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国際平和拠点ひろしま

【コラム4】核兵器禁止条約と核軍縮・ 不拡散体制の今後

【コラム4】核兵器禁止条約と核軍縮・不拡散体制の今後

浅田正彦

2017年7月7日、核兵器禁止条約(TPNW)が賛成122反対1棄権1の圧倒的多数で採択された。この事実のみからすれば、国際社会の「総意」を反映して核兵器を禁止する画期的な条約が作成されたという印象を持たれるかも知れない。しかし、事実は異なる。122の国の中には核保有国(NPT上の核兵器国および他の核保有国)も、核保有国と同盟関係にある非保有国(核同盟国)も全く含まれていないのである。それゆえ、この条約によってむしろ国際社会には憂慮すべき「分断」が生じる(あるいは拡大する)のではないかと懸念される。

国際社会の分断は、核保有国と非保有国との間に生ずる(拡大する)だけでなく、非保有国同士でも、核同盟国と非同盟国との間に生ずる(拡大する)ことになろう。否、そのような動きはすでに条約採択前から生じていた。TPNWの採択につながった「多数国間核軍縮交渉の前進」と題する国連総会決議への反対国は、2014年にはわずかに5カ国(米、英、仏、露、イスラエル)を数えるに過ぎなかったが、条約交渉会議の開催を決めた16年にはその7倍の35カ国に拡大しており、そこには核保有国と核同盟国のほとんどが含まれていた。こうしてTPNW(交渉)は、核軍縮を求めるという点で(少なくとも表面上は)非同盟諸国と共同歩調をとってきた核同盟国に対して、拡大核抑止からの決別を迫ることによって、彼らを政治的に非保有国の側から核保有国の側へと追いやる結果となったといえよう。

現在、TPNWの批准国はわずか5カ国(2018年1月現在)に過ぎないが、いずれ発効に必要な50カ国の批准を得て発効することになろう。条約によれば、発効から1年以内に、そしてその後は2年ごとに締約国会議が開催されて、TPNWプロセスが始まる。多くの非同盟諸国が、自らの手で作成したTPNWを重視するのは当然であり、NPTプロセスにおいて核軍縮の進展が芳しくないこととも相まって、それらの諸国が軸足をNPTからTPNWへと移していくことも容易に想像される。そうなれば、核保有国と非保有国、核同盟の非保有国と非同盟の非保有国の分断はますます深まっていくであろう。多くの非同盟諸国がNPTへの関心を失って、核兵器国を含む普遍的なフォーラムとしてのNPTプロセスが形骸化していくことになるとすれば、それは核軍縮の観点からも不幸なことである。

TPNWの採択にポジティブな側面があるとすれば、それは、多数国間ではCTBTの採択以降、米ロ間では新START以降、核軍縮において目立った成果がないことに対する非同盟諸国の不満が劇的な形で示されたという点であろう。非同盟諸国が、TPNWの発効後もNPTの重要性を引き続き認識した上で、核保有国に対して、NPTプロセスの中で核軍縮に取り組んでいることを示す必要性のあることを自覚させ続けることを期待したいものである。

(京都大学大学院法学研究科教授)

 

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