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国際平和拠点ひろしま

コラム 1 停滞が続く核軍縮・核不拡散努力

阿部 信泰

ひろしまレポートの発行を始めてから 10 年近くになるので、各国の核軍縮・核不拡 散・核セキュリティ面での努力は進んでい るのか、レポートが出している各国の努力 の評点を振り返ってみた。残念ながら全体 として改善の兆しは見られず、総合平均点 はわずかに上昇しただけだった。明確なト レンドの見られる数値にはならなかったの でグラフを作るのはあきらめてしまった。

ひろしまレポートの評点を見るまでもな く、世界の識者は核軍縮・核不拡散努力の 停滞を憂えている。米科学誌「ブレティ ン・オブ・ジ・アトミック・サイエンティ スツ」が、1947 年から毎年出している「世 界週末時計」は終末まで 100 秒という史上 最悪の状態にあることを明らかにした。冷 戦時代の最悪の時期よりも悪い危機状態に あると警告した。米国のスティムソン・セ ンターの共同創立者マイケル・クレポンは、 1986 年から 1996 年までが核軍縮・軍備管 理の黄金期でそれ以降、下り坂になったと 総括した。1996 年に CTBT 交渉が完了し、 翌 1997 年に署名開放されたが、20 年以上 経っても発効していないし、1987 年に発効 した INF(中距離核戦力全廃条約)は 32 年 を経て昨年失効してしまった。

核戦力近代化競争・北朝鮮・イランなど と、核軍縮・不拡散の停滞の兆候は枚挙に 暇がないが、とりわけ INF 条約の失効は軍備管理・軍縮後退の影響を日本に直接及ぼ す問題として登場するおそれがある。もと もと欧州で米ソが中距離核弾道ミサイルの 配備を始めて欧州が一瞬にして核戦場にな る脅威が高まったため難交渉の末、米ソが 互いに配備を止める合意をしかけたところ で、ソ連が欧州に配備したものを、日本を 射程に収めるアジア部に移そうとしたため 日本が注文を付けて全世界的に米ソが中距 離核戦力を全面的に禁止する条約が成立し たという経緯がある。それが廃止になれば ロシアは再び日本を射程に収める中距離ミ サイルをアジア部に配備できることになる。

米国が INF 条約脱退を決めた理由は、ロ シアが INF 条約違反のミサイルを配備し始 めたということと、この条約に拘束されな い中国が中距離ミサイルなど各種戦力を急 速に増強していることにあった。条約の束 縛がなくなったので、米国が中国・北朝鮮 の脅威に対処するため中距離弾道ミサイル の配備を進める動きを示しており、その有力な配備先の一つが日本だ 1。

これだけ危機が高まっているのに残念な がら世界各地ではそれほど議論になっていない。米国の大統領選挙の争点として取り上げるべきだという識者の意見はあるが、 まだその様子は見られない。日本でも北朝鮮の核兵器・ミサイル開発の脅威は年々高まっているが、国内で切迫感は感じられない。しかし、放って置けば核終末100 秒が ゼロ分になってしまう危険がある。核軍 縮・核不拡散の努力をあきらめるわけには 行かない。

4 月にニューヨークで開催される予定の NPT 再検討会議が一つの大きい機会であり、広島市・長崎市が進める核兵器廃絶の努力 も根強く続けなければならない。加えて、 広島県が進める平和拠点構想は幅広い視点 から核軍縮、そして平和の構築を目指す構想として有効だ。ひろしまラウンドテーブ ルでは関係国の識者を集めて具体的な核軍縮・核不拡散推進の方策を検討し、提言し ている。日本政府にも積極的に踏み込んだ努力を期待したい。日本があきらめてしま ったらおしまいだから。

(元国連事務次長(軍縮担当)/前原子力 委員会委員)


1 今のところ米国は通常弾頭ミサイルの配備を考えているので、ただちに核兵器持ち込みの問題とはならない。

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