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国際平和拠点ひろしま

Hiroshima Report 2018(4)核兵器の削減

A)核兵器及び核兵器を搭載可能な運搬手段の削減

新START

米露は、2011年2月に発効した新戦略兵器削減条約(新START)を履行してきた。条約の下での削減状況は、米国務省のホームページで定期的に公表されている(表1-4)。また米国は、米露の戦略(核)戦力の保有数に加えて、自国の運搬手段毎の保有数を表1-5のように公表してきた。2015年9月のデータによれば、米国の配備戦略弾頭数が初めて新STARTで規定された上限を下回り、2017年9月のデータによれば、新STARTで規定された配備戦略(核)運搬手段、配備・非配備戦略(核)運搬手段発射機、及び配備戦略(核)弾頭のすべてで条約で規定された数的上限を下回った。これに対して、2017年9月のデータによれば、ロシアの配備戦略核弾頭も削減に転じ、条約の上限をわずかに上回る規模となっている。条約発効以来、米露ともに、条約で規定された回数の現地査察を毎年実施してきた42。2017年を通じて、米露双方から他方の条約違反は指摘されなかった。2017年1月に就任したトランプ(Donald Trump)大統領は、就任前から新STARTに批判的で、2月の米露首脳電話会談でも、両国の核弾頭配備を制限する条約が米国にとって「悪い取引」だと発言した43。トランプ大統領はまた、新STARTは「一方的なディール(a one-sided deal)」であり、「米国が行った悪いディールの一つである。我々はよい

ディールを作り始める」44とも発言した。他方、ティラーソン(Rex W. Tillerson)国務長官は2017年2月の指名承認公聴会で条約を支持すると発言し45、その後も米政府内で条約からの脱退が真剣に検討されたとの報道などはない。他方、2021年の失効が規定された新STARTの期限延長問題に関しては、米露間で協議が開始されたものの46、その可否を含め具体的な方向性は2017年末の時点では示されなかった。米露間では、新STARTの下での年2回の二国間協議委員会(BCC)で条約の履行状況に関する議論がなされている他、戦略的安定協議(Strategic Stability Talks)で二国間の戦略的安定に係る幅広い問題について意見交換がなされている47。

非戦略核兵器問題及びINF条約違反問題

新START成立以降、米国はロシアに非戦略核兵器の相互的な削減を呼びかけてきたが、2017年も進展はなかった。ロシアは、まずは米国が欧州の北大西洋条約機構(NATO)諸国に配備する戦術核兵器(以下、在欧戦術核)を自国に撤去すべきだとの主張を繰り返している。

米国が2014年7月に公式に指摘したロシアの中距離核戦力(INF)条約違反問題も、依然として解決の見通しは立っていない。2017年4月に米国が公表した軍備管理・不拡散条約の遵守に関する報告書では、ロシアが500~5,500kmの射程能力を持つ地上発射巡航ミサイル(GLCM)を保有、生産または飛翔実験しないこと、そのようなミサイルの発射基を保有または生産しないというINF条約の義務への違反を継続しているとし、ロシアの不遵守に係る問題として、関連する条約の条項が列挙された 48。

また、この報告書では、2016年に米国がINF条約の履行機関である特別検証委員会(SVC)の開催をロシアに要請したこと、及び同年11月のSVC会合でロシアの違反問題を提起したことが明らかにされた49。さらに米国は、二国間・多国間の協議において、ロシアにその違反問題に関する以下のような詳細な情報を提供してきたと報告した50。

-開発・生産に関与した企業名などを含むミサイル及び発射基の情報

-GLCM実験の経歴に関する情報

-違反するGLCMが射程距離500~5,500kmの能力を有すること

-違反するGLCMがR-500/SCC-7イスカンデルGLCMやRS-26・ICBMではないこと

2017年2月には、ロシアがINF条約に違反するGLCM「SCC-8」の2個大隊(大隊はそれぞれ、移動式のミサイル発射機4基を装備)を持ち、1個大隊はロシア南部ボルゴグラード周辺の開発実験施設に置かれているが、他の1個大隊が2016年12月にロシア国内に実戦配備されたとも報じられた51。これに対してロシアは、条約違反を否定するとともに、米国がINF条約に違反―弾道ミサイル防衛(BMD)の迎撃ミサイルの飛翔実験で標的となるミサイルが中距離ミサイルと同様の性格を有していること、米国が製造する無人飛行機は条約のGLCMの定義によってカバーされるものであること、ならびに東欧配備が予定されるBMDのMk-41発射システムはGLCMを発射する能力があることなど―していると主張してきた。

米国は、自国によるINF条約違反を否定している。同時に、ロシアの条約違反への対抗措置として、米議会は国防授権法で、米国防総省に通常弾頭搭載の移動式GLCMの開発を開始する計画—研究開発に係る活動はINF条約違反ではない—を立ち上げるよう求め、開発調査費として2018会計年度に5,800万ドルの予算が計上された52。12月には米国務省が発表したファクトシートで、外交的解決を目指すとしつつ、国防総省が通常弾頭用の地上配備中距離ミサイルシステムの軍事的概念・オプションを再検討することにより、INF条約に違反しない研究開発を開始する方針を明らかにした。あわせて、ロシアが条約の完全かつ検証可能な遵守に戻れば、この研究開発を即座に停止する用意があるとした53。ロシアは、米露のみがINF条約で定められたミサイルの保有を禁止される一方で、条約の当事国ではない中国など周辺国がそれらを保有できる状況に不満を述べており、条約脱退の可能性が懸念されてきた。しかしながら、ロシア外務省不拡散・軍備管理局長のウリヤノフ(Mikhail Ulyanov)は、INF条約違反とともにロシアの条約脱退の可能性についても否定した54。

米露以外の核保有国

米露以外の核保有国では、フランスと英国が一方的核兵器削減措置を講じてきた。このうち英国は、運用可能な弾頭(operationally available war-heads)のための必要数を120発以下、2020年代半ばまでに核兵器ストックパイルを180発以下とするとしてきたが、2015年1月20日、トライデントD5・SLBMに搭載する核弾頭数を48から40に削減するとの2010年のコミットメントを完了し、実戦的に使用可能な弾頭数が120発になったと公表した55。これに対して、5核兵器国の中で核兵器の配備数や保有数あるいは削減計画などの具体的な姿を全く公表していないのが中国である。中国は、国家安全保障に必要な最小限のレベルの核兵器を保有していると繰り返し述べ、民間研究機関などの分析でも核戦力を急速に増加させているわけではないとの見方が主流である。他方、少なくとも現状では、中国は核兵器の削減には着手しておらず、質的側面での能力向上も続いているとみられる。インド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮の状況はいずれも明確ではないが、少なくとも核兵器(能力)の削減を実施あるいは計画しているとの発言や分析はみられず、核戦力の強化・近代化を継続している。

B) 核兵器の一層の削減に関する具体的計画

 核兵器の一層の削減に関する新たな具体的計画・構想を2017年に明らかにした核保有国はなかった。新政権が発足した米国では核態勢見直し(NPR)が完了し、核戦力の構成が決まらない限り、核兵器の削減に関する具体的な方針も確定しないと考えられる。この間、米露間で戦略・非戦略核戦力の一層の削減に関する協議が進展することもなかった。ロシアは近年、米露による核兵器削減プロセスに両国以外の核兵器保有国が加わるべきだと主張している。これに対して、中国、フランス及び英国は、多国間の核兵器削減プロセスの開始には、まず米露が核兵器を一層大幅に削減すべきだとの立場を変えていない。中国は、「最大の核軍備」を保有する国々、すなわち米露が核兵器削減を先導すべきだと強調した上で、「条件が整えば」他の核兵器国は核軍縮に関する多国間の交渉に参加すべきだと主張してきた56。しかしながら、米露の核兵器が具体的にどの程度の規模まで削減された場合に中国が多国間核削減プロセスに参加するかは明言していない。他方、フランスは、「2015年2月19日の大統領演説で述べたように、『他国、特にロシアと米国の核戦力のレベルがそれぞれ200~300発に削減されれば、フランスも同様に対応する』」57としている。他の核保有国も、自国による核兵器の具体的な削減には全く言及していない。逆に、米露を含む核保有国は、後述するように、国際的・地域的な安全保障環境が不安定性を増しつつあるなかで、核戦力の強化・近代化を進めている。米国は、「NPT上の2核兵器国は核戦力を拡大し、新たな能力を開発しており、それらのなかには潜在的に極めて安定性を損なうものもある。両国はまた、地域の緊張を高めている」58として、中露を批判した。

C) 核兵器能力の強化・近代化の動向

核保有国は、核軍縮に関するコミットメントを繰り返す一方で、核兵器能力の強化や近代化を積極的に継続してきた。

中国

 中国は核戦力の開発・配備の状況について一切公表していないが、その積極的な近代化を推進してきたとみられる。米国防総省が発表した中国の軍事力に関する2017年の報告書では、中国はICBM―DF-5A、DF-5B(MIRV化)、DF-31・31A、及びDF-4―を75~100基保有していること(前年の報告書と同数)、4隻の晋級弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(SSBN)(Type 094)が運用状態にあること、次世代SSBN(Type 096)は2020年代初頭に建造開始が見込まれ、後継のSLBMであるJL-3が搭載されると報じられていることなどが記載された59。また、中国が核任務も視野に戦略爆撃機を開発しているとの見方も示された60。上記の報告書には記載されていないが、2017年1月には、射程14,000kmで10~12発の核弾頭を搭載可能なMIRV化ICBMのDF-41が配備されたと報じられた61。また、同年1月末には、中国が10発の核弾頭を搭載可能なDF-5C・ICBMの発射実験を実施したと報じられたが62、中国国防相はそのMIRV化については認めていない63。

フランス

2017年には、フランスの核戦力近代化などに関する顕著な動向は報じられなかった。フランスは2010年、4隻目となるル・トリオンファン級SSBNに射程8,000kmのM-51・SLBMを搭載した。それまでの3隻には射程6,000kmのM-45・SLBMが搭載されているが、フランスは2017~2018年までに、それらをM-51に転換する計画である64。またオランド(François Hollande)大統領は、2015年2月の核政策に関する演説で、2018年までに空対地中距離巡航ミサイル(ASMPT)を搭載するミラージュ2000N爆撃機をラファールに転換すること、原子力庁に対して運用期限の終了に向かう核弾頭の必要な適合(adaptation)を核実験の実施なく用意するよう指示したこと、ただし新型核兵器は製造しないことなどを明らかにした。この演説では、自国の核抑止力が3セットのSLBM16基(計48基)、及び中距離空対地ミサイル54基で構成されていることも公表した65。

ロシア

ロシアは、老朽化した戦略核戦力を更新すべく、新型戦略核戦力の積極的な開発・配備を推進してきた。2017年には顕著な進展は報じられなかったものの、『ひろしまレポート2017年版』でも言及したように、ロシアはSS-18・ICBMの後継として開発を進めるRS-28(Sarmat)新型ICBMの2018年の配備開始を計画するとともに、鉄道移動式ICBMを2020年までに再建する計画も立てており、2019年に最初の飛翔実験が実施されると伝えられた66。また、最新鋭のボレイ級SSBNの建造も続いている。ショイグ(Sergei Shoigu)国防相は、2020年までに戦略核戦力の90%が近代化された戦力に、また2020年末までに戦略ミサイル軍の60%以上が新型兵器システムになると発言した67。他方で、ロシアの財政状況の悪化から、計画通りの近代化は容易ではないともみられている。

英国

英国は2015年10月、ヴァンガード級SSBNの後継となる核戦力として新型SSBN4隻の建造を決定し、既に建造が開始されている。2016年7月、英議会は2030年代を超えて核抑止力を維持するとの政府の決定を承認し、続く同年10月には既存のヴァンガード級SSBNに替わる4隻の新型ドレッドノート級SSBNの建造段階が開始された。このプロジェクトには、310億ポンドの予算が計上されて、新型SSBNの一番艦は2030年代初頭の就役が予定されている。これと並行して、英国は米国が実施しているトライデントIID5ミサイル寿命延長プログラムに参加している。また、弾頭の転換に関する英国の決定は2019~2020年まで先送りされていると報じられた68。

米国

冷戦期に配備が開始された米国の戦略運搬手段の更新時期が近づいており、後継となるICBM、SSBN及び戦略爆撃機(並びにこれに搭載される巡航ミサイル(LRSO))の開発が検討されてきた69。さらに、北朝鮮やロシアの核問題に対する米国の脅威認識が高まるなかで、非戦略核戦力への関心も政権内外で高まりつつある。

2017年1月に就任したトランプ大統領は、「私は核兵器のない世界を誰よりも見たいと思っている人間だ。しかしながら、それがたとえ友好国であったとしても、他国に後れを取るつもりは決してない。核兵器で後れを取ることは決してない」70と述べ、核戦力強化の可能性を強く示唆した。トランプ政権下の核戦力近代化に係る具体的な政策はNPRの完了まで待たなければならないが、2017年12月に公表された「国家安全保障戦略(NSS)」では、「米国は、核の三本柱、並びに海外に展開される戦域核能力によって提供される信頼できる抑止・安心供与の能力を維持しなければならない。今後数十年にわたる国家安全保障への脅威に対応できる米国の核戦力・インフラを維持するために、大規模な投資が必要である」71と明記された。これに先立つ8月には、米空軍がLRSO(18億ドル)及びICBM(7億ドル)の開発に係る初期経費について、それぞれ契約を締結したと報じられた72。また9月には米海軍が、ジェネラル・ダイナミクス・エレクトリック・ボート社に51億ドルで次世代SSBNの設計・開発・建造・部品調達を含む包括契約を発注した73。戦略核戦力の調達コストの見積もりは増加が続いており、米議会予算局(CBO)は、現行の計画どおり進めば2017年から2026年までの10年間で4,000億ドル(2015年当時の見積もりから15%増加)要すると積算した74。さらに、CBOは10月、現状の計画で今後30年間に要する核兵器の維持開発について、近代化に8,000億ドル、維持と運用に4,000億ドルを要するとの見積もりを示した75。

インド

インドは引き続き、「戦略核の三本柱」(ICBM、SLBM及び戦略爆撃機)の構築に向けて精力的にそれらの開発を推進しているとみられる。開発中のアグニ5・移動式ICBMが2017年に運用開始と見られていたが、同年末時点では配備開始は報じられていない。11月には2隻目の弾道ミサイル潜水艦が進水し、インドはより大型の原潜を建造する計画も有している76。

イスラエル

イスラエルは、ジェリコ3中距離弾道ミサイル(IRBM)(射程距離4,800~6,500km)を開発してきたとみられるが、配備の有無は不明である。核弾頭搭載可能な潜水艦発射巡航ミサイル(SLCM)の配備も伝えられ、2017年10月にはこれを搭載可能なドルフィン級潜水艦3隻をドイツから新たに購入する契約を締結したと発表した(現有5隻)77。

パキスタン

パキスタンは、対印抑止力の構築を主眼として、核弾頭搭載可能な短距離及び準中距離ミサイルの開発・配備に注力してきた。2017年1月には、射程2,200kmのMIRV化IRBM・アバビール(Ababeel)の発射実験を実施した78。また米国のシンクタンクは、パキスタンがバルーチスタン(Baluchistan)地方に核弾頭製造施設と目される堅牢な地下工場を建造したとの分析結果を公表した。この施設は、戦略的予備としての核弾頭及び弾道ミサイルの貯蔵庫にもなるとみられている79。

北朝鮮

核兵器

北朝鮮は核兵器、およびその運搬手段である弾道ミサイルの開発を、前年以上に活発に展開した。なかでも特筆すべきは、9月3日の地下核実験である。北朝鮮が称するように水爆が用いられたかは定かではないが、その爆発威力は同国による過去の核実験のそれをはるかに凌駕する160kt程度と見積もられた。北朝鮮は、その「水爆は、数十キロトンから数百キロトンまで任意に調節可能で、戦略目的により、超強力な電磁パルス(EMP)攻撃のために高高度でも爆発できる、大きな爆発力を持つ多機能化された熱核兵器」であり、「水爆のすべての構成要素が国産で、…思い通りに強力な核兵器を製造できる」とした80。北朝鮮が実際に核弾頭の小型化、並びに弾道ミサイルへの搭載に必要な大気圏再突入技術の獲得に成功しているか否かについては見方が分かれているが、米国防情報局(DIA)は北朝鮮が「ICBM級のミサイルを含め、弾道ミサイル用の核兵器を生産してきたと評価している」、すなわち核弾頭の小型化に成功したと分析している81。再突入技術についても、1~2年程度で獲得するとの見方が強まりつつある。

北朝鮮の核兵器保有数については、米国のシンクタンクが、北朝鮮が生産したとみられる核分裂性物質の量(分離プルトニウムが33kg、兵器級ウランが175~645kgと推定)に基づき、2016年末時点で核兵器13~30発を保有し、年3~5発のペースで増やしている可能性があり、2020年までに25~50発を保有し得ると推計している82。

核分裂性物質

北朝鮮は、2002年以降、IAEAをはじめとして核活動に対する外部からの監視を受け入れておらず、実態は必ずしも明らかではないが、核兵器のさらなる製造に向けた活動を進めていると考えられる。天野之弥IAEA事務局長は2017年3月のインタビューで、北朝鮮がこの数年間に寧辺にあるウラン濃縮施設の規模を「倍増させた」との見方を示し83、9月には寧辺の発電用実験炉が稼働している可能性も指摘した84。北朝鮮はこの原子炉が民生用目的を意図したものだとしているが、兵器用核分裂性物質の生産にも使用し得る。また、米国の専門家は、衛星画像の分析として、2016年9月から2017年6月の間に、放射科学研究所が少なくとも2回、再処理活動を実施したとみられることを報告した85。

ミサイル

北朝鮮は、前年に続き2017年も弾道ミサイル発射実験を繰り返し、その能力の急速な進展を国際社会に強く見せつけた。

3月6日に日本海に向けてほぼ同時に発射されたスカッドERとみられる4発の準中距離弾道ミサイル(MRBM)は、約1,000km飛翔した後、日本の排他的経済水域(EEZ)の一定の範囲内に着弾した。北朝鮮は、この演習を実施した部隊の任務を、有事における在日米軍基地への攻撃だとした86。また5月14日には、「大型核弾頭を搭載可能な新型弾道ロケットの戦術的・技術的詳細を検証」すべく、火星12型IRBMの発射実験を高度2,111.5kmというロフテッド軌道で787kmを飛翔させて実施した(北朝鮮による)87。

さらに、8月29日及び9月15日には、火星(Hwasong)12型を、通常軌道で日本上空を通過させ、太平洋上に着弾させる形で発射実験を実施した88。8月29日の実験では2,700km、9月の実験では3,700kmを飛翔させ、グアムに到達する能力があることを示した。また、8月の実験ではミサイルを車両型の移動式発射台で運んだ後、地上に降ろして打ち上げていたが、9月の実験では移動式発射台から直接ミサイルを発射し、発射準備までの時間を短縮する能力を示した。

2017年後半は、ICBM能力の獲得を実証した。北朝鮮外務省報道官は1月初頭に、「北朝鮮のICBM開発は、米国の核戦争の威嚇に対処する自衛能力を強化する努力の一環である」としたうえで、「最高首脳部が決定する任意の時刻に任意の場所から発射されるであろう」89と言明していた。そして7月4日、北朝鮮は火星14型ICBMをロフテッド軌道で発射し、北朝鮮によれば高度2,802km、飛翔距離933kmに達した後90、日本のEEZ内に着弾した。通常軌道で発射すれば、6,700~8,000kmを飛翔可能だと推計された91。北朝鮮は、この実験の目的が「新開発の大型重量核弾頭の搭載が可能なICBMの戦術、技術的レベルと技術特性の確定」であり、「新開発の炭素繊維複合材料で製造した弾頭部の耐熱性と安定性の最終確認」を目指したものであり、弾頭内の温度は外部が高温となる再突入後も25~40度で、起爆装置は正常に作動したとの評価を発表した92。北朝鮮は7月28日にも火星14型をロフテッド軌道で発射し、北朝鮮の発表では高度3,724.9kmに達した後、998km離れた日本のEEZ内に着弾した93。この実験により、通常軌道で発射されれば火星14型が米国本土を射程に収める能力を持つことが示された。他方、日米韓の各政府や専門家は、この実験での弾頭部分の大気圏再突入には失敗したと分析している94。

さらに11月29日、北朝鮮は新型のICBM・火星15型の発射実験を実施した。北朝鮮によれば、ミサイルは高度4,475kmに到達し、950km飛行して、日本のEEZ内に落下した。通常軌道で発射すれば、射程距離は米本土全域を含む約1万3,000kmに達する可能性があると見積もられている。北朝鮮は、「超重量核弾頭を搭載し、米国本土全域を攻撃する能力を持つ新型ICBMシステムの保有を達成した」とし、「国家核戦力の完成の歴史的偉業」だと位置づけた95。米国の専門家は、「火星15型が米国本土のあらゆる地点へ1トンのペイロードを運搬できる。北朝鮮は700kg以下の核弾頭をほぼ開発している」96との分析を公表した。他方、米国の当局者は、弾道ミサイルの誘導技術に加えて、再突入技術でも課題を抱えているとの見方を示している97。

SLBM開発も進んでいるとみられ、5月21日には北極星(Pukguksong)2型の発射実験を実施した。その成功を受けて、金正恩朝鮮労働党委員長は北極星2型の配備を承認し、量産を指示した98。北朝鮮はその後も、SLBMの積極的な開発活動を継続するとともに99、新型の弾道ミサイル潜水艦の建造を推進しているとみられる100。


[42] “New START Treaty Inspection Activities,” U.S. Department of State, https://2009-2017.state.gov/t/avc/newstart/ c52405.htm. なお、2016 年 2 月 5 日から 2017 年 2 月 4 日の 1 年間については、規定された上限より 1 回少なかった。

[43] Jonathan Landay and David Rohde, “Exclusive: In Call with Putin, Trump Denounced Obama-era Nuclear Arms Treaty – Sources,” Reuters , February 10, 2017, http://www.reuters.com/article/us-usa-trump-putin-idUSKBN15O2A5.

[44] Steve Holland, “Trump Wants to Make Sure U.S. Nuclear Arsenal at ‘Top of the Pack,’” Reuters , February 23, 2017, https://www.reuters.com/article/us-usa-trump-exclusive/trump-wants-to-make-sure-u-s-nuclear-arsenal-at-top-of-the- pack-idUSKBN1622IF.

[45] Jonathan Landay and David Rohde, “In Call with Putin.”

[46] “Russia, US Start Consultations on Extending START Treaty — Diplomat,” Tass, September 12, 2017, http://tass. com/politics/965274.

[47] “Russia and US Beginning Strategic Stability Dialogue— Diplomat,” Tass, July 20, 2017, http://tass.com/ world/957005; “U.S., Russian Strategic Stability Talks Begin,” Arms Control Today, Vol. 47, No. 8 (October 2017), p. 29.

[48] U.S. Department of State, “Adherence to and Compliance with Arms Control, Nonproliferation, and Disarmament Agreements and Commitments,” April 2017, https://www.state.gov/t/avc/rls/rpt/2017/270330.htm. 米国が指摘した 内容に関しては、『ひろしまレポート 2015 年版』及び『ひろしまレポート 2016 年版』を参照。

[49] 特別検証委員会は、2017 年 12 月にも開催された。

[50] U.S. Department of State, “Adherence to and Compliance with Arms Control, Nonproliferation, and Disarmament Agreements and Commitments.”

[51] Michael R. Gordon, “Russia Deploys Missile, Violating Treaty and Challenging Trump,” New York Times , February 14, 2017, https://www.nytimes.com/2017/02/14/world/europe/russia-cruise-missile-arms-control-treaty.html.

[52] Kingston Reif, “Hill Wants Development of Banned Missile,” Arms Control Today, Vol. 47, No. 10 (December 2017), p. 35.

[53] Bureau of Arms Control, Verification and Compliance, U.S. Department of State, “INF Treaty: At a Glance,” Fact Sheet, December 8, 2017, https://www.state.gov/t/avc/rls/2017/276361.htm.

[54] “Russia: the US Intends to Withdraw from Open Skies Treaty,” UAWire , September 26, 2017, https://uawire.org/ russia-the-us-intends-to-withdraw-from-open-skies-treaty.

[55] “UK Downsizes Its Nuclear Arsenal,” Arms Control Today, Vol. 45, No. 2 (March 2015), http://www.armscontrol. org/ACT/2015_03/News-Brief/UK-Downsizes-Its-Nuclear-Arsenal.

[56] NPT/CONF.2020/PC.I/WP.36, May 9, 2017.

[57] “Statement by France,” General Debate, First Session of the Preparatory Committee for the 2020 NPT Review Conference, May 3, 2017.

[58] “Statement by the United States,” Cluster 1, First Session of the Preparatory Committee for the 2020 NPT Review Conference, May 4, 2017.

[59] U.S. Department of Defense, Annual Report to Congress: Military and Security Developments Involving the People’s Republic of China 2017, May 2017, pp. 24, 31.

[60] Ibid., p. 61.

[61] “China Deploys Intercontinental Missiles Near Russian Border — Media,” Tass , January 24, 2017, http://tass.com/ world/926888.

[62] Bill Gertz, “China Tests Missile with 10 Warheads,” Washington Free Beacon, January 31, 2017, http:// freebeacon.com/national-security/china-tests-missile-10-warheads/.

[63] “China Says Its Trial Launch of DF-5C Missile Normal,” China Military , February 6, 2017, http://english.chinamil. com.cn/view/2017-02/06/content_7477866.htm.

[64] た と え ば、“France Submarine Capabilities,” Nuclear Threat Initiative, August 15, 2013, http://www.nti.org/ analysis/ articles/france-submarine-capabilities/ を参照。

[65] François Hollande, “Nuclear Deterrence—Visit to the Strategic Air Forces,” February 19, 2015, http://basedoc. diplomatie.gouv.fr/vues/Kiosque/FranceDiplomatie/kiosque.php?fichier=baen2015-02-23.html#Chapitre1.

[66] “Russia to Conduct Flight Tests of Missile for ‘Nuclear Train’ in 2019,” Sputnic News , January 19, 2017, https:// sputniknews.com/russia/201701191049778679-russia-nuclear-missile-test/.

[67] Franz-Stefan Gady, “Russia to Arm 90 Percent of Strategic Nuclear Forces with Modern Weaponry by 2020,” Diplomat, February 23, 2017, https://thediplomat.com/2017/02/russia-to-arm-90-percent-of-strategic-nuclear-forces- with-modern-weaponry-by-2020/.

[68] Claire Mills and Noel Dempsey, “Replacing the UK’s Nuclear Deterrent: Progress of the Dreadnought Class,” UK Parliament, House of Commons Briefing Paper, June 19, 2017.

[69] 米国による核兵器能力の近代化については、“U.S. Nuclear Modernization Program,” Fact Sheet and Brief, Arms Control Association, December 2016, https://www.armscontrol.org/factsheets/USNuclearModernization などを参照。

[70] Steve Holland, “Trump Wants to Make Sure U.S. Nuclear Arsenal at ‘Top of the Pack,’” Reuters , February 23, 2017, https://www.reuters.com/article/us-usa-trump-exclusive/trump-wants-to-make-sure-u-s-nuclear-arsenal-at-top-of-the- pack-idUSKBN1622IF.

[71] United States of America, “National Security Strategy,” December 2017, p. 30.

[72] David E. Sanger and William J. Broad, “Trump Forges Ahead on Costly Nuclear Overhaul,” New York Times, August 27, 2017, https://www.nytimes.com/2017/08/27/us/politics/trump-nuclear-overhaul.html. 核・通常弾頭両 用の LRSO については、米国の核態勢における必要性、並びに敵による核攻撃の誤認の可能性といった問題から、開 発中止を求める主張もなされていた。たとえば、William J. Perry and Andy Weber, “Mr. President, Kill the New Cruise Missile,” Washington Post, October 15, 2015, https://www.washingtonpost.com/opinions/mr-president-kill-the-new- cruise-missile/2015/10/15/e3e2807c-6ecd-11e5-9bfe-e59f5e244f92_story.html などを参照。

[73] “Navy Awards Contract for Columbia Class Submarine Development,” America’s Navy, September 21, 2017, http://www.navy.mil/submit/display.asp?story_id=102534.

[74] Congressional Budget Office, “Projected Costs of U.S. Nuclear Forces, 2017 to 2026,” February 2017, https:// www.cbo.gov/sites/default/files/115th-congress-2017-2018/reports/52401-nuclearcosts.pdf.

[75] Congressional Budget Office, “Approaches for Managing the Costs of U.S. Nuclear Forces, 2017 to 2046,” October 2017. “New CBO Report Warns of Skyrocketing Costs of U.S. Nuclear Arsenal,” Arms Control Association, October 31, 2017, https://www.armscontrol.org/pressroom/2017-10/new-cbo-report-warns-skyrocketing-costs-us-nuclear-arsenal も参照。

[76] Franz-Stefan Gady, “India Launches Second Ballistic Missile Sub,” Diplomat, December 13, 2017, https:// thediplomat.com/2017/12/india-launches-second-ballistic-missile-sub/; Dinakar Peri and Josy Joseph, “A Bigger Nuclear Submarine is Coming,” The Hindu, October 15, 2017, http://www.thehindu.com/news/national/a-bigger- nuclear-submarine-is-coming/article19862549.ece.

[77] “Israel Signs MoU to Purchase Dolphin-class Submarines from Germany,” Naval Technology, October 25, 2017, https://www.naval-technology.com/news/newsisrael-signs-mou-to-purchase-dolphin-class-submarines-from- germany-5956187/.

[78] “Pakistan Conducts First Flight Test of Nuclear-capable ‘Ababeel’ Missile,” Indian Express, January 24, 2017, http://indianexpress.com/article/world/pakistan-nuclear-missile-test-4489709/.

[79] David Albright, Sarah Burkhard, Allison Lach and Frank Pabian, “Potential Nuclear Weapons-related Military Area in Baluchistan, Pakistan,” Institute for Science and International Security, August 10, 2017, http://isis-online.org/isis- reports/detail/potential-nuclear-weapons-related-military-area-in-baluchistan-pakistan/.

[80] “Kim Jong Un Gives Guidance to Nuclear Weaponization,” KCNA, September 3, 2017, http://www.kcna.co.jp/ item/2017/201709/news03/20170903-01ee.html.

[81] Joby Warrick, Ellen Nakashima and Anna Fifield, “North Korea Now Making Missile-ready Nuclear Weapons, U.S. Analysts Say,” Washington Post, August 8, 2017, https://www.washingtonpost.com/world/national-security/ north-korea-now-making-missile-ready-nuclear-weapons-us-analysts-say/2017/08/08/e14b882a-7b6b-11e7-9d08- b79f191668ed_story.html?utm_term=.e66ae8878863.

[82] David Albright, “North Korea’s Nuclear Capabilities: A Fresh Look,” Institute for Science and International Security, April 28, 2017, http://isis-online.org/isis-reports/detail/north-koreas-nuclear-capabilities-a-fresh-look/10.

[83] Jay Solomon, “North Korea Has Doubled Size of Uranium-enrichment Facility, IAEA Chief Says,” Wall Street Journal, March 20, 2017, https://www.wsj.com/articles/north-korea-has-doubled-size-of-uranium-enrichment-facility- iaea-chief-says-1490046264.

[84] “IAEA Says Indications Show DPRK’s Nuclear Reactor Could be Operating,” Xinhua, September 11, 2017, http:// news.xinhuanet.com/english/2017-09/11/c_136601162.htm. この原子炉については、2017 年 1 月にも、再稼働の 可能性が米国のシンクタンクにより指摘されていた。Jack Liu and Joseph S. Bermudez Jr., “North Korea’s Yongbyon Nuclear Facility: Operations Resume at the 5 MWe Plutonium Production Reactor,” 38 North, January 27, 2017, http://38north.org/2017/01/yongbyon012717/.

[85] Joseph S. Bermudez Jr., Mike Eley, Jack Liu and Frank V. Pabian, “North Korea’s Yongbyon Facility: Probable Production of Additional Plutonium for Nuclear Weapons,” 38 North, July 14, 2017, http://www.38north. org/2017/07/yongbyon071417/.

[86] “Kim Jong Un Supervises Ballistic Rockets Launching Drill of Hwasong Artillery Units of KPA Strategic Force,” KCNA, March 7, 2017, http://www.kcna.co.jp/item/2017/201703/news07/20170307-01ee.html.

[87] “Kim Jong Un Guides Test-Fire of New Rocket,” KCNA , May 15, 2017, http://www.kcna.co.jp/item/2017/201705/ news15/20170515-01ee.html.

[88] これまでに北朝鮮の弾道ミサイルが日本上空を通過したのは、1998年のテポドン1号、2009年の銀河2号、 2012 年の銀河 3 号、2016 年の光明星 4 号の 4 回であった。

[89] “DPRK’s ICBM Development Is to Cope with U.S. Nuclear War Threat: FM Spokesman,” KCNA, January 8, 2017, http://www.kcna.co.jp/item/2017/201701/news08/20170108-09ee.html.

[90] “Report of DPRK Academy of Defence Science,” KCNA, July 4, 2017, http://www.kcna.co.jp/item/2017/201707/ news04/20170704-21ee.html.

[91] John Schilling, “North Korea Finally Tests an ICBM,” 38 North , July 5, 2017, http://www.38north.org/2017/07/ jschilling070517/.

[92] “Kim Jong Un Supervises Test-launch of Inter-continental Ballistic Rocket Hwasong-14,” KCNA, July 5, 2017, http://www.kcna.co.jp/item/2017/201707/news05/20170705-01ee.html.

[93] “Kim Jong Un Guides Second Test-fire of ICBM Hwasong-14,” KCNA, July 29, 2017, http://www.kcna.co.jp/ item/2017/201707/news29/20170729-04ee.html.

[94] Michael Elleman, “Video Casts Doubt on North Korea’s Ability to Field an ICBM Re-entry Vehicle,” 38 North, July 31, 2017, http://www.38north.org/2017/07/melleman073117/; John Schilling, “What Next for North Korea’s ICBM?” 38 North, August 1, 2017, http://www.38north.org/2017/08/jschilling080117/.

[95] “Kim Jong Un Guides Test-fire of ICBM Hwasong-15,” KCNA, November 29, 2017, http://www.kcna.co.jp/ item/2017/201711/news29/20171129-14ee.html.

[96] Michael Elleman, “The New Hwasong-15 ICBM: Significant Improvement That May be Ready as Early as 2018,” 38 North, November 30, 2017, http://www.38north.org/2017/11/melleman113017/.

[97] Barbara Starr and Ray Sanchez, “North Korea’s New ICBM Likely Broke Up Upon Re-entry, US Official Says,” CNN , December 3, 2017, http://edition.cnn.com/2017/12/02/asia/north-korea-missile-re-entry/index.html.

[98] “Kim Jong Un Supervises Test-fire of Ballistic Missile,” KCNA, May 22, 2017, http://www.kcna.co.jp/ item/2017/201705/news22/20170522-01ee.html.

[99] た と え ば、Joseph S. Bermudez, Jr., “North Korea’s Submarine-launched Ballistic Missile Program Advances: Second Missile Test Stand Barge Almost Operational,” 38 North, December 1, 2017, https://www.38north. org/2017/12/nampo120117/.

[100] Ankit Panda, “The Sinpo-C-Class: A New North Korean Ballistic Missile Submarine Is under Construction,” Diplomat, October 18, 2017, https://thediplomat.com/2017/10/the-sinpo-c-class-a-new-north-korean-ballistic-missile- submarine-is-under-construction/. また、Joseph S. Bermudez Jr., “North Korea’s Submarine Ballistic Missile Program Moves Ahead: Indications of Shipbuilding and Missile Ejection Testing,” 38 North, November 16, 2017, http:// www.38north.org/2017/11/sinpo111617/ も参照。

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