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国際平和拠点ひろしま

Hiroshima Report 2024特集 G7広島サミット

2023年5月に開催されたG7広島サミットでは、「核軍縮に特に焦点を当てた初のG7首脳文書」である「核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン」1(以下、「広島ビジョン」)が採択された。

「広島ビジョン」では、まず、「歴史的な転換期の中、我々G7首脳は1945年の原子爆弾投下の結果として広島及び長崎の人々が経験した、かつてない壊滅と極めて甚大な非人間的な苦難を長崎と共に想起させる広島に集った」とし、「全ての者にとっての安全が損なわれない形での核兵器のない世界の実現に向けた我々のコミットメントを再確認」した。

続いて、「77年間に及ぶ核兵器の不使用の記録の重要性を強調」し、「ロシアの無責任な核のレトリック、軍備管理体制の毀損及びベラルーシに核兵器を配備するという表明された意図は、危険であり、かつ受け入れられない」とした。そのうえで、「核戦争に勝者はなく、また、核戦争は決して戦われてはならないことを確認」した。同時に、「我々の安全保障政策は、核兵器は、それが存在する限りにおいて、防衛目的のために役割を果たし、侵略を抑止し、並びに戦争及び威圧を防止すべきとの理解に基づいている」ことも明記した。

また、「冷戦終結以後に達成された世界の核兵器数の全体的な減少は継続しなければならず、逆行させてはならない」とし、核兵器不拡散条約(NPT)が国際的な核不拡散体制の礎石であること、並びに「現実的で、実践的な、責任あるアプローチを通じて達成される、全ての者にとっての安全が損なわれない形での核兵器のない世界という究極の目標に向けた我々のコミットメント」を再確認した。そして、ロシアに対して新戦略兵器削減条約(新START)の「完全な履行に戻ることを可能とするよう求め」、中国に対しては「透明性や有意義な対話を欠いた、加速している核戦力の増強は、世界及び地域の安定にとっての懸念」であると表明した。

その透明性については、G7に参加する3つの核兵器国(フランス、英国及び米国)が「自国の核戦力やその客観的規模に関するデータの提供を通じて、効果的かつ責任ある透明性措置を促進するために既にとってきた行動」を、「まだそうしていない核兵器国がこれに倣うことを求め」、非核兵器国と「核戦力及び核競争の制限に関する透明性についての有意義な対話を行うこと」などを求めた。また、「戦略的活動の事前通告の利点を強調」しつつ、「戦略的リスクを低減するための核兵器国による具体的な措置の必要性を認識する」とし、中国及びロシアに多国間及び二国間のフォーラムでの実質的な関与を求めた。

多国間核軍縮については、兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)の即時交渉開始を求め(ただし、ジュネーブ軍縮会議〔CD〕が交渉フォーラムであるべきとは明記していない)、兵器用核分裂性物質生産モラトリアムを行っていないすべての国に自発的なモラトリアムを宣言または維持するよう求めた。包括的核実験禁止条約(CTBT)については、核爆発実験を行うべきではなく、それを行うとの威嚇も非難したうえで、条約の発効も「喫緊の事項であることを強調」し、条約発効までの間の核爆発実験に関するモラトリアムの維持または新たな宣言を求めた。また、包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)準備委員会の役割を強調し、検証体制の継続的な運用と長期的な持続可能性を確保するために、十分な資源を提供するよう求めた。

核不拡散に関しては、「核兵器及び既存の核計画、並びにその他の大量破壊兵器(WMD)及び弾道ミサイル計画の、北朝鮮による完全な、検証可能な、かつ、不可逆的な放棄という目標への揺るぎないコミットメントを改めて表明」した。「北朝鮮は、NPTの下で核兵器国の地位を有することはできず、有することは決してない」ことも確認した。イランに対しては、その「核計画の継続したエスカレーションを深く懸念」するとし、核エスカレーションの停止、核不拡散に関する法的義務及び政治的コミットメントの履行、保障措置に関する義務・コミットメントの堅持などを求め、外交的解決が引き続き最善の方法であり、包括的共同行動計画(JCPOA)は「引き続き、有益な参考である」とした。

また、「全ての国に対し、…原子力エネルギー、原子力科学及び原子力技術の平和的利用を促進する上で、保障措置、安全及び核セキュリティの最高水準を満たす責任を、真剣に果たすよう要請」し、国際原子力機関(IAEA)の「最高水準の保障措置の実施及び追加議定書…の普遍化の重要性を再確認」すること、原子力供給国グループ(NSG)ガイドラインで追加議定書を供給条件とすることに向けたさらなる議論を支持することなどを記載した。

さらに、民生用プルトニウムの管理の透明性が維持されなければならず、「民生用プログラムを装った軍事用プログラムのためのプルトニウムの生産又は生産支援のいかなる試みにも反対する」とし、プルトニウム管理指針に基づいて平和的原子力活動におけるプルトニウム保有量の年次報告を行うよう求めた。「高濃縮ウランの民生保有量を管理する必要性」、並びに兵器利用可能な核物質の民生目的での生産・蓄積を削減するための取組へのコミットメントについても言及した。

最後に、G7首脳は、「厳しい現実から理想へと我々を導く世界的な取組が必要である」とし、「軍縮及び不拡散教育やアウトリーチの重要性を強調」し、「広島及び長崎で目にすることができる核兵器使用の実相への理解を高め、持続させるために、世界中の他の指導者、若者及び人々が、広島及び長崎を訪問することを促」した。また、「軍縮及び不拡散のプロセスへの市民社会の関与に加え、女性の完全で、平等で、意義ある参加を支援する…イニシアティブを歓迎する」とした。

上述のように、「広島ビジョン」は核軍縮に焦点を当てた初めてのG7首脳文書であり、そのなかで3核兵器国を含むG7首脳が、原爆投下による「かつてない壊滅と極めて甚大な非人間的な苦難」に言及しつつ「核兵器のない世界」に向けたコミットメントを再確認したことは、一定の重要な成果だと評価された。岸田文雄総理大臣も記者会見で、「この文書は、『核兵器のない世界』の実現に向けたG7首脳の決意、具体的合意、今後の優先事項、方向性を力強く示す、歴史的意義を有するものである」2と位置付けた。

他方で、「広島ビジョン」は、「核兵器のない世界」への具体的な道筋を示しておらず、またG7諸国(なかでも3核兵器国)が実施する取組や措置への言及もほとんどなされなかったことが批判された。さらに、「我々の安全保障政策は、核兵器は、それが存在する限りにおいて、防衛目的のために役割を果たし、侵略を抑止し、並びに戦争及び威圧を防止すべきとの理解に基づいている」との「広島ビジョン」の記述について、核兵器の存在及び核抑止を肯定するものだとの強い批判が、被爆者団体や平和運動団体などから発せられた。

広島の地元紙である『中国新聞』は、「内容は極めて物足りない」「多くの原爆死没者が眠る広島の地名を冠するにふさわしいとは思えない」「核兵器禁止条約に触れていないことは許しがたい」といった批判を、また長崎の地元紙である『長崎新聞』も、「岸田文雄首相は厳しい現実を理想に近づけると言う。ならば、もっと踏み込んで行動してほしい」といった評価を行った3。

賛否が分かれた「広島ビジョン」とは異なり、被爆の実相に触れるイベントは、概ね大きな意義があったと評価された。G7首脳は、平和記念資料館の視察、被爆者との対話、並びに原爆死没者慰霊碑への献花などを行った。また、平和記念資料館の視察後、G7首脳は芳名録に記帳した4。これら一連の行事について、岸田総理は、「原爆により壊滅的な被害を受け、その後、見事な復興を遂げた広島において、G7首脳と共に被爆の実相に触れ、これを粛然と胸に刻む時を共有いたしました。『核兵器のない世界』への決意を世界に示す観点からも、これは歴史的なことであったと考えています」5と述べた。

G7招待国(豪州、ブラジル、コモロ〔アフリカ連合議長国〕、クック諸島〔太平洋諸島フォーラム議長国〕、インド〔G20議長国〕、インドネシア〔ASEAN議長国〕、韓国、ベトナム)の首脳や国際機関(国連、国際通貨基金〔IMF〕、世界銀行、世界貿易機関〔WTO〕、経済協力開発機構〔OECD〕、世界エネルギー機関〔IEA〕)の代表、さらにサミット後半のウクライナ・セッションにゲストとして参加したゼレンスキー(Volodymyr Zelenskyy)ウクライナ大統領も、平和記念資料館の視察、被爆者との対話、原爆死没者慰霊碑への献花を行った。また、岸田総理と尹錫悦(Yoon Suk Yeol)韓国大統領は韓国人原爆犠牲者慰霊碑に献花を行った。

 


1 “G7 Leaders’ Hiroshima Vision on Nuclear Disarmament,” May 19, 2023, https://www.g7hiroshima.go.jp/documents/pdf/230520-01_g7_en.pdf. 本節における「広島ビジョン」からの引用部分は、外務省作成の仮訳(https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100506513.pdf)による。

2 「G7広島サミット初日を終えての所感等についての会見」首相官邸、2023年5月19日、https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/statement/2023/0519bura.html。
3 「核廃絶の議論『物足りず』 G7広島サミット」『日本新聞協会』2023年6月23日、https://www.pressnet.or.jp/publication/shimen/230613_15048.html。
4 「G7首脳による平和記念資料館訪問(記帳内容)」外務省、2023年5月20日、https://www.mofa.go.jp/mofaj/ms/g7hs_s/page1_001692.html。
5 「G7広島サミット初日を終えての所感等についての会見」。

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