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国際平和拠点ひろしま

Hiroshima Report 2023概要―2022年の主な動向

2022年2月24日に開始されたロシアによるウクライナ侵略とこれに続くロシアの言動は、核軍縮、核不拡散及び核セキュリティを巡る様々な問題に、直接・間接に極めて大きな影響を与えた。8月に開催された第10回核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議では、核問題を巡る厳しい状況にあるからこそ、NPTの重要性を再確認すべく最終文書の採択が目指されたものの、ロシアの反対により、2015年の前回会議に続いて採択には至らなかった。核問題を巡る亀裂は核兵器国・非核兵器国間だけでなく、それ以上に核兵器国間で深刻化し、核問題にかかる合意の形成を一層難しくした。
2022年の核軍縮、核不拡散及び核セキュリティに関する主要な動向は下記のとおりであり、その状況は厳しさを増している。

 

(1) 核軍縮
2022年2月のロシアによる核恫喝を伴うウクライナ侵略は、広島・長崎への原爆投下以来初めて核兵器が使用されるとの強い危機感を国際社会にもたらした。
核軍縮を巡る核兵器国・非核兵器国間、さらには5核兵器国間の亀裂は、一層拡大した。核保有国は、引き続き国家安全保障における核兵器の役割を重視し、核戦力の近代化などといった核抑止の中長期的な維持や強化を見据えた施策を講じている。核兵器国と同盟関係にある非核兵器国も、提供される拡大核抑止への依存度を一段高めたように見受けられる。
この間、喫緊の課題として、核兵器不使用の継続、並びに核リスク低減について、核兵器国・非核兵器国が様々な提案を行った。しかしながら、核保有国によるさらなる核軍縮の合意や実施に向けた具体的な取組といった進展はほとんど見られなかった。
核兵器の保有や使用などの法的禁止を定めた核兵器禁止条約(TPNW)の署名・批准国は漸増しているが、核保有国及びその同盟国は条約に署名しないと明言している。

核兵器の保有数(推計)

➢ 総数は12,705発(推計)と減少しているものの、削減のペースは鈍化している。運用中の核弾頭数の削減が停滞し、再び増加する可能性も指摘されている。
➢ 中国、インド、パキスタン及び北朝鮮は、10年以上にわたって核弾頭数を漸増させてきた。

核兵器のない世界の達成に向けたコミットメント

➢ 「核兵器の廃絶」あるいは「核兵器のない世界」という目標に公然と反対する国はない。また、5核兵器国を含め多くの国が「核戦争に勝者はありえず、核戦争は決して戦われてはならない」との認識を再確認した。しかしながら、核軍縮の着実かつ具体的な実施・推進は2022年もほとんど見られず、多くの非核兵器国はそうした状況への批判を強めた。
➢ 8月に開催された第10回NPT運用検討会議において、ロシアが反対を表明したため、実質的事項に関する最終文書を採択できなかった。岸田文雄総理が出席し、演説で「ヒロシマ・アクション・プラン」を提唱した。
➢ 日本が主導して提案・採択された国連総会決議「核兵器のない世界に向けた共同行動の指針と未来志向の対話」に対して、フランス、英国及び米国などを含む147カ国が賛成した。他方で、ロシア及び中国などは反対した。

核兵器の非人道性

➢ 第4回「核兵器の人道的影響に関する国際会議」が6月に開催され、80カ国、国際機関、市民社会組織、学術界などから800名以上が参加した。
➢ TPNWの下で、あるいは個別の取組として、被害者援助・環境修復が議論または実施された。

核兵器禁止条約(TPNW)

➢ TPNWの締約国は2022年末時点で68カ国となった。
➢ 第1回締約国会議が6月に開催され、「宣言」、「ウィーン行動計画」、「決定」がコンセンサスで採択された。「宣言」では、TPNWとNPTとの補完性が再確認された。「ウィーン行動計画」には、条約の普遍性、核兵器の廃絶、被害者援助・環境修復、科学技術諮問の制度化、核軍縮・不拡散体制との関係、条約の目的を達成するための他の重要な事項について、締約国がとるべき50の行動が列記された。
➢ 核保有国及び同盟国は、引き続きTPNWに反対している。他方、第1回締約国会議に、少数ながら米国の同盟国がオブザーバー参加した。

核兵器の削減

➢ 米露は新戦略兵器削減条約(新START)で規定された戦略核兵器の数的上限に関する規定を遵守している。他方で、ロシアは対露制裁を理由に、現地査察の受け入れを一時的に停止すると発表した。現地査察の再開に向けて11月末に予定された二国間協議委員会も、ロシアが延期を通告して開催できなかった。
➢ 米国は2026年に期限を迎える新STARTについて、その後継となる新たな軍備管理枠組みを交渉する用意があると表明した。しかしながら、ロシアのウクライナ侵略以降、今後の軍備管理などについて議論する米露間の「戦略的安定対話」は開催されていない。
➢ 中国は、最大の核戦力を持つ米露のさらなる核兵器削減なしには核兵器削減プロセスには参加しないとの立場を繰り返し表明している。
➢ 核保有国は、いずれも核戦力の近代化を継続し、なかでもロシア及び中国は核弾頭搭載可能な各種の運搬手段の新たな開発・配備を積極的に推進している。米国は、中国が2035年までに約1,500発の核弾頭を配備する可能性があるとの見積もりを示した。

国家安全保障戦略・政策における核兵器の役割及び重要性の低減

➢ ロシアのウクライナ侵略は、そのロシアによる核兵器使用の可能性に対する強い懸念を国際社会にもたらした。また、ロシアの行為は、消極的安全保証にもブダペスト覚書にも反する行為であるとして、西側諸国などから強く批判された。
➢ 米国は核態勢見直し(NPR)を公表し、一部に修正を加えつつ、概ね従来の政策を踏まえた核態勢を提示した。
➢ 北朝鮮は法令「核戦力政策について」を9月に採択し、核兵器の先行使用の可能性を明示するとともに、核兵器を戦略的・戦術的側面から強化することなどを定めた。
➢ 国家安全保障戦略・政策における核兵器の役割、「唯一の目的」や先行不使用政策、消極的安全保証、拡大核抑止のいずれについても各国の政策に顕著な変化は見られなかった。米国はNPRで、先行不使用・唯一目的のいずれも採用しないとしつつ、唯一目的への移行という目標を保持しているとした。米国の同盟国は、米国による先行不使用政策などの採用に賛意を示していない。
➢ 中国の最小限抑止や核兵器先行不使用といった政策に変化が生じつつあるとの指摘に対して、中国はその核政策・態勢に変更はないことを強調した。

➢ スウェーデン及びフィンランドが北大西洋条約機構(NATO)への加盟を申請した。米国の同盟国は、拡大(核)抑止の重要性を再確認した。
➢ 5核兵器国、あるいはストックホルム・イニシアティブに参加する非核兵器国などは、NPT運用検討会議などで核リスク低減のための措置について、様々な提案を行った。

警戒態勢の低減、あるいは核兵器使用を決定するまでの時間の最大限化

➢ 核兵器の警戒態勢に関して、核保有国の政策に変化はなく、米露の戦略核兵器は高い警戒態勢のもとに置かれている。
➢ 中国が一部の核戦力を高い警戒態勢に置いているのではないかとの指摘に対して、中国はこれを否定している。

包括的核実験禁止条約(CTBT)

➢ 条約発効要件国44カ国のうち、5カ国(中国、エジプト、イラン、イスラエル、米国)の未批准、並びに3カ国(インド、パキスタン、北朝鮮)の未署名が続いている。
➢ 核兵器の保有を公表している国は、北朝鮮を除いて、核実験モラトリアムを宣言している。2018年以降、核爆発実験を実施した国はない。米国は、中露が「出力ゼロ」でない核実験を実施している可能性があると主張したが、中露はこれを否定した。
➢ 北朝鮮が核爆発実験の準備を完了したとも報じられたが、2022年には再開されなかった。
➢ いくつかの核保有国は、未臨界実験やコンピュータ・シミュレーションなどといった爆発を伴わない核実験を実施していると見られる。

兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)

➢ ジュネーブ軍縮会議(CD)では2022年も、FMCT交渉を開始できなかった。パキスタンは、兵器用核分裂性物質の新規生産のみを禁止する条約の策定に、依然として強く反対している。FMCTに関する国連総会決議には、中国、イラン、パキスタンが反対した。
➢ 中国、インド、イスラエル、パキスタン及び北朝鮮は兵器用核分裂性物質生産モラトリアムを宣言していない。

核戦力、兵器用核分裂性物質、核戦略・ドクトリンの透明性

➢ 透明性に関する核保有国の政策に大きな変化はなかった。
➢ 中国は、意図と政策の透明性が重要だと主張する一方で、保有する核戦力の種類・数などは一切公表していない。

核軍縮検証

➢ 米国のイニシアティブで発足した「核軍縮検証のための国際パートナーシップ(IPNDV)」では、仮想演習の実施を含め、検証措置に関するさらなる議論と検討が行われている。

不可逆性

➢ 米露は部分的ながら、戦略核運搬手段、核弾頭、余剰核分裂性物質の廃棄や転換を継続している。

軍縮・不拡散教育、市民社会との連携

➢ NPT運用検討会議及びTPNW締約国会議で、軍縮・不拡散教育、ジェンダーを含む多様性・包摂性、市民社会の参加の重要性が強調された。
➢ 日本は、若い世代の未来のリーダーを日本に招き、被爆の実相に触れてもらうという「ユース非核リーダー基金」を設けることとした。
➢ 核兵器の開発・製造などに携わる組織や企業などへの融資の禁止や、引揚げを定める国が出始めている。独自にそうした方針を定める企業も増えつつある。

広島・長崎の平和記念式典への参列

➢ 広島の式典には99カ国、長崎の式典には83カ国から参列がなされた。

 

(2) 核不拡散
NPTの締約国は191カ国を数えるものの、核兵器を保有するインド及びパキスタン、並びに核兵器保有を否定しないイスラエルが、非核兵器国としてNPTに加入する見通しは立っていない。また北朝鮮は、核兵器放棄の戦略的決断を行っていない。北朝鮮による核・ミサイル計画のための不法取引は依然として続いていると見られる。イラン核問題に関する包括的共同行動計画(JCPOA)については、米国の離脱(2018年)などへの対抗措置として、イランは合意で規定された義務の不履行を引き続き拡大させた。
国際原子力機関(IAEA)追加議定書を締結する国は漸増しているが、依然として40以上の非核兵器国が未締結である。ロシアによるウクライナ侵略は、ウクライナでのIAEA保障措置の実施にも影響を与えている。

核不拡散義務の遵守

➢ 北朝鮮の核問題の解決に向けた進展は見られなかった。北朝鮮は核兵器を放棄する意思はないと言明し、積極的な核・ミサイル開発を継続している。
➢ イランは、JCPOAの規定を大きく超えて、濃縮度20%及び60%の高濃縮ウラン(HEU)を含む濃縮ウラン保有量、稼働する遠心分離機の数・性能などを拡大している。JCPOA再建に向けた関係国による間接交渉が断続的に開催されたが、2022年中には合意には至らなかった。

国際原子力機関(IAEA)保障措置

➢ NPT締約国である非核兵器国のうち、2022年末時点で132カ国がIAEA保障措置協定追加議定書を締結した。他方、ブラジルをはじめとする一部の非同盟運動(NAM)諸国は、追加議定書による保障措置がNPT上の義務ではないと主張している。
➢ IAEAは2021年末時点で、69カ国に対して統合保障措置を適用した。またIAEAは2022年6月時点で、135カ国について「国レベルの保障措置アプローチ(SLA)」を開発・承認した。
➢ イランによるIAEA保障措置協定追加議定書の適用をはじめとするJCPOA上の検証・監視措置は引き続き停止されている。IAEAは、イランの核施設に設置された監視カメラ、オンライン濃縮モニター及び電子封印のデータにもアクセスできなかった。
➢ IAEAは、イランによる過去の秘密裏の核開発計画に関連すると疑われる4つの場所について、申告の正確性・完全性に関する問題が未解決であるとし、イランにさらなる明確化と情報の提供を求めている。
➢ 最初の研究用原子炉が完成間近であるサウジアラビアは、IAEA包括的保障措置協定を依然として締結しておらず、少量議定書(SQP)の修正も受諾していない。
➢ 豪州、英国及び米国(AUKUS)とIAEAは、豪州の原子力潜水艦導入にかかる核燃料への保障措置の実施に関して技術的な議論を開始した。中国などからは批判や懸念も示された。
➢ ロシアによるウクライナの原子力施設に対する攻撃・占拠により、IAEAの保障措置活動の安全かつ完全な実施が妨げられた。

核関連輸出管理の実施

➢ 原子力供給国グループ(NSG)メンバーは、国内体制の整備を含めて概ね着実かつ適切に輸出管理を実施してきた。これに対して、途上国を中心に制度・実施の強化が必要な国も少なくない。
➢ 北朝鮮は、瀬取りやサイバー活動などによる違法調達や不法取引を継続している。
➢ 中国はパキスタンへの原子炉の輸出を進めているが、NSGガイドライン違反が指摘されている。

原子力平和利用の透明性

➢ 中国は2018年以降、「プルトニウム管理指針」に基づく報告書を提出していない。

 

(3) 核セキュリティ
ロシアがウクライナの稼働中の原子力施設に対する攻撃・占拠を行い、施設の安全及び核セキュリティが著しく脅かされかねない状況が発生した。紛争下で国家が原子力施設に対してもたらす脅威への対処という新たな課題が浮き彫りになった。
原子力施設に対するサイバー攻撃やドローンを用いた妨害破壊行為の脅威は、引き続き注視が必要な状況である。他方で、国際的な取組については、3月に条約発効後初となる改正核物質防護条約(A/CPPNM)の運用検討会議が開催され、現時点における条約の妥当性が確認された。世界の兵器利用可能な核物質の在庫量は、日本及びカザフスタンで高濃縮ウラン(HEU)の最小限化の取組が大きく進展し、民生用の在庫量が減少した。他方で、分離プルトニウムは民生用が増加し、増加傾向が続いている。「国際核物質防護諮問サービス(IPPAS)」について、4つの本調査対象国が今後の受入れや計画を公表した。

核物質及び原子力施設の物理的防護

➢ 世界の兵器利用可能な核物質の在庫量は、HEUについては軍事用が減少し、軍事用・非軍事用を合わせた全体としても減少傾向が続いている。分離プルトニウムについては、非軍事用がフランス及び英国で増加し、増加傾向が続いている。日本の分離プルトニウムは減少した。
➢ 本調査対象国27カ国中20カ国が依然としてテロリストにとって魅力的となりうる兵器利用可能な核物質を保有している。

核セキュリティ・原子力安全にかかる諸条約などへの加入及び国内体制への反映

➢ ブラジルがA/CPPNMを批准した。また、トルコが放射性廃棄物等安全条約を批准したと発表した。大半の関連条約について締約国数が漸増した。
➢ 「核物質及び原子力施設の物理的防護に関する核セキュリティ勧告(INFCIRC/ 225/Rev.5)」に基づく措置の実施については、引き続き措置の国内体制への反映の進展について新たな情報発信が減少している。サイバーセキュリティに関して、英国が民生用原子力施設のためのリスクの管理・緩和のための新たな政策を示したほか、米国は2021年に国内の原発について関連規制の実施に関する検査を完了したことを発表した。

核セキュリティの最高水準の維持・向上に向けた取組

➢ 民生利用のHEU最小限化について、日本及びカザフスタンでHEUの撤去やHEU燃料炉の低濃縮ウラン燃料炉への転換が進んだ。また、ノルウェーも取組を継続している。
➢ フィンランドがフォローアップミッションを含めて3度目となるIPPASを受け入れた。また、スイスは2023年にフォローアップミッションを受け入れること、英国は受入れを予定していること、また米国はIPPASをIAEAに要請していることをそれぞれ発表した。日本も2025年にフォローアップミッションを含めて3度目となるIPPASを受け入れるべく、IAEAに要請することを決定した。
➢ 多国間の取組については、G7がロシアによるウクライナの原子力施設への攻撃によって生じた施設の安全と核セキュリティに関する危険な状況について、たびたび共同声明を発出し、ロシアを非難するとともに、状況に対する懸念を表明したほか、IAEA及びIAEA事務局長による本件に関する取組への支持を表明した。他方で、米国とロシアが共同議長を務める「核テロリズムに対抗するためのグローバル・イニシアティブ(GICNT)」は、2022年にすべての活動を一時的に停止した。また、核セキュリティ・サミット・プロセスから派生した核セキュリティの主要テーマの取組を促進するINFCIRCイニシアティブについては、2022年は動きが見られなかった。

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