派遣,IAEA(国際原子力機関と連携),福島第一原子力発電所事故への対応(注1)など多岐にわたっています。
注1:HICAREウェブサイト参照(http://www.hicare.jp/) (令和2年2月25日閲覧)
2 講演内容
今回の講演は二部構成になっており,第一部では放射線影響研究所の丹羽理事長が,第二部では広島大学原爆放射線医科学研究所の田代所長からお話がありました。
(1)放射線影響研究所の研究〜健康影響の実態〜
講師:公益財団法人放射線影響研究所 理事長 丹羽 太貫氏
公益財団法人放射線影響研究所は,1975年に発足した日米両国政府が共同で運営管理する研究所です。丹羽氏から研究所の定款について話がありました。研究所の定款第3条には,次の文言が記されています。
「この法人は、財団法人「放射線影響研究所」の設立に関する日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の交換公文(1974年12月27日、東京。議事確認を含む。)に基づき、両国の政府の支援により設立及び運営が行われるものであり、平和的目的の下に、放射線の人に及ぼす医学的影響及びこれによる疾病を調査研究し、原子爆弾の被爆者(以下「被爆者」という。)の健康保持及び福祉に貢献するとともに、人類の保健の向上に寄与することを目的とする。」(注2)
つまり,サイエンスの調査研究と人道的な健康保持及び福祉の両方の側面がこの研究所の目的になっています。このことを実感されたのは福島での原発事故の対応にあたられたときということでした。研究所が培ってきた調査研究が社会に役立つためには,人道的観念が必要であると考えられているそうです。
また,放射線影響研究所の研究(前身である原爆傷害調査委員会(ABCC)含む)は,被爆者の方々の協力なしにはできなかったことであり,当時の研究結果が現在,活用されていることや被爆者の方々への謝意を述べられていたことも印象的でした。
注2:公益財団法人放射線影響研究所,定款 https://www.rerf.or.jp/uploads/2017/07/aij.pdf (令和2年2月25日閲覧)
(2)原爆放射線医科学研究所の研究〜医療への応用〜
講師:広島大学原爆放射線医科学研究所 所長 田代 聡氏
原爆放射線医科学研究所は広島大学に唯一ある附置研究所で,大学に付属する研究所として,放射線医科学分野において国内最大の規模を誇っているそうです。研究所には被爆資料をデータベース化する社会学的セクションがあるというのも特徴の一つであり,被爆資料が古くなっていく中で,後世に資料を残すためデータベース化を強化しているそうです。
また,爆心復元調査やその調査を基にした研究であり,爆心地から半径500メートル以内の生存者を研究した近距離被爆生存者に関する総合医学的研究についての紹介がありました。
また田代氏からは1年間の被ばく線量についてもお話がありました。日本の1年間の被ばく線量は世界平均と比較して高く,これは医療被ばくが多いことが理由だそうです。(※3)医療被ばくが多い理由としては,CT等の普及率の高さを挙げられていました。田代氏はCTの医学的メリットを忘れてはいけないということもあわせて言われていました。CTが普及したことにより,よい良い治療ができており,日本の寿命の長さにつながっているとのことです。一方でCTの被ばく線量を下げる取組も行われているという話もありました。
※3 環境省,放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料
https://www.env.go.jp/chemi/rhm/h30kisoshiryo/h30kiso-02-05-03.html (令和2年2月25日閲覧)
3 私たちにできること
- HICAREの取組を知る
まずは知ることから始めてみませんか。HICAREの事業だけでなく,放射線について,人体影響についても知ることができます。
HICAREのウェブサイト:http://www.hicare.jp/
- 原子力の平和利用について知る
NPT(核兵器不拡散条約)では,NPTで定められた核兵器国には核軍縮を誠実に交渉することを義務付け,また非核兵器国には原子力の平和利用を「奪い得ない権利」として認めています。原子力の平和利用において核セキュリティの取組が重要になってきます。広島県が毎年発行している「ひろしまレポート」では,各国の核セキュリティの取組を調査し評価しています。例えば,核セキュリティ・原子力安全に係る諸条約などへの加入,参加,国内体制の反映などを調査しています。
各国が原子力を平和利用するためにどのような取組を行っているか知ることから始めてみませんか。
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