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国際平和拠点ひろしま

chapter1-31.3 3つの課題

核軍縮という目標のために、私たちは何ができるのだろうか。すでに多くの建設的な提案がなされ、議論されている中で、私たちはより注目に値すると思われる次の三つの課題をとりあげたい。

a.被爆都市広島

まず、包括的核軍縮に関する多くの提言にもかかわらず、実際の核削減は米ロ二国間プロセスが中心になっている。地球上に存在する核兵器の90%以上が両国によって保有されている事実を考慮すれば、二国間主義が中心になるのはもっともなことであろう。しかしながら、それでは、米ロ以外の核保有国の核兵器は手付かずのままとなってしまう。

二国間プロセスへの集中は包括的核軍縮を進める上での課題である。米ロ核兵器削減は、両国の核兵器保有数の優位性を保証する形で進められてきた。両国は多くの核弾頭を削減してきたが、依然、ほかの核保有国よりもはるかに多くの核兵器を保有している。もし米国とロシアが今後も数における優位性を維持しようとすれば、両国の核兵器保有数が他の核保有国の数に近づくにつれ、米ロ両国の核削減の速度は遅くなることになる。核軍縮に向けたイニシアティブは、それが二国間レベルにとどまるかぎり立ち消えになる可能性がある。

ではどうすれば、米国とロシア以外の核保有国をより包括的な核軍縮プロセスに参加させることができるだろうか。核能力がはるかに低い米ロ以外の核保有国が、そのようなプロセスへの参加に抵抗を感じていることは明らかである。新たなアジェンダを設定しないかぎり、核兵器保有数の少ないこれらの国々での核軍縮が進まないばかりか、米ロの二国間プロセスもいずれ足踏み状態になるだろう。

ここで必要とされるアジェンダは明白である。戦略兵器削減について米ロのほかにもっと多くの国々の参加を促し、多国間核軍縮プロセスを開始しなければ、今後核を廃絶していくことは不可能であろう。ではどのようにすれば、核兵器に関する戦略的優先事項や利害が異なる核保有国を、多国間核軍縮プロセスに巻き込んでいくことができるだろうか。しかも、新STARTの次回の協議によって期待される進展を待たずに、また、米ロの核戦力をある程度まで削減していきながらそのようなことができるだろうか。

多国間核軍縮に向けた提案は、参加国や核軍縮によって影響を受けるその他の国々に対する安全保障を伴わなければならない。さもなければ、核兵器削減が安全保障の懸念を引き起こす可能性がある。加えて、核分裂及び放射性物質の国際監視や、ウラン濃縮施設、再処理施設及び使用済み核燃料貯蔵施設の多国間査察・管理、さらに核テロ対策など、核不拡散に関わる多くの難題についても議論しなければならない。これらの対策を提供できなければ、核軍縮を進展させるよりも核を保有している方が安全であるという信念を強化することになり、核削減及び将来の核全廃を目指すあらゆる対話や交渉を台無しにすることになりかねない。

つまり、この核軍縮プロセスによって不安定ではなく安全がもたらされることを確実にする必要があり、私たちはこれを政府・非政府両レベルでの継続的多国間交渉という形で行うことを提言する。この多国間交渉を通して、核兵器の相互削減に集団で取り組む一方で、参加国が信頼を醸成しそうした国々の安全が保障されなければならない。さらに、非公式な紳士協定を法的拘束力のある公式な制度にするためのあらゆる機会が追求されなければならない。これが、私たちの第一の課題である。

b.地域紛争に目を向ける

核保有国はこれまで、地域安全保障の欠如を前提に、核戦力が国家安全保障上必要であると主張しそれを擁護してきた。そのような正当化を私たちは真に受ける必要はないかもしれない。だが、核兵器の役割縮小のための基本的要因のひとつとして地域秩序の安定化をいかにして達成できるのかという疑問は解決されない。

米国とロシアの関係に関する限り、相互確証破壊の脅威を互いに認識する必要がなくなる安定したレベルにまで両国の関係は達しており、従来の核抑止の考え方に、もはや、かつて程の有用性は見いだせない。しかしながら、ほかの地域に目を向ければ核抑止力や拡大抑止に依存する国家間関係が未だ認められる。米ロ間における大規模な核戦争の脅威は遠のいたかもしれないが、このような進展はほかの地域では未だみられない。


アジアはこのよい例である。インド、パキスタン、北朝鮮などの新しい核保有国は事実上、全て、国防の基本として核戦力を保持している。中国と近隣諸国の関係は現在の米ロ関係よりはるかに不安定であり、それがこの地域の核抑止力と拡大抑止への依存につながっている。また、言うまでもないことであるが、中東への核拡散は核軍縮に向けた取組を危険にさらすことになる。

この点に関して、私たちは多国間による核軍縮と地域安全保障を結び付けなければならない。多くの核保有国は、グローバルなレベルでの戦略目標を有しているわけではない。これらの国々にとっての関心の中心はむしろ、地域内での競争関係やレジームの中での生き残りといった、狭義の安全保障にかかる懸念である。地域安全保障に対する取組の重要性はこれまでも唱えられてきた。しかしながら、核軍縮のための提言の中では、複雑な地域紛争の詳細についてはほとんど関心が払われてこなかった。

 

核戦力に大きく依存した国家間紛争を、どうすれば核兵器により依存しないようにさせることができるだろうか。どうすれば地域紛争における核兵器への依存の度合いを低下させることができるだろうか。これが二つ目の課題である。

[写真提供] ユニタール広島事務所

 

c.平和構築の取組

今日まで、核軍縮への取組は、地域紛争を解決し平和をもたらす取組とはどちらかというと別のものとして扱われてきた。そうではなく、私たちは、核軍縮の枠組みをこえて双方に取り組む必要があると考えている。

核保有国の多くは、安全保障上の緊張状態が高まっている地域にあり、これらの地域では実際に戦争が起きる可能性もある。そうした地域では、民族紛争や宗教紛争、長引く国境紛争、過激派を抑えられるだけの国家機能の麻痺など、軍事衝突を生み出すさまざまな要因を抱えている。そして万が一そのような軍事衝突が発生した場合、核兵器は開発されるだけでなく、実際に使用されるかもしれない。かりに核兵器が使用されなかったとしても、破綻国家の出現は政治的空白を生みだす可能性があり、またそれによって過激派やテロリストに自らの手で核兵器を開発する機会を与えてしまうかもしれない。こうした現状に鑑みると、予防外交や紛争解決、紛争後の平和構築など、地域紛争に平和をもたらすという幅広い観点から核軍縮を進める必要があることは明らかであろう。

広島には紛争解決と平和構築に積極的に関与する資格がある。甚大な被害を経験したほとんどの紛争終結地域は、絶望から立ち上がり復興と再生を目指さなければならない。広島は、そうしたプロセスを乗り越えてきた。核による大虐殺を経験した後、広島では建物やインフラの再建といった物理的な復興がなされた。また、基本的な公共サービスのような行政機能も回復した。こうした復興のプロセスは、とりわけ何十年にもわたり身体、精神の両面で苦しみ続けている被爆者にとって困難なものであった。紛争終結後の社会においても同様に、物理的、精神的両面での復興が求められるだろうが、後者の復興は長く根気のいるものになるであろう。

 

それゆえに、広島の経験、特に復興という重責を担った一般市民の立場からの経験は、紛争後の復興や平和構築に携る人々と共有できる。広島は、その苦しみや悲しみを分かち合うことで、そうした人々を十分に支援できる可能性を有している。これは、広島の重要な財産である。広島の負の遺産を通じて育まれ、また平和構築プロセスに十分に活用されるべきものである。

平和構築に向けた幅広い取組に従事する中で、広島のコミュニティは、破綻国家・戦争状態にある国家で平和構築に取り組む際に直面するであろう様々な課題に立ち向かう必要がある。平和構築を成功させるためには、信頼醸成、能力育成、そして長期的財政支援が必要不可欠であることをここで銘記しなければならない。なお、従来、紛争後の国家を支援する場合、先進国は専らインフラの再建に焦点をあててきた。広島にとってのチャレンジは、まず、このパラダイムを転換することから始めなければならない。これが、私たちにとって第三の課題である。

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