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国際平和拠点ひろしま

序文

『ひろしまレポート2020 年版―核軍縮・核不拡散・核セキュリティを巡る2019 年の動向』(以下、『ひろしまレポート2020 年版』)は、平成31 年度に広島県から委託を受け、(公財)日本国際問題研究所が実施した「ひろしまレポート作成事業」1の調査・研究の成果である。核軍縮、核不拡散及び核セキュリティに関する具体的措置・提案の2019年の実施状況を取りまとめ、日本語版及び英語版を刊行した。
核兵器廃絶の見通しは依然として立たないばかりか、核兵器を巡る状況は複雑化している。核兵器不拡散条約(NPT)上の5 核兵器国(中国、フランス、ロシア、英国、米国)及び他の核保有国(インド、イスラエル、パキスタン)からは、核兵器保有の放棄に向けた具体的な動きは見られない。逆に、程度の差はあれ、核戦力の近代化や運搬手段の更新などといった核抑止の中長期的な維持を見据えた施策を講じている。さらに、米国の脱退により、中距離核戦力全廃条約(INF 条約)は失効した。こうした状況に不満を強める非核兵器国のイニシアティブで2017 年7 月に核兵器禁止条約(TPNW)が成立したが、これに消極的な核保有国、並びに核保有国と同盟関係にある非核兵器国(核傘下国)は条約への署名を拒否している。米朝首脳会談が開催された北朝鮮核問題にも解決に向けた進展は見られず、北朝鮮は核兵器放棄の戦略的決断を下していないと見られる。イラン核問題では、米国による包括的共同作業計画(JCPOA)からの離脱とイランに対する制裁措置の強化に対して、イランはJCPOA の義務の一時履行停止に踏み切った。核兵器の取得に新たに関心を持つ国が出現しないとの保証はなく、グローバル化の進展とも相まって、非国家主体による核兵器の取得・使用への懸念が高まることも考えられる。
こうしたなか、核兵器の廃絶に向けた取組を進めるにあたっては、まずは核軍縮、核不拡散、核セキュリティに関する具体的な措置と、これらへの各国の取組の現状と問題点を明らかにすることが必要となる。これらを調査・分析して「報告書」及び「評価書」にまとめ、人類史上初の核兵器の惨劇に見舞われた広島から発信することにより、政策決定者、専門家及び市民社会における議論を喚起し、核兵器のない世界に向けた様々な動きを後押しすることが、『ひろしまレポート』の目的である。
各対象国の核軍縮などに向けた取組の状況を調査・分析・評価し、「報告書」及び「評価書」を作成する実施体制として、研究委員会が設置された。同委員会は会合を開催し、それらの内容などにつき議論を行った。

研究委員会のメンバーは下記のとおりである。
主査
中山泰則(日本国際問題研究所軍縮・科学技術センター所長代行)
研究委員:
秋山信将(一橋大学国際・公共政策大学院院長)
一政祐行(防衛省防衛研究所主任研究官)
川崎 哲(ピースボート共同代表)
菊地昌廣(核物質管理センター理事)
黒澤 満(大阪女学院大学教授)
玉井広史(日本原子力研究開発機構核不拡散・核セキュリティ総合支援センター嘱託)
水本和実(広島市立大学広島平和研究所教授)
岡田美保(日本国際問題研究所研究員)
戸﨑洋史(日本国際問題研究所軍縮・科学技術センター主任研究員)(兼幹事)
作成された「報告書」のドラフトに対して、核軍縮、核不拡散及び核セキュリティの分
野において第一線で活躍する、下記の国内外の著名な研究者や実務家より貴重なコメント及び指摘を頂いた。
阿部信泰 元国連事務次長(軍縮担当)/前原子力委員会委員
マーク・フィッツパトリック(Mark Fitzpatrick)前国際戦略研究所(IISS)ワシント
ン事務所長兼不拡散・軍縮プログラム部長
ジョン・シンプソン(John Simpson)サウサンプトン大学名誉教授
鈴木達治郎 長崎大学核兵器廃絶研究センター・副センター長
また、『ひろしまレポート2020 年版』では国内外の有識者に、核軍縮・不拡散問題の動向、並びに展望と課題に関するご寄稿を得た2。記して謝意を表する。


1 本事業は、広島県が平成23 年に策定した「国際平和拠点ひろしま構想」に基づく取組の1つとして行われたものである。

2 それらの論考は執筆者個人の見解をまとめたものであり、広島県、日本国際問題研究所、並びに執筆者の所属する団体などの意見を表すものではない。

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