当サイトを最適な状態で閲覧していただくにはブラウザのJavaScriptを有効にしてご利用下さい。
JavaScriptを無効のままご覧いただいた場合には一部機能がご利用頂けない場合や正しい情報を取得できない場合がございます。

国際平和拠点ひろしま

「若者たちのピース・キャラバン 」アメリカ・カナダコース 帰国報告書

 こちらは、2023年11月12日(日)~11月19日(日)に、アメリカ・カナダに派遣された「若者たちのピース・キャラバン」参加者による帰国報告書の紹介ページです。

 報告書には、現地でのフィールドワークや学生との交流などを通じて実感したことや、今後の活動への意気込みなどが述べられています。

奥田 弥陽乃(おくだ ややの)さん

広島大学 1年

“For All” の難しさ

 米加派遣で最も印象的だったことは多様化する世の中、変えることのできない歴史、そしてそれに伴う平和観に誰にとっても通用するものを提唱することは難しいということである。その中で私個人に何ができるのか模索することが今回の派遣の目標であった。

 アメリカでは他県から広島県に来た一大学生として自分の経験から広島県の平和教育を相対化し、広島の平和における国内並びに国際的な役割を訴えることができたと信じている。私が他県から広島に来て感じたことは、広島は核兵器問題に熱心に取り組んでおり、国際的に強いメッセージを持っているということだ。広島や長崎では原爆が落とされたという事実は単なる過去や歴史ではなく、そこから学び、今考え、未来に向けて行動するという私のこれまでの平和観を覆すものであり、地元で核兵器問題について議論することのなかった私にとってこのことは衝撃的で、かつ核への問題意識が芽生えたきっかけであった。特にミドルベリー国際大学院で出会った学生に言われた言葉が印象深い。「日本人以外に誰が核兵器の恐ろしさを伝えることができるのか。」この時私は彼女の発した「日本人」という言葉に違和感を感じた。果たして日本全体で核兵器問題について議論していると言えるのだろうか。前述した通り、私は地元の平和学習内で核兵器問題を議論したことはないし、原子爆弾が落とされたことは過去や歴史としか捉えられていなかったため、現在の核兵器問題への働きかけは被爆地でのみ盛んな印象があった。大学生として広島という地に来た今、私の中で1945年8月6日の出来事は単なる歴史ではなく、我々の未来を考えるための一つの手段となっている。同時に広島・長崎とその他の地域での平和教育に関するギャップを感じた瞬間であった。これに関して核不拡散を専門にしているアメリカの若者に問題提起したところ、アメリカでも同様に核兵器問題に関する教育は一般的な平和教育に含まれておらず、彼らが核兵器問題への関心に気がついた時に核についての知識と意識のなさを実感することがあるといった意見があった。多くの若い世代が平和について考えるきっかけとなる平和学習に対する改善点を見出すことができたと考えている。さらに今回は若者同士の率直な意見交換が行われたが、私はこれまで国レベルではなく個人レベルで核兵器問題について考え行動する意味を理解出来ずにいた。核兵器の存在について実際に働きかけることができるのは国のリーダーだけだと考えていたからだ。しかし、ミドルベリー国際大学院で出会った Jeff Knopf 教授が、「皆が核兵器問題に対して行動を起こせるし、小さな行動は国を動かすきっかけになるかもしれない。」とおっしゃっており、今回のような若者同士の対話や個々人が自分ごととして日々問題意識を持ち考え続けることの可能性を再確認することができた。

 カナダでのワークショップは、個々人の持つ背景や興味を共有しながら課題解決に向けた行動案を作成するというものであった。それぞれが全く異なる背景や経験をもとに深く意見を交わせたと感じている。またY7(G7の公式付属会議)のカナダ代表として実際に今年広島で行われたY7会議に出席された学生と国際会議の複雑さやその意義について話すことができたことは、私の中で意義深いものとなった。特に「私たち若者の議論がどれだけG7会議に反映されたかはわからない。しかし若者が議論することに意味があると思う。」という現地の学生からの言葉が印象的であった。若者の声は国レベルまで届きにくいという問題点がある一方で、こうした議論の過程にある、相手国を知ることや交渉の過程に意味があるのではないかと考える。

 今回の派遣は私にとってゴールではなく、スタートを切るための貴重なきっかけとなった。派遣中は平和観の多様性に直面する場面が多々あった。戦争が絶対悪ではなく、政治手段の一つだと捉えられていることもまた日本にはない平和観であり興味深かった。またカナダでは環境問題、そして先住民との関係作りの問題に忙しいようだった。その土地に住む人々は皆それぞれの平和観を持っており、”For All”の平和観も当然ない。しかし世界が共通して直面している課題に対しては皆が同じ方向を向き取り組んで行く必要があり、また地域特有の問題をも理解する必要がある。それが実現できるのが政治という手段であり、国際的枠組みであり、その枠組みに影響を与えることができるパワーを持っているのが我々若者の行動であると強く信じている。全体を通して感じた、自身の問題意識に対して長期的に考え続ける姿勢を忘れず、これからも国際的な活動に携わっていきたい。

 最後に、このプロジェクトに関わる全ての方々に感謝申し上げます。

アメリカミドルベリー国際大学院にて土岐先生と学生と
カナダでの対話イベントにて

鬼木 優里(おにき ゆうり)さん

京都大学 2年

自分自身の役割は何か、問い続けた期間だった。

 広島で平和教育を受け核廃絶運動に携わっていた過去の自分は、核は廃絶できると信じていた。他の視点に触れ世界が広まるにつれ、平和公園から訴えるだけでは到底解決できない複雑なしがらみに直面し、個人の無力感に苛まれた。今回のプロジェクトは、地球規模問題の解決に向けて一個人としてどう働きかけるかというテーマだった。月とスッポンの状態だが、個人としてはアンテナを張り考え続けること、社会に対しては異なる意見を持つ人物と対話の機会を設けることが、私ができることだと考える。

 核兵器廃絶や地球温暖化といった途方もなく大きな課題は、必ずしも解決することをゴールにするのではなく、理想の世界に近づくために考え続ける過程が大切だと感じた。アメリカで核廃絶をテーマにパネルディスカッションをした際、教育の重要性が話題となった。若者が過去の出来事を学ぶことは、記憶を絶やさないという目的の他に、今もなお世界に存在する課題を認識して当事者意識をもつ意義がある。教育は長期的な取り組みであり、問題解決に対して即刻の効果があるわけではない。しかし、地道に個々の意識に影響を与えることは将来大きな変化につながる。カナダに根強く残る先住民族の問題は、近年の教育により若者間での当事者意識が普及していた。教育は問題解決への道のりで重要な役割を担っており、広島の平和教育の意義を改めて考え直す機会となった。若者全員が教育の当事者であり、その一人として私は世の中の情勢から目を逸らさず、考え続けることが身近な一歩だと考える。今回の訪問では、これまで気に留めなかった世の中の事象にも焦点を当てる機会があり、自身の視点がさらに拡大したと感じている。

 各国の同世代と話す中で、異なる背景を持つ人が共通のトピックについて議論することの意味を実感した。一個人として課題の解決法を考えるに当たり、まずは目の前の人と分かり合うことが必要だからだ。今回の参加者は総じてリベラルであり、同質の平和観を持つ印象を受けた。育った環境によらず相互理解ができる一方で、似たような意見が重なり合い予定調和のような議論になったことも否めない。このことから、私は対立する国同士での対話こそ不可欠であると感じた。これからは、大学内といった身近なコミュニティを中心にして世界中の若者と意見交換する場を設けたい。国籍や人種といった多様性ではなく、政治観などの多様性にも注視して議論したいと思っている。

 これまで私は、教育や対話といった活動の効果に懐疑的だった。今回の渡航ではこれらの意義を実感することができた。今の自分にできることは小さな活動でしかないが、これから社会に出ていく中で構造的なアプローチもできる人材になり、個人単位から企業、国家単位と各アクターへの働きに携わりたい。

神田 実鈴(かんだ みすず)さん

広島大学大学院  修士2年

 核兵器問題を始めとする社会課題の解決に向けて、異なる見解を持つ同世代の仲間と、本音で議論することができるような場所づくりを率先しておこなっていきたい。その際、日本の若者の代表として、その代表性は意識しつつも、為政者には立場上できない、「非公式な場」での本音の議論をおこなっていきたい。そんな思いを胸に、私は若者たちのピースキャラバンに参加した。アメリカとカナダの2カ国を訪問し、現地の若者と「積極的平和」の実現に向けた議論をおこなった。アメリカでは、ミドルベリー国際大学院を訪問し、現地の大学院生とプレゼンテーションやパネルディスカッションをおこなった。為政者間での対話で具体的な提言に行き着くのは困難かもしれない。しかしながら、次世代の子どもたちに、核を「使わない」選択肢をもたす教育には、大きな可能性があると私はプレゼンテーションで訴えた。パネルディスカッションでは、「核兵器ではなく、戦争自体を禁止することはできないのか。安全保障における核抑止と核不拡散のバランスをどのようにとっていくか」など、かなり踏み込んだ議論がおこなわれた。派遣に先立って自分なりに勉強して参加したつもりではあったが、いざ上記のようなテーマを議論するとなると、様々な視点を複雑に絡めながら発言する必要があり、自身の勉強不足を痛感させられた。近年では、核抑止に代わる安全保障の研究も進められていることから、今後も最新の研究を追うとともに、核を「使わない」人材育成のための教育のあり方を追求していきたいと考えている。

 また、カナダでは、「何が平和ではない状況を作り出す要因なのか?」という質問を核に、現地の若者と提言作成ワークショップをおこなった。私のグループでは、「人種・ジェンダーによる差別」と「土地・資源の利用」に着目し、メンバーそれぞれの視点や専門性を盛り込んだアイデアを提案した。具体的には、異なる文化や人種、ジェンダーに対して人々がネガティブな感情を抱かないようにするためのVRを用いた教育プログラムを提案した。また、議論の中では、先住民の権利についての話題が出るなど、カナダ人の独自の「平和観」を垣間見る瞬間が多くあり、構造的暴力を無くしてこそ実現できる「積極的平和」を前提とした議論がおこなえたことが印象的であった。

 今回の事業で共に日本から派遣された仲間も、異なる専門や関心を持ち、学び合える環境であった。このような体験は、今の自分に足りない視点に気づかせてくれた。実際、これまで私は社会問題をミクロな視点で学ぶことが多かったが、今後は経済や国際関係など、マクロな視点からも積極的に学んでいきたいと考えるようになった。来年からは社会人となるが、自分にしか持てない視点は何なのか、これまでの学びや問題意識が自身の仕事とどのように繋げられるのか、人生をかけて模索していきたい。

 最後になりましたが、本事業の実施にかかる関係者のすべての皆様に感謝申し上げます。

四反田 直樹(したんだ なおき)さん

京都大学 4年

核兵器を廃絶した先に目指すものとは

 モントレー国際大学院でのディスカッションの中で教授の1 人が話した「なぜ単に核兵器を強制的に廃棄できないのか、それは核軍縮・廃絶が平和のための手段であり、(廃棄の過程で危険が生じたり、) 廃絶した先で他の兵器が核兵器に成り代わるのでは意味がないからだ」という意見が印象に残っています。誤解やエスカレーションによる核兵器使用のリスクをなくす上で核廃絶は非常に重要です。広島ビジョンで示された「安全が損なわれない形で、現実的(realistic) で、実践的(pragmatic) な、責任ある(responsible)アプローチ」を見出す必要性を再認識しました。

理工系大学生としてできること

 私は来春から、修士課程で深層学習を持いた自律ロボットの動作生成に取り組みます。一方で ロシア・ウクライナ戦争でのドローン兵器の利用や映画オッペンハイマーの公開を受け、自分が今後取り組む研究は軍事転用が容易な分野だと感じ、それを防ぎつつ産業に貢献するには何が必要か考えたいと思い本事業に応募しました。民生技術と軍事技術を分けるのは困難としてデュアルユース研究が徐々に認められ始めた中、単なる研究の禁止ではなく、産業では有用だが軍事では無用な技術の研究が求められると考えます。例えば (克服されつつあるものの) 深層学習による画像認識は特定のノイズに弱い性質が知られています。これを利用し、既存のモデルを簡単に無効化する方法が発表されれば、そのモデルは敵対勢力が存在する軍事シーンでは無用となり得ます。また今回初めて平和や核軍縮についての議論に参加しましたが、米加コースに限らず理工系の学生が非常に少ないと感じました。前述のような技術の平和利用をテーマにしたハッカソンの実施などを通して、理工系学生が平和について考える機会を増やすことができるのではないかと考えます。

 最後に、今回のプロジェクトを実施してくださったへいわ創造機構ひろしま・広島県庁の皆さま、応援の言葉と共に送り出してくれた湯﨑知事、1 週間の欠席に理解を示して下さった指導教官の土井教授に深く感謝いたします。ありがとうございました。

MIISでのプレゼンの様子
UBCでのワークショップの様子

山田 杏菜(やまだ あんな)さん

京都大学 2年

今回参加するにあたって

 広島・長崎への原爆は、歴史の教科書中の一章であり「もう終わったこと」として海外では捉えられがちです。そんな中で、 もう、 80年もの前のことであるとして処理してしまってはならない理由を現地で出会う皆さんに伝えたかったです。 原爆が投下されたあとも後遺症に苦しみながら亡くなってしまった人や、 被爆二世の存在を知ってもらったうえで、核兵器の脅威 についてもう一度見つめなおすきっかけを作りたいと思っていました。同じ志を持った仲間と渡米前から 打ち合わせを重ね、本プログラムに励むことが出来ました。

実際に参加してみて

 アメリカではミドルベリー国際大学院モントレー校を訪問し、大量破壊兵器と不拡散を専攻している学生たちと対話・交流イベントを行いました。核抑止派と核軍縮派をどのように協調させるのかという議論において「広島では核兵器廃絶を訴えているものの、日本が核の傘の下にいることに対して無関心であったり、核抑止について知識に乏しい若者が多い。」「トラテロルコ条約に核政策に意欲的だったブラジル/アルゼンチンが署名したことを考えれば多国間での取組は非常に大切である。」といった意見が出ました。ディスカッション後の休憩時に、「こんなに核兵器について専門的に勉強している私ですら、原爆の影響が今もなお続いていることを知らず、本当に ショックでした。」と涙で目を潤わせた学生さんに声をかけてもらったことが印象的でした。カナダでは、 inclusiveな社会づくりについて議論しました。現地の先住民族問題について若者の視点から意見を述べてくださり、 私も日本がまだ解消できていない「ジェンダーギャップ問題」についてお話しました。 誰もがいきいきと輝ける、 inclusiveな社会づくりは、日本とカナダが持つ共通課題です。私は経済学部生として、このジェンダーギャップ問題について研究を続けていきます。

この記事に関連付けられているタグ