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国際平和拠点ひろしま

Hiroshima Report 2024(7) 警戒態勢の低減、あるいは核兵器使用を決定するまでの時間の最大限化

核兵器の警戒態勢に関して、2023年には核保有国の公式の政策に変化は見られなかった。米国及びロシアの戦略核弾道ミサイルは高い警戒態勢に置かれている。米国は2022の核態勢見直し(NPR)で、ICBMは「即時発射(hair-trigger)」の警戒態勢にはないとする一方で、危機安定性を損ないかねないとして、警戒態勢解除や警戒レベル低減は採用しないとの方針を示した207。英国及びフランスについては、それぞれSSBNの常時哨戒のもとで、米露のものよりは低い警戒態勢に置かれている。

中国は、米露のような平時からの高い警戒態勢を採用していないと見られるが、中国が言う「中程度の準備態勢」208が具体的にどのようなものであるかは明らかではない。米国は近年、中国が新型のMIRV化ICBM、SSBN及びSLBMの導入、さらにはロシアの協力による早期警戒システムの構築に伴い、そうした政策を変更し、警報即発射(LOW)態勢に移行しつつあると分析している209。こうした米国の主張に対して、中国は、警戒態勢を含む核態勢に変化はないと繰り返し述べている。

他の核保有国の動向は明らかではないが、インドは即時発射の態勢を採用していないと見られる。パキスタンは2014年2月に、核兵器を含むすべての兵器は首相を長とする国家司令部(Na­tional Command Authority)の管理下にあり、インドとの危機時にも核戦力使用の権限を前線の指揮官に移譲しないことを確認した210。北朝鮮は2020年5月の朝鮮労働党中央軍事委員会拡大会議で、「戦略的軍事力を高度な警戒運用下に置くための新たな政策を打ち出した」211と報じられたが、その具体的な措置や実効性は明らかではない。

警戒態勢の低減・解除が提案される目的の1つには、事故による、あるいは偶発的な核兵器の使用の防止が挙げられてきた。そうした核兵器の意図せざる使用のリスクを低減するために緊急の措置を講じることなどを求めた国連総会決議「核兵器の危険性の低減」212は122カ国の賛成で採択されたが、49カ国(豪州、オーストリア、カナダ、フランス、ドイツ、イスラエル、韓国、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ポーランド、スウェーデン、スイス、トルコ、英国、米国など)が反対、13カ国(中国、日本、北朝鮮、パキスタン、ロシアなど)が棄権した。


207 U.S. DOD, 2022 Nuclear Posture Review, 2022, p. 13.
208 NPT/CONF.2020/41, November 16, 2021.

209 The U.S. Department of Defense (DOD), Military and Security Developments Involving the People’s Republic of China 2023, October 2023, p. 112.
210 Elaine M. Grossman, “Pakistani Leaders to Retain Nuclear-arms Authority in Crises: Senior Official,” Global Security Newswire, February 27, 2014, http://www.nti.org/gsn/article/pakistani-leaders-retain-nuclear-arms-authority-crises-senior-official/.
211 “Supreme Leader Kim Jong Un Guides Enlarged Meeting of WPK Central Military Commission,” KCNA, May 24, 2020, http://www.kcna.co.jp/item/2020/202005/news24/20200524-01ee.html.
212 A/RES/78/44, December 4, 2023.

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