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国際平和拠点ひろしま

Hiroshima Report 2018(6)警戒態勢の低減、あるいは核兵器使用を決定するまでの時間の最大限化

核兵器の警戒態勢に関して、2017年に核保有国の政策に大きな変化はみられなかった133。米国及びロシアの戦略核弾道ミサイルは、警報即発射(LOW)あるいは攻撃下発射(LUA)といった高い警戒態勢に置かれている134。また、英国の40発及びフランスの80発の核兵器が、SSBNの常時哨戒の下で、米露のものよりは低い警戒態勢に置かれている135。中国は、通常は核弾頭と運搬手段を切り離して保管しており、即時発射の態勢を採用していないとみられる136。他の核保有国の動向は必ずしも明らかではないが、インドは中国と同様に、即時発射の態勢は採っていないとみられる。パキスタンは2014年2月に、核兵器を含むすべての兵器は首相を長とする国家司令部(National Command Authority)の管理下にあり、インドとの危機時にも核戦力使用の権限を前線の指揮官には移譲しないことを確認した137。警戒態勢の低減に関しては、チリ、マレーシア、ナイジェリア、ニュージーランド及びスイスがNPT運用検討プロセスで「警戒態勢解除グループ」を形成し、警戒態勢解除に関する作業文書を提出するなど、積極的に提案してきた。2017年NPT準備委員会では、警戒態勢解除の重要性を論じたうえで、核兵器国に対して、核兵器システムの運用態勢を直ちに低減するための措置を採るよう求めた138。警戒態勢の低減・解除が提案される目的の1つには、事故による、あるいは偶発的な核兵器の使用の防止が挙げられてきた139。これに対して核兵器国は、そうした使用を防止するために様々な措置を適切に講じてきたと強調している140。また、印パは2017年2月、二国間の核兵器関連事故リスク低減協定を5年間延長した。パキスタンは、上述のように対印抑止力としてSRBM戦力を重視しているが、その核戦力は核指揮権政治評議会(NCA)を通じた完全な文民統制による強力で安全な指揮統制システムの下に置かれ、過激派などが核分裂性物質や核兵器を奪取する可能性はないと強調している141。米国では2017年11月、上院外交委員会において、核攻撃を開始する大統領権限の制限に関する公聴会が開催された。米国が核攻撃を受けるか、攻撃が切迫した場合には、大統領には憲法に基づき国を防衛する完全な権限があることが確認される一方で、「切迫した状況」の解釈が不明確だとも指摘された。また、ケーラー(Robert Kehler)米戦略軍元司令官は、軍は違法な命令に従う義務はなく、軍の指針である「必要性」「区別」及び「均衡性」も核攻撃の判断に適用されるとした142。さらに、ハイテン(John E. Hyten)米戦略軍司令官は別の会合で、大統領から違法な命令を受けた場合には、違法性を指摘し、代替案を提示するとの考えを述べた143。


[133] 各国の政策については、『ひろしまレポート 2017 年版』を参照。

[134] Hans M. Kristensen, “Reducing Alert Rates of Nuclear Weapons,” Presentation to NPT PrepCom Side Event, Geneva, April 24, 2013; Hans M. Kristensen and Matthew McKinzie, “Reducing Alert Rates of Nuclear Weapons,” United Nations Institute for Disarmament Research, 2012.

[135] Kristensen, “Reducing Alert Rates of Nuclear Weapons”; Kristensen and McKinzie, “Reducing Alert Rates of Nuclear Weapons” を参照。

[136] 他方で、中国は、新型 SSBN や MIRV 化 ICBM の新規配備などに伴い、警戒態勢を高める可能性があるとの指摘 もなされてきた。

[137] Elaine M. Grossman, “Pakistani Leaders to Retain Nuclear-arms Authority in Crises: Senior Official,” Global Security Newswire, February 27, 2014, http://www.nti.org/gsn/article/pakistani-leaders-retain-nuclear-arms-authority- crises-senior- official/.

[138] “Statement by Sweden on Behalf of the De-alerting Group,” Cluster 1, First Session of the Preparatory Committee for the 2020 NPT Review Conference, May 4, 2017.

[139] たとえばルイス(Patricia Lewis)らは、核兵器が不用意に用いられかけた 13 の事例を概観し、考えられてい たよりも核兵器使用の可能性は高かったこと、核兵器の不使用は抑止の効果よりも個々の意思決定者が救ったという 側面が強いことなどを論じた上で、核兵器が存在する限り、不注意、事故、あるいは故意の核爆発のリスクは残るこ とから、核兵器廃絶までの間、慎慮ある意思決定が最優先課題だとする報告書を公表した。Patricia Lewis, Heather Williams, Benoît Pelopidas and Sasan Aghlani, “Too Close for Comfort: Cases of Near Nuclear Use and Options for Policy,” Chatham House Report , April 2014.

[140]『ひろしまレポート 2017 年版』を参照。

[141] “Short-Range Nuclear Weapons to Counter India’s Cold Start Doctrine: Pakistan PM,” Live Mint, September 21, 2017, http://www.livemint.com/Politics/z8zop6Ytu4bPiksPMLW49L/Shortrange-nuclear-weapons-to-counter-Indias- cold-start-do.html.

[142] U.S. Senate Foreign Relations Committee, “Authority to Order the Use of Nuclear Weapons,” November 14, 2017, https://www.foreign.senate.gov/hearings/authority-to-order-the-use-of-nuclear-weapons-111417.

[143] Rob Crilly, “US Nuclear Commander Would Resist ‘Illegal’ Presidential Order for Strike,” Telegraph, November 18, 2017, http://www.telegraph.co.uk/news/2017/11/18/us-nuclear-commander-would-resist-illegal-order-strike/.

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