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国際平和拠点ひろしま

Hiroshima Report 2018(2)国際原子力機関(IAEA)保障措置(NPT締約国である非核兵器国)

A)IAEA保障措置協定の署名・批准

核物質が平和目的から核兵器及び他の核爆発装置へと転用されるのを防止・探知するために、NPT第3条1項で、非核兵器国はIAEAと包括的保障措置協定を締結し、その保障措置を受諾することが義務付けられている。2017年末の時点で、NPT締約国である非核兵器国のうち、12カ国27が包括的保障措置協定を締結していない。また、NPT上の義務ではないが、IAEA保障措置協定追加議定書の締結については、NPT締約国である非核兵器国のうち、2017年12月時点で126カ国が批准している(ホンジュラス、セネガル、タイが新たに批准)。またイランは、追加議定書の暫定的な適用を2016年1月に開始した。包括的保障措置協定及び追加議定書の下での保障措置を一定期間実施し、その結果、IAEAによって「保障措置下にある核物質の転用」及び「未申告の核物質及び原子力活動」が存在する兆候がない旨の「拡大結論(broader conclusion)」が導出された非核兵器国(2016年末時点で69カ国28)については、包括的保障措置協定と追加議定書で定められた検証手段を効率的に組み合わせる統合保障措置(integrated safeguard)が適用される。本調査対象国のうち、NPT締約国である非核兵器国に関して、包括的保障措置協定及び追加議定書の署名・批准状況、並びに統合保障措置への移行状況は、表2-1のとおりである。なお、EU諸国は欧州原子力共同体(EURATOM)による保障措置を受諾してきた。また、アルゼンチン及びブラジルは二国間の核物質計量管理機関(ABACC)を設置し、両国、ABACC及びIAEAによる四者協定に基づく査察を実施している。

2017年9月のIAEA総会で採択された決議「IAEA保障措置の有効性強化と効率向上」29では、NPT締約国で小規模な原子力活動しか実施していない国である少量議定書締結国に議定書の改正ないし改訂を求めるとともに、2017年6月時点で56カ国について改正が発効したことが記された。原子力導入の意図を表明している国のなかで、サウジアラビアは依然として少量議定書の改正を受諾していない。

B)IAEA保障措置協定の遵守

『2016年版IAEA年次報告』によれば、包括的保障措置及び追加議定書の双方が適用される124カ国のうち、IAEAは、69カ国についてはすべての核物質が平和的活動のもとにあると結論付け、55カ国については未申告の核物質・活動がないことに関して必要な評価を続けている。また、包括的保障措置協定を締結し追加議定書未締結の49カ国について、IAEAは、申告された核物質が平和的活動のもとにあると結論付けた30。

他方、IAEA保障措置協定の遵守状況について注視されてきたのは、北朝鮮、イラン及びシリアの動向である。

北朝鮮

北朝鮮がIAEA保障措置の適用を長年にわたって拒否するなか、2017年8月のIAEA事務局長報告「北朝鮮への保障措置の適用」は、衛星画像などを通じて把握した北朝鮮の核関連施設などの状況を概観したうえで、以下のようにまとめた31。

  • 黒鉛減速炉:蒸気や冷却用水の排出など、原子炉稼働の兆候があった。
  • 放射化学研究所:稼働の兆候は見られなかった32。
  • 燃料棒製造施設:プラント内にある遠心分離濃縮施設の使用と一致する兆候があった。
  • 軽水炉(建設中):建設活動の増加の兆候があったが、原子炉の主要機器の搬入は確認されていない。
  • 平山鉱山:ウラン採掘・精錬作業が行われている。

また、同報告では、IAEAが北朝鮮核計画の監視の強化、北朝鮮内に存在すると知られている核施設への検証アプローチ・手続きの維持、適切な検証技術・装備の利用可能性の確保などを目的とし、政治的合意に達すれば適時に北朝鮮で査察活動を再開できるよう、2017年8月に保障措置局内に「北朝鮮チーム」を発足させたことを明らかにした33。

イラン

IAEAは、イランによる保障措置協定及びJCPOAの履行に関して検証・監視活動を行っている。上述のように、その実施状況をまとめたIAEA事務局長報告が四半期毎に理事会に提出されてきた。2017年IAEA総会で天野事務局長は、IAEAは「保障措置協定下でイランにより申告された核物質の未転用の検証を継続している。イランに未申告の核物質及び核活動がないとの評価を継続している」34と述べた。

他方、米国のヘイリー(Nikki Haley)国連大使は8月、イランがJCPOAで禁止された活動、とりわけJCPOAのセクションTの下で禁止された核兵器関連活動を隠匿していないことを確実にすべく、イランの軍事施設に対するIAEAによるアクセスを検討すべきだと主張した35。これに対してIAEAは、イランの軍事基地で不正な活動があったとの疑いがないことから、査察の必要はないと明言した36。

シリア

2007年のイスラエルによる空爆で破壊されたシリアのダイル・アッザウル(Dair Alzour)のサイトが、IAEAに未申告で秘密裏に建設されていた原子炉だったと疑われ、IAEAもその可能性が高いと評価している。IAEAはシリアに、未解決の問題について十分に協力するよう求めているが、シリアは依然として対応していない37。


[27] 2015 年に NPT に加盟したパレスチナを含む。その 12 カ国は、いずれも少量の核物質しか保有していないか、 原子力活動を行っていない。

[28] IAEA, IAEA Annual Report 2016 , September 2017, p. 14. [29] GC(61)/16, July 26, 2017.

[30] IAEA, IAEA Annual Report 2016 , September 2017, p. 92. [31] GOV/2017/36-GOV(61)/21, August 25, 2017.

[32] 本報告書第 1 章で言及したように、放射科学研究所は 2017 年初めに断続的に運転したと報じられた。

[33] GOV/2017/36-GOV(61)/21, August 25, 2017.

[34] “Director General’s Statement to Sixty-first Regular Session of IAEA General Conference,” September 18, 2017, https://www.iaea.org/newscenter/statements/statement-to-sixty-first-regular-session-of-iaea-general-conference-2017.

[35] “Nuclear Inspectors Should Have Access to Iran Military Bases: Haley,” Reuters, August 26, 2017, https://www. reuters.com/article/us-iran-nuclear-usa-haley-idUSKCN1B524I.

[36] “IAEA Doesn’t Check Iran Military Sites for Nukes Because There’s ‘No Reason To,’” Sputnik News, September 1, 2017, https://sputniknews.com/middleeast/201709011056978649-iran-military-sites-nuclear-weapons/.

[37] IAEA, IAEA Annual Report 2016 , September 2017, pp. 94-95.

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