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国際平和拠点ひろしま

Hiroshima Report 2024(2) 国際原子力機関(IAEA)保障措置 (NPT 締約国である非核兵器国)

A) IAEA 保障措置協定の署名・批准
核物質が平和的目的から核兵器及び他の核爆発装置へと転用されるのを防止・検知するために、NPT第3条1項で、非核兵器国はIAEAと包括的保障措置協定を締結し、その保障措置を締結・履行することが義務付けられている。2023年5月の時点で、NPT締約国である非核兵器国のうち、4カ国が包括的保障措置協定を締結していない49。

また、NPT上の義務ではないが、IAEA保障措置協定追加議定書の締結については、NPT締約国である非核兵器国のうち、2023年5月時点で135カ国が批准している。イランは2016年1月に追加議定書の暫定的な適用を開始したが、2021年2月にその適用を停止した。

包括的保障措置協定及び追加議定書のもとでの保障措置を一定期間実施し、その結果、IAEAによって「保障措置下にある核物質の転用」、「申告された施設の目的外使用(misuse)」及び「未申告の核物質及び原子力活動」が存在する兆候がない旨の「拡大結論(broader conclusion)」が導出された非核兵器国(2022年末時点で74カ国)については、包括的保障措置協定と追加議定書で定められた検証手段を効果的かつ効率的に組み合わせる統合保障措置(integrated safeguard)が適用される。2023年に公表され、2022年の状況を記載したIAEAの「2022年版保障措置ステートメント」によれば、2022年には69カ国で統合保障措置が実施された50。

本調査対象国のうち、NPT締約国である非核兵器国に関して、包括的保障措置協定及び追加議定書の署名・批准状況、並びに統合保障措置への移行状況は、表2-1のとおりである。なお、EU諸国は欧州原子力共同体(EURATOM)による保障措置を受諾してきた。また、アルゼンチン及びブラジルは二国間の核物質計量管理機関(ABACC)を設置し、両国、ABACC及びIAEAによる四者協定に基づく保障措置を実施している51。

2023年9月のIAEA総会で採択された決議「IAEA保障措置の有効性強化と効率向上」では、NPT締約国で小規模な原子力活動しか実施していない国である少量議定書(SQP)締結国に議定書の改正ないし改定を求めるとともに、同年9月時点で78カ国について改正が発効したことが記された52。原子力導入の意図を表明している国のなかで、サウジアラビアは依然としてSQPの改正議定書を受諾していないが53、2023年9月のIAEA総会で、サウジアラビアのアブドルアジーズ(Abdulaziz Bin Salman Bin Abdulaziz Al Saud)エネルギー大臣は、「少量議定書を破棄し、包括的保障措置協定を全面的に実施することを決定した。サウジアラビアは、国内エコシステムの枠組みの中で、国際的なベストプラクティスと経験に従い、この完全な履行のために必要なメカニズムの確立に取り組んでいる」54と発言した。11月にはグロッシIAEA事務局長が、アルゼンチンの企業により建設中のサウジアラビアの研究用原子炉が完成に近づいており、IAEAとサウジアラビアは必要な査察について議論していると述べた55。

B) IAEA保障措置協定の遵守
2023年6月に刊行された「2022年版保障措置ステートメント」によれば、2022年末時点で、包括的保障措置及び追加議定書の双方が適用される134カ国(2021年に追加議定書の暫定的適用を停止したイランは含まれない)のうち、IAEAは、74カ国についてはすべての核物質が平和的活動のもとにあるとして拡大結論を導出し、60カ国については未申告の核物質・活動がないことに関して必要な評価を続けている。また、包括的保障措置協定を締結し追加議定書未締結の46カ国について、IAEAは、申告された核物質は平和的活動のもとにあると結論づけた56。

 

北朝鮮
2022年9月のIAEA事務局長報告「北朝鮮への保障措置の適用」では、「2002年末から2007年7月まで、また2009年4月以降、IAEAは北朝鮮においていかなる直接的な保障措置手段を実施できていない」57とした。また、この報告では、報告期間(2022年8月~2023年8月)における遠隔監視などによる観察状況を以下のように記載した。

➢ ウラン採掘・精錬:報告期間中、平山(Pyongsan)ウラン鉱山とウラン精錬プラントでは、採鉱、精錬及び精製活動が継続中であることが示唆され、これはIAEAが過去数年間に観察した活動と一致していた。
➢ 寧辺(Yongbyon)のウラン濃縮施設とされる施設:報告された寧辺の遠心分離機濃縮施設が引き続き稼動しているとの兆候を観察した。2021年9月から2022年5月にかけて、この施設の新別館が建設され、全体の床面積が約3分の1増加した。報告期間中、新別館内でウラン濃縮に関連する活動が開始されたことが示唆された。
➢ 降仙(Kangson)のウラン濃縮に関する複合施設:報告期間中、進行中の活動が示唆された。
➢ 黒鉛炉:報告期間中、冷却水の排出を含む5MW実験原子力発電所の運転の兆候が引き続き観察された。しかしながら、2022年9月下旬、2022年11月中旬、2023年3月下旬、2023年4月中旬に、冷却水の排出がない短い期間があった。断続的な停止は、過去の原子炉運転サイクルの観察と一致している。
➢ 他の黒鉛炉:50MW黒鉛炉と200MW黒鉛炉の建設は再開されていない。
➢ 建設中の軽水炉:報告期間中、軽水炉周辺の活動レベルの上昇が観察された。2022年10月に南側冷却水出口用の新しい水路が掘削され、軽水炉の冷却水システムの試験の可能性を示す兆候が、以前の報告期間よりも頻繁に、より長い期間観察された。IAEAは軽水炉の運転の兆候を観察しておらず、現在入手可能な情報に基づき、IAEAが原子炉の運転開始時期を推定することは不可能である。報告期間中、軽水炉のすぐ近くに3つの新しい建物が建設された。2021年8月には、原子炉部品の製造または保守を支援するためと思われる、軽水炉の敷地南側の新しい建物群の建設が開始された。この建物群の建設は、2022年12月までに外部的に完了した。軽水炉施設のさらに南側では、2023年3月に別の工業タイプの建物の建設が開始された。
➢ 放射化学研究所(再処理施設):放射化学研究所の蒸気プラントは、2022年4月下旬から9月下旬まで、断続的ではあるが稼働していることがIAEAによって観察された。観測された蒸気プラントの運転は、放射化学研究所での廃棄物処理またはメンテナンス活動と一致している。2023年3月、放射化学研究所の北に位置する放射性廃棄物貯蔵場所を覆っていた土壌と植生が除去され、液体廃棄物貯蔵タンクと固体廃棄物貯蔵区画が露出しているのを確認した。放射化学研究所の東に位置する建物である第二の廃棄物貯蔵場所の近くでは、2023年6月下旬に小規模な掘削が確認された。

 IAEAは、「関係国間で政治的合意がなされれば、北朝鮮からの要請と理事会の承認を前提として、北朝鮮へ速やかに戻る準備ができている」とし、報告期間中に「IAEAは強化された準備態勢を維持するため、特に以下のような活動を行ってきた」58とした。

➢ 保障措置に関連する北朝鮮の核計画に関する公開情報の収集及び分析の継続と精緻化
➢ 北朝鮮の核開発プログラムを監視するため、光学及びレーダーによる高解像度の商業衛星画像の収集と分析の増加
➢ 北朝鮮における検証・監視活動を速やかに開始できるよう、必要な設備や備品の維持
➢ 核計画に関連する北朝鮮の最近の動向について職員のアップデートのためのトレーニングセミナーの開催
➢ 北朝鮮の核開発計画に関するIAEAの知見を文書化し、過去の活動で得た経験を保存してアクセスできるようにすべく、施設の3Dモデル化、地理空間情報システム(GIS)による情報統合、知識管理活動などを継続

 

イラン
検証・監視
イランは、2020年12月に制定された国内法に従い、追加議定書の暫定適用を含め、IAEAとの包括的保障措置協定の要件を超えるJCPOAの検証措置の実施を2021年2月に停止した。IAEAは、2023年11月に公表した報告書に、2021年2月23日以降、以下のような検証・監視活動を実施できていないことを記載した59。

➢ 重水の生産と在庫の監視または検証
➢ 2016年1月14日の合同委員会の決定(INFCIRC/907)で言及された2カ所でのシールドセルの使用が、合同委員会の承認通りに運用されていることの確認
➢ 保管中のすべての遠心分離機と関連インフラが保管されたままであるか、故障または損傷した遠心分離機の交換に使用されたかを確認するための継続的モニタリングの実施
➢ 安定同位体製造の監視を含む、ナタンズとフォルドの濃縮施設への、要請に応じた毎日のアクセス
➢ 濃縮施設における工程中の低濃縮核物質をトータルの濃縮ウラン備蓄の一部として検証
➢ イランがJCPOAに規定されている遠心分離機の機械試験を実施したか否かの検証
➢ 遠心分離機ローターチューブ、ベローズまたは組立ローターの生産と在庫の監視または検証、生産されたローターチューブとベローズがJCPOAに記載された遠心分離機の設計と一致しているか否かの検証、生産されたローターチューブとベローズがJCPOAに規定された活動のための遠心分離機の製造に使用されているか否かの検証、ローターチューブとベローズがJCPOAの下で合意された仕様を満たす炭素繊維を使用して製造されているか否かの検証
➢ イランで生産された、または他の供給源から入手したウラン精鉱(UOC)、及びそのようなUOCがウラン転換施設(UCF)に移転されたか否かの監視または検証
➢ JCPOA付属書IのD、E、S、Tの各セクションを含む、イランのその他のJCPOA核関連コミットメントの検証

また、イランは引き続き、保障措置協定の補助的取極の修正コード3.1の実施、追加議定書の暫定適用、オンライン濃縮モニター及び電子封印からのデータへのアクセス、設置された測定装置によって登録された測定記録へのアクセスなどを拒否している。この報告では、「イランが2022年6月、IAEAのJCPOA関連の監視・モニタリング機器をすべて撤去するという決定を下したことで、状況はさらに悪化した」ことにも言及した。

この間、イランとIAEAは2023年3月に、イランの核施設に監視カメラを再設置することで合意し、5月のIAEA報告ではローターチューブ及びベローズを製造するイスファハンの遠心分離機部品製造施設に設置したことを報告した60。

他方、グロッシ事務局長は9月16日、以下のように述べてイランを批判した。

イランは、NPT保障措置協定の下、イランで検証活動を行うために任命された経験豊富なIAEA査察官数名の指名を撤回するとの決定を通知してきた。これは、最近行われたイランに対する経験豊富な別の査察官の指定撤回に続くものである。…本日の決定により、イランは、イランを担当する査察官として指定された、IAEAの最も経験豊富な査察官のコアグループの約3分の1を事実上排除したことになる61。

イラン外務省は、上述の措置は米国、フランス、ドイツ、英国がIAEAを政治的な目的のために悪用したことへの対抗措置であると主張した62。また、ライシ大統領は、「査察に問題はないが、問題は一部の査察官である。信頼できる査察官はイランで作業を続けることができる」63とも述べた。

イランはNPT準備委員会で以下のように述べ、自国が適切にIAEA保障措置を受諾してきたとした。

最新の保障措置実施報告書によれば、IAEA査察官は2022年にイランで448件の査察を実施したが、これは日本及びカナダで実施された査察を合わせた数よりも多い。イランの誠実な協力がなければ、IAEAがイランでこのような前例のないレベルの検証活動を行うことは不可能である。イランがIAEAにこのレベルの協力を提供したことは称賛に値する。IAEAの最大の資産である信頼性を維持するためには、IAEAが無差別、公平かつ独立した方法で検証活動を行うことが不可欠である。IAEAは、そのアジェンダを操作しようとする外部からの圧力に抵抗しなければならない。IAEAが、20年前の嫌疑で拡散リスクのない、いわゆる未解決の保障措置問題の調査に重点を置くことは、IAEAと保障措置システムのためにならない。これまでのところ、JCPOAを潰そうとする人々の公言した目的にのみ貢献している64。

 

未申告活動
イランは包括的保障措置を引き続き履行しているが、過去の未申告活動の有無に関する問題は依然として未解決である。

IAEA事務局長は、2021年2月23日付の理事会への報告で、1989年〜2003年のイランによる秘密裏・組織的な核開発計画(AMADプラン)に関連するものであった可能性のある4つの場所でIAEAに未申告の核物質・活動の存在が疑われる問題について、IAEAによる評価をまとめた。このうち、1カ所(トゥルクザバード〔Turquzabad〕の倉庫であることが他の箇所で報告されている)では、環境サンプリングの結果、ウラン転換が実施された可能性を示す人為的に生成された天然ウラン粒子、並びにウラン236を含む低濃縮ウラン(LEU)及びウラン235の割合が天然よりわずかに低い濃度の劣化ウランが検出された。また、他の2カ所(バラミン〔Varamin〕とマリバン〔Marivan〕)では、環境サンプリングの分析結果として、人為的に生成されたウラン粒子の存在が示唆されたとした。さらに、残る1カ所(ラビサン・シアン〔Lavisan-Shian〕)については、広範囲にわたって痕跡が消され、整地されたため、IAEAは補完的アクセスを行う価値がないと評価した65。

IAEAは「2022年保障措置ステートメント」で、「2022年に、申告されていない場所における人為起源ウラン粒子の存在に関連する未解決の保障措置問題を解決すべくイランを関与させるためのIAEAの継続的な努力にもかかわらず、限られた進展しか得られなかった。イランがこれらの問題を明確にしない限り、IAEAは、イランの核計画がもっぱら平和的性格であるとの保証を提供することはできない」66と報告した。
 イランは2023年7月末、査察団が人工的に処理された痕跡のあるウランがあるとしたテヘラン近郊の2カ所について、IAEAに新たに詳細な回答を提出したと発表した67。しかしながら、その後も解決に向けた進展が見られないなかで、9月14日には63カ国68による共同声明で、「イランに対して、事務局長が指摘した以下の問題に対処する法的義務を果たすため、直ちに行動することを求める」とした69。

➢ イラン国内の未申告の場所で検出された核物質に関する未解決の保障措置問題(核物質及び/または汚染された機器の現在の場所についてIAEAに通知することを含む)
➢ イスファハン・ウラン転換施設においてIAEAが確認した核物質の量と、イランが申告した量との不一致
➢ 要求される初期設計情報の提供を含む、イランによる保障措置協定の付属取り決めの修正コード3.1の履行

 

シリア
IAEAは、2007年のイスラエルによる空爆で破壊されたシリアのダイル・アッザウル(Dair Alzour)のサイトについて、IAEAに未申告で秘密裏に建設されていた原子炉だった可能性が高いと評価している。IAEAはシリアに、未解決の問題について十分に協力するよう求めているが、シリアは依然として対応していない70。

また、「2022年版IAEA保障措置ステートメント」では、2022年にダマスカス近郊の小型研究炉(MNSR)及びホムス(Homs)市内の施設外の場所(LOF)で査察を実施したこと、並びにシリアが申告した核物質については、平和的活動からの転用を示す兆候はなかったことが記載された71。

 

非核兵器国による海軍原子力推進(原子力潜水艦)の取得
非核兵器国による海軍原子力推進(原子力潜水艦)の取得に関して、2023年3月13日のAUKUS(豪英米の安全保障協力パートナーシップ)首脳会合では、豪州への原潜供与計画の詳細―2030年代初頭から豪州に米原潜3隻(必要に応じて、さらに最大2隻)を供与すること、2030年代後半に、英国は最初の攻撃型原子力潜水艦(SSN)AUKUSを英国海軍に納入することなど―が明らかにされた72。5月にはIAEA事務局長報告で、AUKUSの動向、並びに3カ国とIAEAの議論の動向が概略された73。

AUKUSによる原潜供与を厳しく非難してきた中国は、2023年のNPT準備委員会に提出した作業文書でも改めて批判を繰り返した74。

米英が豪州に移転する海軍用原子力推進炉とそれに関連する核物質は、現行のIAEA保障措置制度では効果的な保障ができない。したがって、このようにして移転された核物質が、核兵器やその他の核爆発装置の製造に転用されないという保証はない。
…3カ国とIAEAには、包括的保障措置協定第14条とその適用を解釈する権限はない。これまで適用されたことのない第14条の適用については、国際的に大きな隔たりがある。「非平和的活動」や「非規定軍事活動」の定義、保障措置の不適用の範囲や手続きについて、国際社会のコンセンサスはまだ得られていない。歴史上、包括的保障措置協定、追加議定書、少量議定書を問わず、あらゆる種類の保障措置協定の形成、変更、説明、締結は、すべてIAEA加盟国が交渉、決定し、理事会が承認している。したがって、包括的保障措置協定第14条の説明も例外ではない。
豪州が保障措置の不適用の理由に第14条を適用することは、悪しき前例となる。原子力潜水艦に関する3カ国協力には、大量の兵器級HEUが含まれている。豪州が保障措置の不適用を求めれば、非核兵器国が保障措置義務を履行するための新たな取極が生まれることになる。つまり、核活動の一部はIAEAの保障措置の対象となるが、大量のHEUは保障措置の対象外となる。このような協力は「パンドラの箱」を開けることになり、他の国もこれに追随する可能性があり、国際的な核不拡散体制を大きく損ない、地域の核のホットスポット問題の解決に悪影響を及ぼすことになる。
…原子力潜水艦の保障措置に関する3国間協力は、複雑な政治的、法的、技術的問題を含んでおり、NPTの権威、完全性、有効性に直接関係するものである。すべてのIAEA加盟国は、透明で、オープンで、包括的な政府間プロセスを通じてこの問題を議論し、保障措置システム強化の歴史的慣行に従って、コンセンサスによる決定を行うことを許されるものとする。3カ国は、すべての締約国が合意する前に原子力潜水艦協力を開始してはならない。IAEA事務局は、3カ国との保障措置取極について、恣意的な交渉、締結を行ってはならない。

ロシアも以下のように述べて、AUKUSの下での豪州による原潜取得に反対した。

我々はAUKUSの三国間パートナーシップに反対する。これは、アジア太平洋地域に根本的に新しい地政学的状況を生み出すものである。このパートナーシップの中で、核兵器の配備に利用できる核兵器国のインフラが、非核兵器地帯国でもある非核兵器国に構築されようとしている。これは、核軍縮の努力を損なう不安定な要素を生み出す。加えて、IAEA包括的保障措置の対象とはなり得ない核物質の移送を伴うこのパートナーシップは、保障措置協定に違反しないとはいえ、将来、他の国によって利用される可能性のある先例を作ることになる。これは、NPT体制の弱体化につながる75。

非核兵器国のなかではインドネシアが、「この技術の潜在的な二重利用の性質から、同じ進歩が核兵器の開発や保障措置体制の弱体化に応用されうるという課題が生じる可能性があることを認識しなければならない」76と述べた。また、エジプトも、「核兵器国から非核兵器国へ、保障措置がなされない兵器級核分裂性物質を大量に移転する核パートナーシップは、核不拡散体制の信頼性と有効性に対する前例のない脅威であり、IAEA保障措置システムに広範囲な影響を及ぼす先例となる。AUKUS協定のような新しいタイプの原子力パートナーシップの影響について、本会議は綿密に検討する必要がある」77と懸念を表明した。

これに対して、豪州は、核兵器を取得する意図がないことを繰り返し表明し78、また「豪州の通常兵器搭載原子力潜水艦の取得に関して、我々は、最高の核不拡散基準を満たし、IAEAがその技術的保障措置の目的を引き続き達成できるような核不拡散アプローチの開発について、IAEAと公明正大かつ透明性をもって関与し続ける」79と反論した。また、豪英米は、2022年の第10回NPT運用検討会議に提出した作業文書で、AUKUSの取組は核不拡散義務に違反せず、核拡散の懸念もないと主張した80。他方、豪州は、言及した「最高の核不拡散基準」が具体的に何を意味しているか、包括的保障措置協定や追加議定書に規定された措置以上の追加的な措置が含まれるのかなどについては明らかにしていない。

以前から非核兵器国で初となる原子力潜水艦の保有を目指し、建造を開始したブラジルは、NPT準備委員会で、「NPTのいかなる規定も、海軍原子力推進の開発を妨げるものではない。さらに、このような活動は、すべての包括的保障措置協定において、適用除外事項として明確に位置づけられている。したがって、海軍原子力推進は原子力平和利用である。結果として、非核兵器国によるこの権利の行使に対して、IAEAの保障措置体制が定める義務を超えた、いかなる前提条件も容認されるべきではない」と述べた。ブラジルはまた、「海軍原子力推進という正当な目標を追求するうえで、IAEAとの透明性と開かれた関与を約束し、IAEAの不拡散マンデートを実行する能力を確保するとともに、IAEA加盟国に関連する進展について情報を提供する」とした81。

 

ウクライナ問題
ウクライナはIAEAと包括的保障措置協定及び追加議定書を締結し、「2019年版保障措置ステートメント」によれば統合保障措置が適用されていた。「2020年版保障措置ステートメント」では、ウクライナには拡大結論が導出されていないと記述されたが、米国及びEUは、これはウクライナの瑕疵ではなく、ロシアによるクリミア占領、あるいはウクライナ東部でロシアが支援する武装勢力の活動により、拡大結論の導出に必要な情報やアクセスをIAEAが得られなかったためだとした82。

2022年になると、ロシアによるウクライナ侵略と、チョルノービリ(Chornobyl)原発やザポリージャ(Zaporizhzhia)原発に対する武力攻撃や占拠を受けて、IAEAによる保障措置の実施はたびたび問題に直面した。IAEAの「2022年版保障措置ステートメント」では、「2022年2月に始まったウクライナにおける武力紛争は、ウクライナにおける包括的保障措置協定及び追加議定書の下での保障措置の履行に前例のない困難をもたらした。それにもかかわらず、IAEAは1年を通じてウクライナにおける重要な検証の役割を継続し、2022年のウクライナに対する保障措置の結論を導出するために必要な、十分な現地検証活動を実施することができた」83と報告した。

9月にIAEA総会で採択された決議「ウクライナにおける原子力安全、核セキュリティ及び保障措置」では、「ウクライナの包括的保障措置協定及び追加議定書にしたがい、安全かつ確実な運転を確保し、IAEAが安全で効率的かつ効果的に保障措置を実施するために、ウクライナ国家原子力規制検査局(SNRIU)が発行した現行の許可に基づき、ウクライナのザポリージャ原子力発電施設(ZNPP)からすべての無許可の軍人及びその他の無許可の要員を緊急に撤退させ、プラントを管轄のウクライナ当局の完全な管理に直ちに戻すことを求める」84とした。


49 IAEA, “Status List: Conclusion of Safeguards Agreements, Additional Protocols and Small Quantities Protocols,” May 3, 2023, https://www.iaea.org/sites/default/files/20/01/sg-agreements-comprehensive-status.pdf. 未締結の4カ国は、いずれも少量の核物質しか保有していないか、原子力活動を行っていない。

50 IAEA, “Safeguards Statement for 2022,” 2023.
51 ABACCはNPT準備委員会で、「この32年間に、ABACCは300回以上の無通告査察を含め、両国の原子力施設で3,500回以上の査察を実施してきた。COVID-19のパンデミックによる制約にもかかわらず、ABACCは年次検証計画を遵守し、2020年に134回、2021年に122回の査察を実施できたことを強調したい」と報告した。“Statement of the Brazilian-Argentine Agency for Accounting and Control of Nuclear Materials (ABACC),” First PrepCom for the 11th NPT RevCon, July 31, 2023.
52 GC(66)/RES/11, September 2023.
53 サウジアラビア初の研究用原子炉が完成間近で、同国はその核燃料を輸入する前に保障措置協定を再交渉し、すべての核物質・活動が適切に保障措置下に置かれるようIAEAと補助取極を締結するなど、保障措置活動をSQPによるものから包括的保障措置協定に基づくものへ変更する必要がある。現在サウジアラビアが締結しているSQPでは、現在導入をはかっている新規研究用原子炉に対して要請される原子炉の設計・建設の段階での検証(設計情報検認:DIV)を行うことはできない。

54 “Statement of the Saudi Arabia,” IAEA General Conference, September 25, 2023.
55 Pesha Magid, “IAEA Chief Says Saudi Research Reactor Almost Complete,” Reuters, December 13, 2023, https://www.reuters.com/business/energy/iaea-chief-says-saudi-research-reactor-almost-complete-2023-12-13/.

56 IAEA, “Safeguards Statement for 2022.”
57 GOV/2023/41-GC(67)/20, August 25, 2023.

58 Ibid.
59 GOV/2023/57, November 15, 2023.

60 GOV/2023/24, May 31, 2023.
61 “IAEA Director General’s Statement on Verification in Iran,” September 16, 2023, https://www.iaea.org/newscenter/pressreleases/iaea-director-generals-statement-on-verification-in-iran-0.
62 “EU Urges Iran to Reconsider Barring of UN Nuclear Watchdog Inspectors,” France 24, February 17, 2023, https://www.france24.com/en/middle-east/20230917-eu-urges-iran-to-reconsider-barring-un-nuclear-watchdog-inspectors.
63 Parisa Hafezi and Michelle Nichols, “President Raisi Says Iran Has ‘No Problem’ with IAEA Inspections,” Reuters, September 21, 2023, https://www.reuters.com/world/middle-east/president-raisi-says-iran-has-no-problem-with-iaea-inspections-2023-09-21/.
64 “Statement by Iran,” First PrepCom for the 11th NPT RevCon, August 1, 2023.
65 GOV/2021/15, February 23, 2021.

66 IAEA, “Safeguards Statement for 2022.”
67 Jon Gambrell, “Iran Gives ‘Detailed Answers’ to UN Inspectors 0ver 2 Sites Where Manmade Uranium Particles Found,” AP News, July 26, 2023, https://apnews.com/article/iran-nuclear-program-iaea-answers-uranium-49d750f406b9321b266f9641b00fed75.
68 参加国は、豪州、オーストリア、カナダ、チリ、フランス、ドイツ、日本、韓国、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ポーランド、サウジアラビア、スウェーデン、スイス、トルコ、英国、米国など。
69 “International Joint Statement at IAEA Board of Governors on NPT Safeguards Agreement with Iran,” September 14, 2023, https://www.gov.uk/government/news/international-joint-statement-at-iaea-board-of-governors-on-npt-safeguards-agreement-with-iran.

70 IAEA, “Safeguards Statement for 2022.”
71 Ibid.
72 “Joint Leaders Statement on AUKUS,” March 13, 2023, https://www.whitehouse.gov/briefing-room/statements-releases/2023/03/13/joint-leaders-statement-on-aukus-2/.
73 GOV/INF/2023/10, May 31, 2023.
74 NPT/CONF.2026/PC.I/WP.31, August 2, 2023.

75 “Statement by Russia,” First PrepCom for the 11th NPT RevCon, August 1, 2023.
76 “Statement by Indonesia,” First PrepCom for the 11th NPT RevCon, August 1, 2023.
77 “Statement of Egypt,” Cluster 2, First PrepCom for the 11th NPT RevCon, August 4, 2023.
78 たとえば、以下を参照。Richard Marles, Deputy Prime Minister, Minister for Defence, “AUKUS Nuclear-Powered Submarine Pathway,” March 14, 2023, https://www.minister.defence.gov.au/media-releases/2023-03-14/aukus-nuclear-powered-submarine-pathway.
79 “Statement by Australia,” First PrepCom for the 11th NPT RevCon, August 1, 2023.
80 NPT/CONF.2020/WP.66, July 22, 2022.

81 “Statement by Brazil,” First PrepCom for the 11th NPT RevCon, August 1, 2023.
82 “Statement by the United States,” IAEA Board of Governors, June 9, 2021, https://vienna.usmission.gov/iaea-bog-2020-safeguards-implementation-report/; “Statement by the EU,” IAEA Board of Governors, June 7-11, 2021.
83 IAEA, “Safeguards Statement for 2022.”
84 GC(67)/RES/16, September 30, 2023.

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