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国際平和拠点ひろしま

コラム3 「SDGs」と核問題

樋川 和子

グテーレス(António Guterres)国連事務総長が2021年9月に発表した『我々の共通の課題(Our Common Agenda)』は、持続可能な開発目標(SDGs)の達成期限でもある2030年までの10 年間に国際社会が取り組むべき課題について取りまとめ、国連加盟国に提出した報告書である。2020年9月に国連総会で採択された「国連創設75周年記念に関する宣言」が基となっている。この報告書の冒頭でグテーレス事務総長は、「人類の福祉、それどころか人類の未来そのものが、共通の目標を達成するために私たちがグローバルな家族として連帯し、協力できるか否かにかかっている。人々のために、地球のために、繁栄のために、そして平和のために」と述べている。振り返ってみれば、SDGsを設定した国連の『我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ(Transforming our world: the 2030 Agenda for Sustainable Development)』もその前文で、「このアジェンダは、人間、地球そして繁栄のための行動計画である。これはまた、より大きな自由における普遍的平和の強化を追求するものである」と謳っていた。SDGsも「我々の共通の課題」もその目的は一致しており、「人間、地球、繁栄、そして平和」である。そして、『我々の共通の課題』では「平和」について一歩踏み込み、「平和の促進と紛争予防」という項目のもとで、核軍縮など核兵器の問題を含む「新しい平和への課題(New agenda for peace)」を策定することを提案している(「平和の促進と紛争の予防」は上述の「国連創設75周年記念に関する宣言」のなかで表明された12のコミットメントのうちの1つ)。
1992年にガリ(Boutros Boutros-Ghali)国連事務総長が『平和への課題』を発表してから、2022年でちょうど30年にあたる。グテーレス事務総長は、2023年第78回国連総会の開催期間中にハイレベル・サミットを開催し、他の議題とともに「新しい平和への課題」について議論することを提案している。そして、この「新しい平和への課題」が、核兵器の不使用や核廃絶などに対する加盟国のコミットメントを強化するという意味において、国連の軍縮アジェンダを後押しするものとなりうると述べている。
核兵器の問題を抜きに、「人間、地球、繁栄、平和」を語ることはできない。SDGsでは、ゴール16で「平和」という言葉自体は盛り込まれているものの、核問題を含む軍縮・不拡散の問題について具体的な施策には言及していない。そう考えると、「我々の新しい課題」は、真のSDGsを達成するという意味からも大きな前進と言えるのではないだろうか。
主要国をはじめとする国際社会が、持続可能な世界の実現に向けて、気候変動問題を熱く議論し、脱炭素社会に向けての具体的な取り組みなど強力に押し進めようとしているなかで、核兵器を含む安全保障問題だけが地球の持続可能性の問題とは切り離された形で議論が進められている。人類のみならず、地球にとっても壊滅的な被害をもたらしうる核兵器の問題を抜きにして、持続可能な地球について語ることはできない。そうしたなかで、国連がSDGsの達成期限に向けて核兵器の問題を取り上げ、新しい課題の1つとしてそれを設定した意義は大きい。グテーレス事務総長も述べているとおり、これが軍縮アジェンダを促進するものとなることを期待している。

 

ひかわ・かずこ:大阪女学院大学教授

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