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国際平和拠点ひろしま

Hiroshima Report 2023コラム4  若い世代から見た2022年の核問題

中村 涼香

2022年は私にとって最も感情が揺れ動いた1年だった。高校1年生の時に核兵器廃絶の運動に足を踏み入れて、今年で7年目になるが、これほど絶望と希望が入り混じりながら声を上げたことはない。

2月24日、ロシアがウクライナへの侵略を開始し、プーチン(Vladimir Putin)大統領は間もなく核兵器使用を示唆する発言をした。私は生まれて初めて核兵器の脅威を生で感じることになる。核の恐ろしさを学び、社会に語りながらも、自分の頭上で核兵器が使われることを「現実的」に考えていなかったのだ。

私のように「恐怖」を感じた人は多かっただろう。だが、それは次第に「緊張」となり人々の危機感を煽る形で軍備増強、核共有(nuclear sharing)の議論に発展していく。なかには率先して、これらの議論を助長する政治家も出てきて、誤った認識や憶測がさらに広がってしまった。メディアからは「日本は台湾有事に備えるべき」だという声も聞こえてきたが、私はウクライナ侵攻と台湾有事にどれだけの因果関係があるのか不思議だった。こうして、社会では徐々に、「戦争反対」「核兵器廃絶」と声を上げると夢想家だと言わんばかりの風潮が浸透していった。

これらの状況に直面し、私や周りの友人は意気消沈していった。これまでの自分たちの活動は何だったのかと自問自答を繰り返す時間が増え、どのように言葉を紡ぐべきか分からなくなった。

だが、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大の影響で延期が続いていた核兵器禁止条約(TPNW)の第1回締約国会議が6月にウィーンで開催されることが決まり、条約に賛同する世界中の人々が核軍縮の方向に舵取りを進めた。私を含む日本の核廃絶運動に取り組む市民らも、日本政府が会議への不参加を表明するなか、現地へと渡航した。

世界中から核軍縮の一端を担う人々が集まる場では、それまで日本で感じていた「絶望」から一転して、「希望」を強く感じた。人々は被爆者などの当事者や意思決定の場に参加しにくい若者の声に耳を傾け、また、それを受け入れようと努めた。これは、「安全保障」という言葉の影に隠れて見落とされてしまう個人の尊厳が尊重されていることの表れだと感じた。実際に、今回の締約国会議で採択された行動計画には条約の第6条・第7条に関連して被害者支援と環境修復のすべての段階において、当事者と積極的に関与し、協議していくことが盛り込まれた。TPNWの枠組みは、各国が人々の痛みに寄り添い、人道性を最優先する土壌を作っていると言える。この土壌の上で、日本や核を保有する国々を含めた安全保障に関する議論が進むことを期待してやまない。

たとえTPNWではなくても、国連や核兵器不拡散条約(NPT)の枠組みで各国の話し合いが行われることは歓迎したい。だが、2022年8月に開催されたNPT運用検討会議では、ロシアの反対で最終文書が採択されず、国連の安全保障理事会とともに機能不全に陥ってしまっている一面があることは否めない。ウクライナ侵攻の収束も見えず、日本のように軍事予算を大幅に増額し、戦争の準備を進めようとする動きも見え、社会には変わらず不穏な空気が流れている。2023年をどのような1年にするかは、私たち一人ひとりの選択次第である。自分や家族、周りの大切な人が傷つかないように、核や武力の脅威に怯えることのない安全な社会を貪欲に求めていきたいと思う。

 

なかむら・すずか:KNOW NUKES TOKYO共同代表

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