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国際平和拠点ひろしま

コラム:国連ボランティア活動について

平和推進プロジェクト・チーム職員が,入庁前に参加していたエルサルバドル共和国での国連ボランティア活動について紹介します。

 

国連ボランティアについて

国連ボランティア(UNV)とは,国連ボランティア計画が,ボランティアリズムを通じた世界の平和と開発に貢献することを目的に,世界各地の国際連合(国連)機関にボランティアを派遣する制度です。ボランティアですが無償の奉仕活動ではなく,現地での生活費,住居費の他に家族手当,有給休暇などが支給されます。UNVは,応募時に提示された職務要件に基づいて,配属先の国連機関で活動をします。私の場合は,配属先がエルサルバドル共和国の国連児童基金(ユニセフ)でした。職務要件は,保健・地域開発オフィサーとして,職員指導の下,青少年保護育成に向けた地域包括システムの構築を推進することでした。
UNVは国連職員ではありませんが,国連のプロジェクトに携わりながら実務経験が積めることが大きなメリットです。UNVを経験してから,ジュニア・プログラム・オフィサー(JPO)へ応募して国連職員を目指すというステップを踏む人も多いです。

詳しくは,国連ボランティア計画(東京駐在事務所)ホームページをご覧ください。
https://unv.or.jp/volunteer/qualification/

 

ユニセフ・エルサルバドル事務所について

ユニセフは,一言でいうと「子どものため」を目的とした事業を展開している国連機関です。エルサルバドル事務所では,地域開発,教育,保護,広報といった担当があります。総勢20数名という比較的小規模な事務所で,ジェンダー比率は女性の方が多く,当時のメンバーの出身は,プエルトリコ(所長),エクアドル(副所長),チリ,コロンビア,スペインでした。ラテンアメリカは広くスペイン語が使用されていることもあり,国連機関であってもラテンアメリカ出身者で占められることが多いのが特徴です。ユニセフは,青少年保護育成の観点から,エルサルバドル政府に対して政策面での支援の展開が主な役割になります。私がいた当時(2013~2015年)は,子どもの虐待防止キャンペーン,乳幼児初等教育強化支援,母乳バンク設立,災害発生時の迅速な支援展開といったプロジェクトを展開していました。大統領や大臣が出席する会合やイベントに参加する機会もあり,国の政策へ大きな影響を及ぼすプロジェクトの一部を垣間見ることができたのは,とても貴重な経験でした。

写真:ユニセフ・エルサルバドル事務所のメンバー(当時)

エルサルバドル共和国について

次に,赴任先のエルサルバドル共和国について紹介します。エルサルバドルは,中米にあって,面積は九州の半分ほどの小さな国です。この国では,長きにわたって,政府軍,ゲリラ軍に分かれての内戦が続いてきました。内戦では,民間人の虐殺もあり,1981年のエルモソテの虐殺では,ゲリラ軍を支援していたとされるエルモソテ村で政府軍による虐殺が行われ,子供・女性を含む約1000人の民間人が虐殺されたと言われています。内戦は,1992年に国連の仲介によって終結しました。しかし,内戦による傷跡は残り,様々な社会問題に影響を及ぼしています。

最も深刻な問題のひとつが,国内の治安の悪さです。世界における人口当たりの殺人率では,エルサルバドルは常に上位にランクインしています。治安の悪さの原因となっているのが,マラスと呼ばれるギャング集団です。ギャング集団といっても日本ではピンとこないですが,現地ではマラスによる暴力,強盗,殺人が日常生活のすぐ近くにあって,一般市民から恐れられる存在です。現地の人々は,マラスの恐怖に脅かされている現在の方が身の危険を感じる,内戦時の方がまだ良かったという声すら聞きました。バスや路上で拳銃や刃物をつきつけられて脅され,所持金を巻き上げられたという話もめずらしくありません。そのような状況のため,私は少しの距離の移動でもタクシーを利用し,日が暮れてからの外出は基本的にせず,そして外出時は緊張感を持ち警戒しながらの行動を心がけていました。治安の悪さによって日常生活や行動は大きく制限されるため,社会経済へのマイナスは計り知れません。安全で平和な日常は日本では当たり前に思っていましたが,その多大な恩恵にあずかっていることを痛感しました。

写真:小学校の教室の窓にも防犯のため鉄格子が張られています。
写真:セミナーを実施する際には,重装備した警察に警護してもらいます。

また,内戦の要因のひとつにもなったのが,エルサルバドルにおける激しい貧富の格差です。これは当時でも町を歩けば体感レベルで十分に実感することができました。有名ブランドが入っている巨大なショッピングモールから通りをはさんだ向かい側には,トタン屋根が並び水道も通っていないスラム街が広がっています。絶望的とも呼べるこの格差は,治安の悪さ・暴力とも結びつき,深刻な社会問題となっています。エルサルバドルに住み,働いて実感したのは,格差問題の本当に深刻なところは,同じ国民同士でもお互いへの理解・共感が失われてしまうということです。貧困層と富裕層では,住む場所,子供の遊び場,通う学校,買い物する場所,病院など全て異なってくるため,お互いの人生において接点が極めて少なく,相手のことを知る機会が限られてしまいます。自分の生まれ育った環境を基準にしてしまうと,富裕層から見た貧困層は単に「自助努力が足りない人たち」というふうに映ってしまいます。そして,再配分を進めるような政策には合意が得られず,社会の分断が進みます。これは,近年,格差が広がりつつある日本においても重要な示唆になると思います。

水と衛生改善プロジェクト

エルサルバドルで携わった「水と衛生改善プロジェクト」について紹介します。ユニセフの事業として,子どもたちの水と衛生に関わる環境を改善するため,農村部の上下水道が整備されていない小学校で,水回りとトイレの改善プロジェクトを実施しました。プロジェクトでは,雨水をためる貯水タンクを小学校に設置しました。エルサルバドルは雨季と乾季がはっきりと分かれているため,雨季の間にタンクに水を貯めておけば,雨が全く降らない乾季の間も水が使えるという作戦です。同時に,簡易のコンポスト式トイレを建設しました。これは,水を使わないトイレですが,簡単なつくりになっていて,使用後は灰をかけておけば,においも少なく清潔です。学校の食堂で薪を使っているため,灰は簡単に手に入ります。このように,物資を提供するプロジェクトでは,現地の状況にきちんと合ったもので,現地の人によって維持管理できるものを提供することが重要になります。そして,水と衛生環境が改善されることで,感染症や様々な病気を予防でき,子どもたちを健康に育むことに貢献できます。

写真:雨水貯水タンク
写真:簡易コンポストトイレ

エルサルバドルにおける協働

 エルサルバドルでは,政府,国連,地方自治体,国際NGO,地域NGOなど様々なアクターが参加する協議会活動が活発に行われていました。例えば,上記の「水と衛生」というテーマに関わる組織が協議会をつくって定期的に話し合い,情報共有を行い,協働で実施するプロジェクトを企画したりします。私もこういった協議会活動にたくさん参加しましたが,みんなで力を合わせて補い合っていこうという意識がとても高いことに驚かされました。「別々の組織が同じようなことを個別にやるのは重複になってしまいもったいない」と口々に言います。そして,「同じところを目指すなら,みんなで相乗りしてやれば,その負担を補い合うことで目的地に到達できる」という発想で連携の可能性を模索します。エルサルバドルには,資金も資源も豊富にはありませんが,その分,みんなで連携してやっていこうとする意識の高さはとても学ぶところが多かったです。

ユニセフで活動してみて

ユニセフの事業に関わって実感したのは,治安の悪さと子どもの問題が実は深く関係しているということです。親や周囲の大人からの十分な愛情に恵まれずに育った子どもたちは,ギャングという強い絆で結ばれた集団の中に自分の居場所を見つけてしまいます。ギャング集団も,そのあたりの事情をよくわかっていて,青少年をターゲットにして,たくみに組織に勧誘し,組織の中で役割と居場所を与えます。ギャング集団の中で役割を果たすと,リーダーにほめられ,認められ,好遇されます。そこで生まれて初めて自分の存在意義を見出すことのできた青少年たちは,メンバーとの絆が自分にとって何よりも大切なものとなり,対立するギャングや一般市民の人の命を奪うことさえいとわなくなってしまうと言われています。もちろんマラスに入る青少年は様々な事情を抱えていると思いますが,マラスを生み出してしまう根本の原因は,家庭でしっかりと愛情を受け取ってこなかったことではないかと私は思いました。その背景には経済格差,貧困,アメリカ合衆国への移民,ジェンダーなど様々な社会課題が複雑に関係しています。家庭で,そして地域社会で子どもたちを愛情深く,温かい環境で育むことが,治安を回復するにあたって遠回りなようで,極めて重要です。国連をはじめとする援助機関は,いずれその国から支援を引き上げて,最終的にいなくなることが本来的には望ましいですが,エルサルバドルにおいてユニセフの役割はまだまだ求められているのが現実です。

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