原子爆弾について
2020年は広島・長崎に原子爆弾が投下され75年目となります。
「広島県史 原爆資料編」に掲載されている原爆に対する国際的反応:海外の新聞論調を紹介します。1945年8月6日に広島,8月9日に長崎に投下された原子爆弾について海外の新聞はどのように報じたのでしょうか。
本県が進めている国際平和拠点ひろしま構想の趣旨と合致しない論調も含まれますが,原子爆弾投下を海外でどのように伝えたか知っていただくため 「広島県史 原爆資料編」に掲載されている新聞論調をそのまま掲載しています。
原子爆弾について
昭和20.8.13 解放日報
[東洋文庫蔵]
問‥
編集者殿・・
この2,3日の新聞は,大きな紙面を使って,原子爆弾についてのニュースをのせていますが,われわれは,この爆弾がどんな形をしているのか,その製造の原理および過程はどのようであるのか,どうしてそんなに大きな威力をもつのか,戦争に対して,結局のところ,どのような影響力を及ぼすものであるのか,といったことについて,まだよくわかりません。ついては,これらの点について,お答え願えないでしょうか。
敬具
8月10日
読者 喬明生より
答・・・
原子爆弾は,ちょうど,子供たちが遊びに使う小さなボールくらいの大きさのものです。しかし,その爆発力は,これまで戦争で使われた最大の爆弾にくらべても,何千倍もの力をもっています。これは,全く新しい種類の爆弾なのです。——この爆弾に装填されているのは,爆薬ではなく,ウラニウムとよばれる放射性金属です。それは,爆薬の化学変化を利用して爆発を起こさせるのではなく,主として……(3字判読不能)……原子能……(2字判読不能)…放射される………(19字判読不能)……里以内の建造物と生物とは,すべて損傷を受けます。
「原子能」に関する研究の始まったのは,1896年にベックレル(Becquerel)がウラニウム化合物の放射線を発見したときからで,それ以来すでに50年になろうとしています。この間,キュリー(Curie)・ラザフォード(Rutherford)・ボーア(Bohw)らの科学者の研究によって,少なからぬ価値ある発見がなされましたが,しかし,医療上での利用?の…(1字判読不能)…用を除けば,その他の研究はみな実験室の範囲をこえるものはありませんでした。原子爆弾………(17字判読不能)……………それは,戦争に一つの空前に巨大な殺傷力をもった武器を供給したというだけではなく,人類の原子世界征服に最初の礎石を据えたものです。
しかし,原子爆弾は決して万能の武器ではなく,それ自身なお欠陥を持っています。現在われわれがすでに知っている材料から判断しても,少くとも次のような点を指摘できます。——まず,この種の爆弾を製造する原料は非常に少ないということです。ウラニウムは,世界的に稀有の金属の一つで,ソ連のウラル地方とチェコとに,埋蔵量が比較的豊富なだけで,アメリカ南部のコロラド州(4字不明推量)の埋蔵量は,そう多くはありません。(今回,アメリカが原子爆弾を製造するために用いた原料は,この州の鉱山から採掘したものです)。これが第一。次に,1個の原子爆弾を製造するには,非常に大量の原料を必要とします。それは,一億斤の瀝青鉱〔ピッチブレンド・瀝青ウラン鉱ともいう〕から一斤のウラニウムしか精錬できないということだけからでも,推量できるでしょう。そのうえ,精錬の過程は非常に複雑で,費用もとても多くかかり,そのため,大量に製造することは不可能です。第三に,この爆弾を投下するには,高速の航空機に搭載し,一定の目標の上空に達したら,落下傘を使ってゆっくりと投下し,飛行機は投弾後すみやかに爆発の威力圏の半径の外に脱出しなければなりません。さもなければ自身の生命さえも,……(4字判読不能)…することになるでしょう。したがって,この爆弾は,遠い敵後方にしか使えません。——
こうした欠陥から考えると,単に……(17字判読不能)………………だけで,対日戦争を終わらせることはできない,というのは大へん正しいことです。ポツダム会議の時,イギリス,アメリカは,すでに原子爆弾を完成させていたにもかかわらず,やはりなお,ソ連の太平洋戦争への参加を要求せざるをえませんでした。この一点からだけでも,原子爆弾が,戦争のなかで果しうる役割には一定の限度があることを証明できます。現在,ある人々は,原子爆弾で武装した空軍はだた一回の空襲で戦争の運命を決定できる,と考えています。また,ある人々は,原子爆弾を,将来,世界平和を維持するための道具にしようと考えています。こうした言い方は,すべて正しくありません。このたびの,日本の速やかな降伏は,主要には,ソ連の参戦と四大同盟国の一致団結による強大な圧力が生み出した成果です。将来の世界平和もまた必ずや諸同盟国の団結と,世界人民の努力とによってこそ,はじめて維持できるでしょう。この点で,決して,原子爆弾の役割を過度に誇大視してはなりません。
「原子能」の工業上での利用の問題に関していえば,われわれは,戦後において,必ずやより進んだ研究がなされるであろうことを信じます。イギリス,アメリカの科学者が合同して組織している専門委員会やソ連科学院の一つの専門研究所は,みなこの問題を研究しています。石炭と石油のかわりに「原子能」を使って機器を動かし,すべての工業設備を改造する日が,必ずや来るにちがいありません。しかし,それにはなお一定の長い期間を経ることが必要でしょう。なぜなら,「原子能」の制御技術の面で,なお非常に大きな困難があり,……(5字判読不能)……工業上も採用しようがないからです。克(服?)…………(13字判読不能)……努力。
(伊藤虎丸訳)
出典 広島県史 原爆資料編
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