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国際平和拠点ひろしま

Hiroshima Report 2024序文

『ひろしまレポート2024年版―核軍縮・核不拡散・核セキュリティを巡る2023年の動向』(以下、『ひろしまレポート2024年版』)は、令和5年度にへいわ創造機構ひろしま(事務局:広島県)から委託を受け、(公財)日本国際問題研究所 軍縮・科学技術センターが実施した「ひろしまレポート作成事業」1の調査・研究の成果である。核軍縮、核不拡散及び核セキュリティに関する具体的措置・提案の2023年の実施状況を取りまとめ、日本語版及び英語版を刊行した。
『ひろしまレポート』の刊行が開始された2012年以降、核兵器廃絶の見通しは依然として立たないばかりか、核兵器を巡る状況は厳しさを増してきた。2023年には、G7広島サミットで「核軍縮に特に焦点を当てた初のG7首脳文書」である「核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン」が採択されるなど、国際社会は様々な取組を試みてきたが、状況の悪化を抑制するには至らなかった。
NPT上の5核兵器国(中国、フランス、ロシア、英国、米国)、他の核保有国(インド、イスラエル、パキスタン)及び北朝鮮は、核兵器を国家安全保障における不可欠な構成要素と位置付け、程度の差はあれ、核戦力の近代化や運搬手段の更新などといった核抑止の中長期的な維持や強化を見据えた施策を講じている。なかでも、中国による核戦力の質的・量的な強化が加速していることに懸念が高まりつつある。ウクライナへの攻撃を続けるロシアは、2023年も核恫喝を繰り返した。そのロシアは、米露間の新戦略兵器削減条約(新START)の履行停止を通告し、包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准も撤回した。米露間・米中間を含め、核保有国によるさらなる核兵器削減に向けた成果も見られなかった。
核不拡散を巡る状況も明るいものではない。北朝鮮は、核兵器を放棄する意思がないと繰り返し言明するとともに、核弾頭を搭載可能な各種ミサイルの開発・実験を引き続き積極的に実施し、核戦力の高度化に邁進している。北朝鮮は、核兵器の先行使用の可能性も繰り返し示唆した。イラン核問題では、包括的共同行動計画(JCPOA)の再建に向けた米国とイランの間接交渉が断続的に開催されたが、合意には至らなかった。この間、イランはJCPOAの規定を大きく超えて濃縮ウランの貯蔵量やウランの濃縮度を増加させた。
核セキュリティを巡る状況は引き続き注意を要する。ロシアによるウクライナの原発の軍事占拠が継続し、近辺での戦闘が激化するなか、施設の原子力安全及び核セキュリティが著しく損なわれかねない事態に何度も直面した。国家がもたらす脅威への対応という新たな課題が一層明白となった。従来からの核セキュリティについては、人工知能(AI)などの新興技術の発展により原子力施設に対するサイバー攻撃やドローンを用いた妨害破壊行為の脅威は多様化、複雑化しており、引き続き注視が必要である。内部脅威対策及び核セキュリティ文化醸成の取組の一層の強化も求められる。関連条約への参加について、グローバルサウスの国々に進展が見られた一方、多国間のイニシアティブによる取組はG7による取組以外は限定的であった。
こうしたなか、核兵器の廃絶に向けた取組を進めるにあたっては、核軍縮、核不拡散、核セキュリティに関する具体的な措置と、これらの措置への各国の取組の現状と問題点を明らかにすることが必要となる。これらを調査・分析して「報告書」及び「評価書」にまとめ、人類史上初の核兵器の惨劇に見舞われた広島から発信することにより、政策決定者、専門家及び市民社会における議論を喚起し、核兵器のない世界に向けた様々な動きを後押しすることが、『ひろしまレポート』の目的である。
各対象国の核軍縮などに向けた取組の状況を調査・分析・評価し、「報告書」及び「評価書」を作成する実施体制として、研究委員会が設置された。同委員会は会合を開催し、それらの内容などにつき議論を行った。
研究委員会のメンバーは下記のとおりである。

 

主査

戸﨑洋史(日本国際問題研究所軍縮・科学技術センター所長)(兼幹事)

研究委員

秋山信将(一橋大学大学院教授)
川崎 哲(ピースボート共同代表)
菊地昌廣(前核物質管理センター理事)
黒澤 満(大阪大学名誉教授)
玉井広史(日本核物質管理学会メンター部会幹事)
西田 充(長崎大学教授)
樋川和子(大阪女学院大学教授)
堀部純子(名古屋外国語大学准教授)
水本和実(広島市立大学名誉教授)

作成された「報告書」のドラフトに対して、核軍縮、核不拡散及び核セキュリティの分野において第一線で活躍する、下記の国内外の著名な研究者や実務家より貴重なコメント及び指摘を頂いた。

阿部信泰 元国連事務次長(軍縮担当)/前原子力委員会委員
マーク・フィッツパトリック(Mark Fitzpatrick)前国際戦略研究所(IISS)ワシントン事務所長兼不拡散・軍縮プログラム部長
ターニャ・オグルビー・ホワイト(Tanya Ogilvie-White)核軍縮・不拡散アジア太平洋リーダーシップ・ネットワーク(APLN)上級研究顧問
鈴木達治郎 長崎大学核兵器廃絶研究センター・副センター長

『ひろしまレポート2024年版』では国内外の有識者に、核軍縮・不拡散問題の動向、並びに展望と課題に関するご寄稿を得た2。また、大森玲弥、川目慎太郎、高橋理都子、髙畑和万、田村晃生、丸山翔大の各氏には本レポート編集作業に従事して頂いた。記して謝意を表する。


1 本事業は、広島県が平成23年に策定した「国際平和拠点ひろしま構想」に基づく取組の1つとして行われたものである。

2 それらの論考は執筆者個人の見解をまとめたものであり、へいわ創造機構ひろしま、広島県、日本国際問題研究所、並びに執筆者の所属する団体などの意見を表すものではない。

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