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国際平和拠点ひろしま

(6) 警戒態勢の低減、あるいは核兵器使用を決定するまでの時間の最大限化

核兵器の警戒態勢に関して、2020 年に核保有国の政策に大きな変化は見られなかった169。米国及びロシアの戦略核弾道ミサイルは、警報即発射(LOW)あるいは攻撃下発射(LUA)といった高い警戒態勢に置かれている170。このうちロシアは、2020 年6 月に公表された「核抑止の分野における基本政策」で、上述のように「ロシアが核兵器の使用に踏み切る条件」の1 つに、「ロシア及び(または)その同盟国の領域を攻撃する弾道ミサイルの発射に関して信頼の置ける情報を得た時」を明記し、高い警戒態勢を維持していることを示唆した171。
米露以外では、英国の40 発及びフランスの80 発の核兵器が、SSBN の常時哨戒のもとで、米露のものよりは低い警戒態勢に置かれている172。中国は、通常は核弾頭と運搬手段を切り離して保管しており、即時発射の態勢を採用していないと考えられてきた173 。しかしながら、新型のMIRV化ICBM、SSBN 及びSLBM の導入、さらにはロシアの協力による早期警戒システムの構築に伴い、そうした政策が変化する可能性が注視されている。真偽は不明ながら、2020 年8 月には、中国人民解放軍の元高官が、中国は敵が発射した核ミサイルを探知し、これが着弾する前に核兵器で反撃できると発言した174。
他の核保有国の動向は必ずしも明らかではないが、インドは即時発射の態勢は採っていないと見られる。パキスタンは2014年2 月に、核兵器を含むすべての兵器は首相を長とする国家司令部( National Command Authority)の管理下にあり、インドとの危機時にも核戦力使用の権限を前線の指揮官には移譲しないことを確認した175。北朝鮮については2020 年5 月に、朝鮮労働党中央軍事委員会拡大会議で、「核戦争抑止力をさらに高め、軍事力の構築と発展のための一般的な要件に沿って、戦略的軍事力を高度な警戒運用に置くための新たな政策が打ち出された」176と報じられたが、その具体的な措置や実効性は定かではない。
警戒態勢に関しては、多くの非核兵器国がその低減を核兵器国に対して求めてきた。なかでもチリ、マレーシア、ナイジェリア、ニュージーランド、スウェーデン及びスイスがNPT 運用検討プロセスで「警戒態勢解除グループ」を形成し、積極的に提案してきた177。2020 年国連総会でも決議案「核兵器システムの運用態勢の低減」を提出し、賛成176、反対5(フランス、ロシア、英国、米国など)、棄権4(北朝鮮、イスラエル、韓国など)で採択された178。
警戒態勢の低減・解除が提案される目的の1 つには、事故による、あるいは偶発的な核兵器の使用の防止が挙げられてきた179。そうした核兵器の意図せざる使用のリスクを低減するために緊急のステップを講じることなどを求めた国連総会決議「核兵器の危険性の低減」180は122 カ国の賛成で採択されたが、49 カ国(豪州、オーストリア、ベルギー、カナダ、フランス、ドイツ、イスラエル、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ポーランド、韓国、スウェーデン、スイス、トルコ、英国、米国など)が反対、14 カ国(中国、日本、北朝鮮、パキスタン、ロシアなど)が棄権した。
これに対して核兵器国は、そうした使用を防止するために様々な措置を適切に講じてきたと強調している181。12 月には中露が、二国間のミサイル発射通報制度の10 年間の延長に合意したと発表した182。他方、2020年12 月にロシア当局は、核攻撃などの非常事態時に大統領らの空中作戦指揮所ともなるイリューシン80 型機の機内から無線機器39 点が盗まれたことを明らかにした183。


169 各国の政策については、『ひろしまレポート2017 年版』を参照。
170 Hans M. Kristensen, “Reducing Alert Rates of Nuclear Weapons,” Presentation to NPT PrepCom Side Event, Geneva, April 24, 2013; Hans M. Kristensen and Matthew McKinzie, “Reducing Alert Rates of Nuclear Weapons,” United Nations Institute for Disarmament Research, 2012.
171 The President of the Russian Federation, “Executive Order on Basic Principles of State Policy of the Russian Federation on Nuclear Deterrence,” June 8, 2020, https://www.mid.ru/en/foreign_policy/international_safety/disarmament/-/asset_publisher/rp0fiUBmANaH/content/id/4152094.
172 Kristensen, “Reducing Alert Rates of Nuclear Weapons”; Kristensen and McKinzie, “Reducing Alert Rates of Nuclear Weapons” を参照。
173 他方、米国防総省による中国軍事力に関する2018 年の年次報告書では、中国人民解放軍の文書でLOW 核態勢の有用性が示され、NFU とも整合するものだと強調していること、中国は将来的にそうした体制を支援しうる宇宙配備早期警戒能力の開発を進めていることが記された。The U.S. Department of Defense, Annual Report to Congress: Military and Security Developments Involving the People’s Republic of China 2018, May 2018, p. 77.
174 “China Can Launch Nuclear Counterattacks Within Minutes: Ex-Soldier,” Kyodo News, August 2, 2020,
https://english.kyodonews.net/news/2020/08/929cfc9d2fd6-china-can-launch-nuclear-counterattacks-within-minutes-ex-soldier.html.
175 Elaine M. Grossman, “Pakistani Leaders to Retain Nuclear-arms Authority in Crises: Senior Official,” Global Security Newswire, February 27, 2014, http://www.nti.org/gsn/article/pakistani-leaders-retain-nuclear-arms-authority-crises-senior-official/.
176 “Supreme Leader Kim Jong Un Guides Enlarged Meeting of WPK Central Military Commission,” KCNA, May 24, 2020, http://www.kcna.co.jp/item/2020/202005/news24/20200524-01ee.html.
177 2019 年NPT 準備委員会でも、警戒態勢解除の重要性を論じたうえで、核兵器国に対して、核兵器システムの運用態勢を直ちに低減するための措置を採ること、並びに2020〜2025 年の運用検討サイクルの間に核兵器の運用態勢に関する定期報告を提供することを求めた。NPT/CONF.2020/PC.III/WP23, April 12, 2019.
178 A/RES/75/72, December 7, 2020.
179 たとえばルイス(Patricia Lewis)らは、核兵器が不用意に用いられかけた13 の事例を概観し、考えられていたよりも核兵器使用の可能性は高かったこと、核兵器の不使用は抑止の効果よりも個々の意思決定者が救ったという側面が強いことなどを論じた上で、核兵器が存在する限り、不注意、事故、あるいは故意の核爆発のリスクは残ることから、核兵器廃絶までの間、慎慮ある意思決定が最優先課題だとする報告書を公表した。Patricia Lewis, Heather Williams, Benoît Pelopidas and Sasan Aghlani, “Too Close for Comfort: Cases of Near Nuclear Use and Options for Policy,” Chatham House Report, April 2014.
180 A/RES/75/57, December 7, 2020.
181 『ひろしまレポート2017 年版』を参照。
182 Zhang Zhihao, “Agreement on Missiles Extended by 10 Years,” China Daily, December 17, 2020, http://global.chinadaily.com.cn/a/202012/17/WS5fdab2b8a31024ad0ba9c4bf.html.
183 Andrew Roth, “Thieves Target Russia’s Nuclear War ‘Doomsday’ Plane,” Guardian, December 8, 2020, https://www.theguardian.com/world/2020/dec/08/thieves-target-russia-nuclear-war-doomsday-plane.

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