Hiroshima Report 2023(3) IAEA 保障措置(核兵器国及び NPT 非締約国)
NPTは核兵器国に対して、IAEA包括的保障措置協定の締結を義務付けていない。しかしながら、NPTの不平等性を緩和するとの観点から、核兵器国は自発的保障措置協定(VOA)をIAEAと締結し、自国の平和的目的の原子力施設及び核物質に対して一部保障措置を受け入れてきた。
2022年9月に公表された「2021年版IAEA年次報告」によれば、2021年に保障措置下にあった、あるいは保障措置を受けた核物質を含む核兵器国の施設の数及び種類は下記のとおりである110。なお、IAEAは、査察の回数については公表していない。
➢ 中国:発電炉1、研究炉1、濃縮施設1
➢ フランス:燃料製造プラント1、再処理プラント1、濃縮施設1
➢ ロシア:分離貯蔵施設1
➢ 英国:濃縮施設1、分離貯蔵施設2
➢ 米国:分離貯蔵施設1
IAEAは「2021年版保障措置ステートメント」で、5核兵器国について、「選択された施設で保障措置が適用された核物質は、平和的活動にとどまっているか、あるいは協定の規定に沿って(核物質は保障措置の適用対象から)外れたと結論付けた。フランス、ロシア及び英国では、選択された施設からの引き出しはなかった」111(括弧内引用者)とした。
5核兵器国は、いずれも追加議定書を締結している。このうち、フランス、英国及び米国のそれぞれの追加議定書には非核兵器国が締結する追加議定書と同様の補完的なアクセスに関する規定が含まれ、米国はこれを受け入れた初めての核兵器国である。これに対して、中国及びロシアについては、上記の3核兵器国と比べると、原子力施設に対するIAEA保障措置の適用は限定的であり、また追加議定書には補完的なアクセスに関する規定が含まれていない。
フランスは、NPT運用検討会議に提出した国別報告で、民生用核物質を保有するすべての施設がEURATOMの保障措置の査察の対象になっていること、並びに一部の核燃料サイクル施設(ウラン濃縮工場、再処理工場、MOX燃料製造工場など)がEURATOMに加えてIAEA保障措置の対象にもなっていることを記載した112。英国も国別報告で、英国におけるすべての濃縮・再処理は国際保障措置下で実施されていること、IAEAとの保障措置協定では、国家安全保障上の理由による除外を除き、英国内の施設にあるすべての核原料物質または特殊な核分裂性物質に保障措置の適用を認めていることなどを記載した113。
NPT非締約国のインド、イスラエル及びパキスタンは、いずれもINFCIRC/66型保障措置協定を締結しており、当該国が協定の対象と申告した核物質・施設などにはIAEAによる査察が行われてきた。「2021年版IAEA年次報告」によれば、2021年に保障措置下にあった、あるいは保障措置を受けた核物質を含むNPT非締約国の施設の数及び種類は下記のとおりである(査察回数などについては非公表)114。
➢ インド:発電炉10、燃料製造プラント3、分離貯蔵施設2
➢ イスラエル:研究炉1
➢ パキスタン:発電炉7、研究炉2
これら3カ国の2021年の活動について、IAEAは、保障措置適用下にある核物質、施設及びその他の品目については平和的活動のもとにあると結論付けている115。
追加議定書については、2014年7月にIAEAとインドの間で発効した。この追加議定書は、中国及びロシアのものに近い内容で、情報提供や秘密情報保護などの条項は含まれるものの、補完的なアクセスなどは規定されていない。イスラエル及びパキスタンは、依然として追加議定書に署名していない。
NPTの締約国である非核兵器国が包括的保障措置の受諾を義務付けられているのに対して、核兵器国にはそのような義務が課されていないことへの不平等性を緩和すべく、非核兵器国はNPT運用検討会議などで、核兵器国に対して保障措置の一層の適用を提案してきた。また、NAM諸国はNPT運用検討会議で、核兵器国に対して包括的保障措置を受諾するよう求めた116。
110 IAEA Annual Report 2021, GC(66)/4/Annex, Table A35(a).
111 IAEA, “Safeguards Statement for 2021.”
112 NPT/CONF.2020/42/Rev.1, August 1, 2022.
113 NPT/CONF.2020/33, November 5, 2021.
114 IAEA Annual Report 2021, GC(66)/4/Annex, Table A35(a).
115 IAEA “Safeguards Statement for 2021.”
116 NPT/CONF.2020/WP.22, November 22, 2021.