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国際平和拠点ひろしま

Hiroshima Report 2024コラム1 G7広島サミットから核軍縮をいかに主導するか

アンゲラ・ケイン

2023年5月の「核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン」は、核軍縮に前向きな焦点を当てた歓迎すべきものであった。岸田文雄総理大臣は、世界に2つしかない被爆地の1つに首脳を招くという大胆な一歩を踏み出した。彼は、地政学的対立の激化がもたらす致命的な結末について、強いメッセージを明確に発した。

広島ビジョンは、この問題に関する初の単独共同声明であり、核兵器のない世界の実現に向けたコミットメントを再確認するものであった。G7首脳が採択したものではあるが、サミットにはさらに8つの国と7つの国際機関の代表が招待されたことに留意すべきである。核兵器国と非核兵器国の間で議論の場を提供することで、この多様なゲストのグループは会議を盛り上げた。しかし、中国とロシアの不在は、米国を中心とするリベラルなG7民主主義諸国が、この世界の変化する地政学的現実を反映していないことを意味している。

4ページにわたる広島ビジョンは、ロシアを含むG20首脳の「核兵器の使用またはその威嚇は許されない(inadmissible)」という2022年11月のバリ宣言1並びに「核戦争に勝者はあり得ず、核戦争を決して戦ってはならない」と確認した2022年1月の「5核兵器国首脳による、核戦争の防止と軍拡競争回避についての共同声明」2を想起した。

G7会合に先立つこの2つの声明は重要だったが、G7主催者の岸田総理によれば、広島ビジョンはサミットを「歴史的意義」のある会合にした3。しかし、核兵器のない世界を実現するというコミットメントを再確認する一方で、これにはいくつかの条件があった。そのコミットメントには、「現実的で、実践的な、責任あるアプローチを通じて達成される、全ての者にとっての安全が損なわれない形で」という言葉が付されていた。さらに、「我々の安全保障政策は、核兵器は、それが存在する限りにおいて、防衛目的のために役割を果たし、侵略を抑止し、並びに戦争及び威圧を防止すべきとの理解に基づいている」とも述べている。

では、ビジョンが示す具体的な施策とは何か。列挙してみよう。

核兵器に関する透明性を高める。

非核兵器国との間で、透明性と核開発競争の制限に関する有意義な対話を行う。

リスクを低減するために、関連する戦略的活動を事前に通知する。

ロシアと中国に対して、第6条を含むNPTの義務に従って、多国間及び二国間のフォーラムに実質的に関与するよう求める。

兵器用核分裂性物質生産禁止条約の交渉を直ちに開始する。

CTBTを発効させる。

これらの具体的な措置に加え、広島ビジョンは、北朝鮮による完全かつ検証可能で不可逆的な核兵器の放棄という目標に対するG7の揺るぎないコミットメントを確認し、イランに対し核エスカレーションの停止を促した。

提案された措置は具体的ではあったが、目新しいものではなかった。これらの問題は、国際的な場で何年も議論されてきたものの、大きな進展はなかった。それでも、G7の3核兵器国(フランス、英国、米国)にとっては、前例のない公的姿勢であった。それから半年が経過したが、提案された行動に進展があるとは考えにくい。

米国の国務次官補(国際安全保障及び不拡散担当)が12月に「広島ビジョン」について語った際4、彼の発言は、ロシアが平和と安全保障にもたらす脅威と、ウクライナの核施設に関する無謀な行動にほぼ集中していた。広島ビジョンに概説された対策を実施するために米国が講じた措置については一切触れていない。実際、米国科学者連盟は、米国が海外で核の透明性を提唱する一方で、核弾頭の備蓄数や解体数の開示を中止していることを指摘した。その記事には、すべての核保有国の透明性に関する傾向を示す表が添えられており、米国、ロシア、中国、英国は「低下」しているとした5。

英国は、2023年11月7日の日本との共同声明6によれば、軍縮を強化する具体的な行動を実施することについては、同様に曖昧な姿勢であった。声明では以下のように述べている。

広島での合意で示されたビジョンを再確認し、4大臣は、相互運用可能で強靭性があり、領域横断的な防衛・安全保障協力に向けた取組の拡大・深化に焦点を当てた。これは、より頻繁で複雑な合同演習や作戦協力、最先端の防衛装備や技術協力の推進を通じて実現される。

広島ビジョンに関する公表資料を、声明そのもの以外に見つけるのは難しい。それは、どの国も提案の弱さや実行の欠如を認めたくないからだろうか。ワールド・ビヨンド・ウォーや核兵器廃絶国際キャンペーンのような市民社会組織は、広島ビジョンを「グローバル・リーダーシップの重大な失敗」7と呼び、否定的だった。核兵器廃絶論者は明らかに失望しており、それは核兵器禁止条約(TPNW)の締約国や支持者にも当てはまるかもしれないが、彼らは明らかに沈黙を守っている。

広島ほど核を象徴する都市はない。しかし、サミットは、規範的な野心が安全保障上の利益や地政学的な現実政治に取って代わることはできないことを示した。大国の安全保障上の利益が守られてこそ、軍縮に踏み切ることができるのだ。ロシアのウクライナ侵略、プーチンによる核兵器使用の遠回しな脅迫、中国の核兵器保有量の増加により、一方的な軍縮の可能性は極めて低くなっている。NPT運用検討会議での実質的な約束が履行されておらず、この点で3核兵器国にも欠点があることを考えれば、第6条を含むNPTの義務に従って多国間及び二国間のフォーラムで実質的な関与をするよう、テーブルにつかなかった中国とロシアに呼びかけることは不誠実である。

被爆者(及びその他多くの人々)にとって、核爆弾投下による人道的影響への言及が一切省かれたことは、衝撃的だったに違いない。人道イニシアティブは、核兵器に反対する人々の強力な結集力となり、2017年のTPNWの交渉につながった(同条約は2021年に発効し、現在69の締約国と93の署名国がある)。TPNWは明らかに、軍縮努力の全体的なペースの停滞に対する、主にグローバル・サウスによる不満の表明であった。核兵器の非人道的影響の妥当性とパワーを認めることは、TPNW締約国会議にオブザーバーとして出席することに合意したのと同様に、「広島ビジョン」を強化することになっただろう8。

それでもなお、広島ビジョンのアクションポイント、特に透明性、非核兵器国との有意義な対話、戦略的活動の事前通告には取り組むべきである。G7は、実施状況と今後の方針について報告すべきである。広島ビジョンは、2010年NPT運用検討会議の成果や、64項目の行動計画に関するコンセンサス合意のような運命をたどらないようにすべきである。この合意はスケジュール抜きで採択され、軍縮分野が実施されず、その後、核保有国によって、安全保障情勢の変化に鑑み、時代遅れで非現実的なものとして却下された。

2024年には、多国間アジェンダに関する3つの重要な会議が予定されている。6月には、イタリアでG7サミット50周年記念式典が開催される。12月には、ブラジルでG20サミットが開催される。2024年9月には、国連未来サミットが開催される。これらのハイレベル会合―実務レベルの議論や交渉が先立って行われる―は、国際的なアジェンダを進展させる重要な機会を提供する。広島ビジョンに優先順位と可視性が与えられ、G7が表明したコミットメントが具体的な実行に移されることを期待したい。この世界の核兵器を廃絶したいと願う被爆者の想いに応えるには、それ以外にない。

アンゲラ・ケイン:元国連事務次長兼国連軍縮担当上級代表


1 “G20 Bali Leaders’ Declaration,” Bali, Indonesia, November 16, 2022, https://kemlu.go.id/portal/en/read/4171/siaran_pers/g20-bali-leaders-declaration-bali-indonesia-15-16-november-2022.

2 “Joint Statement of the Leaders of the Five Nuclear-Weapon States on Preventing Nuclear War and Avoiding Arms Races,” January 3, 2022, https://www.whitehouse.gov/briefing-room/statements-releases/2022/01/03/p5-statement-on-preventing-nuclear-war-and-avoiding-arms-races/.

3 “Historical Significance of the G7 Hiroshima Summit,” July 14, 2023, https://www.japan.go.jp/kizuna/2023/07/historical_significance_of_g7.html.

4 “Assistant Secretary Eliot Kang’s Keynote Remarks at the Integrated Support Center for Nuclear Nonproliferation and Nuclear Security International Forum,” Tokyo, December 14, 2023, https://www.state.gov/assistant-secretary-eliot-kangs-keynote-remarks-at-the-integrated-support-center-for-nuclear-nonproliferation-and-nuclear-security-international-forum/.

5 “While Advocating Nuclear Transparency Abroad, Biden Administration Limits It at Home,” Federation of American Scientists, July 31, 2023, https://fas.org/publication/while-advocating-nuclear-transparency-abroad-biden-administration-limits-it-at-home/.

6 “Japan-UK Foreign and Defence Ministerial Meeting 2023 – Joint Statement,” November 7, 2023, https://mofa.go.jp/files/100577337.pdf.

7 “G7 Leaders Falter Over Nuclear Disarmament in Hiroshima,” IDN-InDepthNews, May 22, 2023, https://indepthnews.net/g7-leaders-falter-over-nuclear-disarmament-in-hiroshima/.

8 2022年、核の傘の下にある国を含む34の非締約国が第1回TPNW締約国会議にオブザーバー参加した。2023年には35カ国が参加した。日本は参加しなかったが、広島・長崎市長や被爆者が出席した。

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