当サイトを最適な状態で閲覧していただくにはブラウザのJavaScriptを有効にしてご利用下さい。
JavaScriptを無効のままご覧いただいた場合には一部機能がご利用頂けない場合や正しい情報を取得できない場合がございます。

国際平和拠点ひろしま

Hiroshima Report 2023コラム3  第1回核兵器禁止条約締約国会議にかかる見解と今後の展望

倉光 静都香

核兵器禁止条約(TPNW)の第1回締約国会議は2022年6月21~23日の3日間、オーストリアのウイーンで開催された。同会議には49の締約国、34のオブザーバー参加国、国際機関、85の非政府組織(NGO)の代表者が参加し、TPNWの目的や核兵器廃絶のための具体的なステップについて議論した。最終日には宣言と50項目にわたる行動計画が採択され、第2回締約国会議は2023年11月にニューヨークで開催される運びとなった5。

第1回締約国会議では締約国とNGOによる条約への期待と活発な参加が目立った。オブザーバー参加国の発言回数や参加は最低限であったものの、それぞれの国が自国の立場を共有し、特定の議題に関しては対話に参加したことには意義があった。スイスやドイツは、被害者援助及び環境修復の取り組みに興味を示し、またTPNWと核兵器不拡散条約(NPT)や他の軍縮・不拡散に関する条約との補完性に言及もした6。オブザーバー参加国の発言や議論に参加する姿を受け、筆者としては、より多くの国がオブザーバー国として参加を決めていれば被害者支援や環境修復の議論などに貢献できたのではないかと悔やまれた。次回の締約国会議ではオブザーバー参加国の数が増えることを期待したい。

一方で、核保有国やその「核の傘」の下にある同盟諸国によるTPNWへの賛同や署名・批准という課題は残されている。ウクライナ危機を筆頭に、核兵器使用のリスクも高まっており、冷戦以降の核兵器の削減や役割低減とは逆行する動きも見られる。TPNWはグローバルな視点での安全保障の捉え直しや核兵器の非人道性の訴えを中心に規範的なアプローチをとり、核兵器を違法化した。しかし、依然として核保有国と「核の傘」下の国々はNPTを中心とした段階的なアプローチを支持し、厳しい安全保障環境やTPNWの検証制度の実現可能性等を懸念してTPNWには署名・批准できないという姿勢を維持している7。

さらに、国際社会の対立や分断の多極化も進み続けている。第1回締約国会議の2カ月後に開かれた第10回NPT運用検討会議は前回に続き最終文書への合意なく終わった。NPTに引き続き、国連総会第一委員会でも、NPT上の核兵器国間はもちろん、核保有国と非核兵器国、そして核保有国及び「核の傘」下にある同盟国とTPNW締約国との間での複雑化する対立構造が浮き彫りとなった。また、TPNW締約国の間でも同条約の重要なアジェンダについての認識も一枚岩ではないと言えよう8。第10回NPT運用検討会議では、NPTでの議論の硬直や軍縮義務の不履行に対する不満や、「軍縮・不拡散アジェンダへのジェンダー平等の視点の取り入れ」に対して消極的とも捉えられる発言が見られた9。他方でTPNWには賛同していないが、ジェンダーの多様性を尊重した軍縮アプローチに積極的な関心を示している非締約国や核兵器国も存在する。

TPNW推進国がこれらの分断を乗り越えるためには、今後はますます、異なるアプローチを取る国々との対話を継続すること、さらに核兵器に頼らない安全保障のあり方を提案していくことが求められる。軍拡が進み、核兵器の役割が見直され、様々な局面で対立が複雑化し続けている今だからこそ、市民の核問題への関心を持ち続けるべきである。第1回締約国会議の成果文書にも記されているように、TPNWを前進させることは外交官や為政者だけではなく、市民社会の役割でもある。TPNWの描く軍縮アジェンダを前に進めるためには、同条約を支える国と市民が協働し、核兵器の非人道性と軍縮の重要性を世界に訴え行動することでTPNWが形成した規範の強化と拡大を支えていく必要がある。

 

くらみつ・しずか:ミドルベリー国際大学院不拡散テロリズム学修士課程


5 TPNW/MSP/2022/6, July 21, 2022.
6 “Statement by Germany,” First Meeting of States Parties to the Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons (1MSP of the TPNW, June 22, 2022; “Statement by Switzerland,” 1MSP of the TPNW, June 22, 2022.
7 “Speech by NATO Secretary General Jens Stoltenberg,” the 16th Annual NATO Conference on Weapons of Mass Destruction, Arms Control, Disarmament and Non-Proliferation, November 10, 2020, https://www.nato.int/cps/en/ natohq/opinions_179405.htm.

8 Reaching Critical Will, Nuclear Ban Daily, Vol. 3 No. 3, June 22, 2022, https://www.reachingcriticalwill.org/images/ documents/Disarmament-fora/nuclear-weapon-ban/1msp/reports/NBD3.3.pdf.
9 Reaching Critical Will, NPT News in Review, Vol. 17 No.7, August 18, 2022, https://reachingcriticalwill.org/ images/documents/Disarmament-fora/npt/NIR2022/NIR17.7.pdf.

< 前のページに戻る次のページに進む >

 

目次に戻る