【コラム1】核兵器禁止条約と核軍縮の将来
【コラム1】核兵器禁止条約と核軍縮の将来
マフムード・カーレム
はじめに、年次の『ひろしまレポート』の発行と、2011年に発表された「国際平和拠点ひろしま構想」の下で広島県によってなされた、核兵器のない世界、軍縮及び不拡散のための素晴らしい貢献を称賛したい。こうした先駆的な目標の達成において、広島の勇気ある人々と日本の被爆者たち、そして人類に対して最初に使用された核兵器の痛々しく生々しい記憶ほど相応しいものはない。
また、核兵器の悲惨さとそれをいかに防ぐかということについて、広島・長崎の若者や学生への教育が素晴らしい成果を挙げていることも称賛したい。
なぜ今、核兵器禁止条約および将来の核軍縮が必要なのか。この問題に歴史的な観点から取り組むことが求められている。
1968年に核兵器不拡散条約(NPT)が署名された際、条約で規定された核兵器国と非核兵器国の間の不平等性にも関わらず、世界は幸福と希望の感情に包まれていた。世界は、核軍縮に関して定めた第6条が実現され、その目標も比較的短期間で達成できるだろうと信じていた。しかしながら、核兵器の先行使用(firstuse)といった攻撃的なドクトリンとも密接に関係して、世界戦争へとエスカレートしかねない国際的な危機が繰り返し勃発し、第6条に規定された義務を尊重するための努力が核兵器国によってほとんどなされていないことに、国際的な不満が高まった。たしかに、重要な軍備管理協定が合意され、核兵器はいくぶん削減されたが、50年という長期にわたって、その成果はほとんどなく、不十分だったように見える。
この国際的な不満は、他のいくつかの問題にも起因している。
1)核兵器の近代化への軍事支出を撤回すべきとの要求は無視され、年間1兆ドルを超える額が人類の社会的・経済的発展に必要な資金から奪われている。
2)世界的に開発促進の機運が高まっているにも関わらず、国連の持続可能な開発目標(2013~2015年)に反して、核軍拡競争への影響はなんら変わっていない。
3)核兵器国は、軍事支出を削減し、水の安全保障、環境保護、気候変動、貧困、伝染病、食料・エネルギー安全保障といった、今も続く世界的問題の解決にその資金を投じるという喫緊の必要性を認識できなかった。逆に、世界はいまだに、地域紛争や核兵器国間の衝突が瞬時に核の応酬へと悪化し得るとの恐怖の下に生きている。同時に核兵器国は、核兵器の即時発射態勢を維持し、核兵器の先行使用オプションで威嚇し、このようなドクトリンを他国に拡大核抑止の下で押し付け、これによってそうした非核兵器国を数千キロ離れた紛争に巻き込んでいる。
4)これは、合理性に基づいた抑止政策が、朝鮮半島での地域紛争に見られるように常に成功するわけではないかもしれないという事実を強調するものだ。今、恐れられているのは、偶発的に戦争を許してしまうことは言うまでもなく、さらに核ミサイルを発射できる指導者が合理的な決定を下せるほど合理的ではないかもしれないということである。
5)このことは、3回にわたって開催された核兵器の人道的影響に関する国際会議に参加した多くの国が核兵器使用のもたらす非人道的影響に注目する契機となった。この点で広島と長崎の人々以外で生きた実例を提示できる人はいない。
結論として、核兵器禁止条約は適切な文脈で評価されるべきである。これは、世界的な変化を受けて現状維持は許されないとの「救難信号」を世界の良心に送るものだ。それゆえ、将来の核軍縮の道筋はいくつかの問題に基づくべきである。
1)核兵器国による協力を説得する手段として交渉に参加するという、核依存国からの強い政治的意思。
2)現在のいくつかの妥協的な解決策―たとえば、気候変動枠組条約のように、まず大枠の合意を確保し、詳細はさらなる交渉に委ねる―に取り組む必要性。別の案としては、NPT改正会議を開催し、核分裂性物質、非核兵器地帯、警戒態勢解除、核兵器削減、外国に配備された核兵器の撤去をカバーする核軍縮議定書を加えることが挙げられる。さらには、国連安全保障理事会で署名・寄託し、核セキュリティサミットなされた取組を再現する国際核軍縮サミットにおいて公表される先行不使用の誓約も考えられる。
3)筆者が好ましいと考えるのは、2020年より前に新たな国連軍縮特別総会(SSOD)の傘の下で、これらすべてを議論すること。
最後に、核兵器国は、政治的意思を明らかにし、全面完全核軍縮の達成に向けて、合意された時間的枠組みに沿って真剣かつ決意を持って核兵器を削減することを国際社会に示すべきである。
(元駐日エジプト大使)