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国際平和拠点ひろしま

序文

『ひろしまレポート2022 年版―核軍縮・核不拡散・核セキュリティを巡る2021 年の動向』(以下、『ひろしまレポート2022 年版』)は、令和3 年度にへいわ創造機構ひろしま(事務局:広島県)から委託を受け、(公財)日本国際問題研究所 軍縮・科学技術センターが実施した「ひろしまレポート作成事業」1の調査・研究の成果である。核軍縮、核不拡散及び核セキュリティに関する具体的措置・提案の2021 年の実施状況を取りまとめ、日本語版及び英語版を刊行した。
核兵器廃絶の見通しは依然として立たないばかりか、核兵器を巡る状況は複雑化している。2021 年1 月に核兵器禁止条約(TPNW)が発効し、また2 月には米露新戦略兵器削減条約(新START)の5 年間延長が合意された。しかしながら、核兵器不拡散条約(NPT)上の5 核兵器国(中国、フランス、ロシア、英国、米国)、他の核保有国(インド、イスラエル、パキスタン)及び北朝鮮は、核兵器を引き続き国家安全保障における不可欠な構成要素と位置付け、程度の差はあれ、核弾頭の増産、核戦力の近代化や運搬手段の更新などといった核抑止の中長期的な維持を見据えた施策を講じている。核保有国によるさらなる核軍縮の合意や実施に向けた具体的な取組も見られなかった。核兵器国と同盟関係にある非核兵器国からも、提供される拡大核抑止への依存度を下げる政策は見られなかった。
核不拡散を巡る状況も明るいものではない。北朝鮮は、核兵器を放棄する意思がないと繰り返し言明するとともに、核弾頭を搭載可能な地上発射型のミサイルや潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の開発・実験を引き続き積極的に実施し、核戦力の高度化に邁進している。イラン核問題では、米国による包括的共同行動計画(JCPOA)離脱と対イラン制裁の実施に対抗して、イランが義務の一時履行停止を拡大し、合意の規定を大きく超えて濃縮ウランの貯蔵量やウランの濃縮度を増加させた。JCPOA 再建に向けた交渉も進展しなかった。
核セキュリティを巡る状況も楽観視できない。原子力施設に対するドローンを用いた妨害破壊行為やサイバー攻撃の脅威が高まっており、2021 年にも複数発生した。核セキュリティ措置の水準向上、支援強化、核セキュリティ関連条約の加入状況は一定程度進展してきたが、国際的な核セキュリティ強化のための取組の優先度はかつてほど高くはない。世界における兵器転用可能な核物質の在庫量については、民生用の高濃縮ウラン(HEU)は減少している一方で、民生用のプルトニウムについては増加している。また、東京電力柏崎刈羽原子力発電所で発生した運転員によるID の不正使用は、内部脅威対策の強化の必要性を認識させた。
こうしたなか、核兵器の廃絶に向けた取組を進めるにあたっては、核軍縮、核不拡散、核セキュリティに関する具体的な措置と、これらの措置への各国の取組の現状と問題点を明らかにすることが必要となる。これらを調査・分析して「報告書」及び「評価書」にまとめ、人類史上初の核兵器の惨劇に見舞われた広島から発信することにより、政策決定者、専門家及び市民社会における議論を喚起し、核兵器のない世界に向けた様々な動きを後押しすることが、『ひろしまレポート』の目的である。
各対象国の核軍縮などに向けた取組の状況を調査・分析・評価し、「報告書」及び「評価書」を作成する実施体制として、研究委員会が設置された。同委員会は会合を開催し、それらの内容などにつき議論を行った。
研究委員会のメンバーは下記のとおりである。

主査

戸﨑洋史(日本国際問題研究所軍縮・科学技術センター所長)(兼幹事)

研究委員

秋山信将(一橋大学大学院教授)
川崎 哲(ピースボート共同代表)
菊地昌廣(前核物質管理センター理事)
黒澤 満(大阪大学名誉教授)
玉井広史(日本核物質管理学会会員)
西田 充(長崎大学教授)
樋川和子(大阪女学院大学教授)
堀部純子(名古屋外国語大学准教授)
水本和実(広島市立大学広島平和研究所教授)

作成された「報告書」のドラフトに対して、核軍縮、核不拡散及び核セキュリティの分野において第一線で活躍する、下記の国内外の著名な研究者や実務家より貴重なコメント及び指摘を頂いた。

阿部信泰 元国連事務次長(軍縮担当)/前原子力委員会委員
マーク・フィッツパトリック(Mark Fitzpatrick)前国際戦略研究所(IISS)ワシントン事務所長兼不拡散・軍縮プログラム部長
鈴木達治郎 長崎大学核兵器廃絶研究センター・副センター長

また、『ひろしまレポート2022 年版』では国内外の有識者に、核軍縮・不拡散問題の動向、並びに展望と課題に関するご寄稿を得た2。記して謝意を表する3。


1 本事業は、広島県が平成23 年に策定した「国際平和拠点ひろしま構想」に基づく取組の1 つとして行われたものである。
2 それらの論考は執筆者個人の見解をまとめたものであり、へいわ創造機構ひろしま、広島県、日本国際問題研究所、並びに執筆者の所属する団体などの意見を表すものではない。
3 浅野英男、原田怜奈、守谷優希の各氏には本レポート編集作業に従事して頂いた。記して謝意を表する。

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