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国際平和拠点ひろしま

コラム3 米中核関係の現実的な道筋

ジェームズ・マッケオン
マーク・メラメド

今後4 年間で米中関係は一層中心的存在となり、混乱は高まるだろう。競争、そして紛争の可能性が高まるなか、戦略的関係のより適切な管理と、壊滅的な影響を及ぼしうる失策や誤算の回避が両国の急務である。これについて、核兵器分野ほど明白な課題はない。
戦略的安定に関連する問題において米中二国間の関与は不可欠だが、中国を関与させるための米国による近年の取組は、非現実的であることが証明された。トランプ政権は核軍備管理に関して、中国を伝統的な米露二国間対話に引き入れることに焦点を当てた。これに対して中国は、核兵器の規模や構造にかかる米露との大きな非対称性を理由に、米国からのアプローチを繰り返し拒否した。
バイデン新政権は、中国の関与を引き出すために代替戦略を追求すべきである。この必要性は、長期的な対話のベースラインがなければ、本格的な軍備管理協定はおろか、核軍備管理に関する実りある協議への近道は有り得ないという認識に基づいている。米中の関与の最初の焦点は、両国間における核戦争リスクの低減と、将来的な軍備管理に向けた取組の基盤構築にあるべきである。

目標
このアプローチは3 つの目的を中心とし、米同盟国との緊密な協議によって追求され、また北朝鮮の軍備増強に応じて調整されるべきである。
第一に、米中は、失策や誤算の結果として核兵器が使用されるリスクを低減するために協力する必要がある。米中ともに核奇襲攻撃を開始するとは想像し難い。より重大なリスクは、とりわけ広範な危機の文脈において、誤算や誤解が核使用につながることである。
第二に、米中は、不安定な軍拡競争の可能性を抑制する方法を見出すべきである。双方が安全保障上の懸念に対処するために核兵器を近代化し、また攻撃・防御能力を開発するにつれ、軍拡競争のリスクが高まる。
第三に、米中は、戦略的問題に関する対話と協議の基盤を確立するべきである。これには両国の賛同が必要であり、長期的な軍備管理協定の基盤として、短期的には透明性と信頼醸成措置の構築に注力すべきである。

危機回避・管理措置
戦略的安定及び軍備管理に関する米中関与の経験はほとんどないが、潜在的危機を回避し管理するための二国間の努力の実績は存在する。1998 年の「軍事海洋協議協定」と「非標的協定」、そして主要な軍事活動を相互に通報し、海上での遭遇に関しては合意された行動規範に従うと約束した2014年の拘束力のない2つの了解覚書(MOU)である。米中は、核危機のリスクを低減する追加的措置の基盤として、これらの合意を利用すべきである。
第一歩として、米中は弾道ミサイルの発射実験の事前通報に関する合意を交渉し、実施すべきである。これは、1988 年の米ソ弾道ミサイル発射通報協定がモデルとなりえ、戦略弾道ミサイルの発射予定日、発射箇所、及び着弾地点に関して、少なくとも24 時間前の通報を必要とするものであった。
米中はまた、二国間における「核リスク低減センター(NRRC)」の確立も模索するべきである。これは、既存の2014 年米中MOU の下で求められる情報と通報の自発的な交換を促進するために利用しうる。また、ミサイル発射通報協定を推進できる可能性もある。
対話の増加や、危機回避・管理のための二国間のステップに加え、米中は多国間フォーラム、特に国連安保理常任理事国(P5:中国、フランス、ロシア、英国、米国)プロセスにおける核リスク削減と軍備管理の取組を強化すべきである。近年、中国はP5 メカニズムの再活性化への関心を強めており、バイデン政権は、中国との二国間協議を進めつつ、重要な問題に関してより持続的かつ実質的なP5 の関与を歓迎及び奨励すべきである。とりわけ、以下のような点が挙げられる。

➢ P5 は、核政策と核ドクトリンに関する対話を深め、拡大し、核兵器使用のリスクを低減するために議論を拡充すべきである。これには、すべてのP5 諸国の外交及び軍関係者からの継続的な賛同と参加が必要となる。
➢ P5 は、「核戦争に勝利することはできず、決して戦ってはならない」という共同宣言を通じて、核兵器使用防止へのコミットメントを確認すべきである。
➢ ロシアと中国による核実験の可能性に対する米国の懸念と、トランプ政権が核実験再開を検討したとの報告を踏まえ、P5 は核爆発実験に関するモラトリアムを再確認し、モラトリアムの遵守に関する懸念に対処することを目的とした対話を開始すべきである。
➢ P5 は、核兵器・その他の核爆発装置用の核分裂性物質の生産モラトリアムを宣言すべきである。

核軍縮に関する米中の進展は長期的な取組となるが、核兵器使用のリスクを低減するための関与の必要性は急務である。バイデン政権下にある今後4 年間は、米中関係の進展を開始する機会であり、大惨事のリスクを低減し、軍備管理・軍縮に関する将来的かつ野心的な道の基礎を築くことができる。

ジェームズ・マッケオン:核脅威イニシアティブ(NTI)プログラム・オフィサー
マーク・メラメド:NTI グローバル核政策プログラム上級部長

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