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国際平和拠点ひろしま

(3) 核兵器禁止条約(TPNW)

2017 年 9 月 20 日に署名開放された TPNW の署名国・批准国は着実に増加して きた。2018 年末時点では署名国が 69、こ のうち批准国が 19 であったのに対して、 2019 年には署名国が 80、批准国が 34 とな った。調査対象国のうち、批准国はオース トリア、カザフスタン43、メキシコ、ニュ ージーランド、南アフリカ、署名国はブラ ジル、チリ、インドネシア、ナイジェリア、 フィリピンである。条約は、50 カ国の批准 により発効する。

前年に続き 2019 年の国連総会では、 TPNW の成立を歓迎し、条約への署名・批准などを求める決議「核兵器禁止条約 (Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons)」44が採択された。投票行動は 下記のとおりである。

➢ 核兵器禁止条約

提案:オーストリア、ブラジル、チリ、インドネシア、カザフスタン、メキシ コ、ニュージーランド、ナイジェリア、 フィリピン、南アフリカなど

賛成 123(オーストリア、ブラジル、 チリ、エジプト、インドネシア、イラ ン、カザフスタン、メキシコ、ニュー ジーランド、ナイジェリア、フィリピ ン、サウジアラビア、南アフリカ、 UAE など)、反対 41(豪州、ベルギ ー、カナダ、中国、フランス、ドイツ、 インド、イスラエル、日本、韓国、オ ランダ、ノルウェー、パキスタン、ポ ーランド、ロシア、トルコ、英国、米 国など)、棄権 16(北朝鮮、スウェー デン、スイスなど)-シリアは投票せず

TPNW 推進国は、2019 年も NPT 準備委 員会や国連総会第一委員会などの場で、核 兵器の廃絶に向けた TPNW の重要性と意 義を改めて主張した。TPNW 支持を訴えた 2018 年の TPNW に関する国連総会決議の 共同提案国であるオーストリア、ブラジル、 コスタリカ、アイルランド、インドネシア、 メキシコ、ニュージーランド、ナイジェリア、南アフリカ及びタイは 2019 年 NPT 準 備委員会で「TPNW に関する共同声明」を 発表し、TPNW は NPT、国際原子力機関 (IAEA)保障措置及び国際核不拡散・軍 縮体制を強化するものであり、「NPT の全 体的な目標に具体的に貢献している」と論 じた45。またオーストリアは、「TPNW は、 核兵器国が期限付きで完全、検証可能かつ 不可逆的な核兵器の廃絶を約束する用意が でき次第、その加盟を受け入れることによ り、多国間で合意された法的道筋を提供す るものであり、NPT の履行に不可欠な、論 理的な一歩である」46とも発言した。

これに対して、核保有国及び同盟国は、 TPNW に署名しないとの方針を変えていな い。2019 年 NPT 準備委員会における核兵 器国の共同声明でも、「核兵器国は TPNW が NPT と矛盾し、これを損なわせる恐れ があるとの見方をとっており、この条約へ の反対を再確認した」47と言及した。核兵 器国のなかでもフランスは、TPNW の参加 国は「特に欧州とアジアにおいて、再軍備 と脅威の復活に直面して、大規模な通常戦 争を危険にさらすことなく、安全と安定を 核抑止力なしに維持する方法を説明しなけ ればならない」48と厳しく批判した。この 準備委員会では、議長作成の 2020 年 NPT 運用検討会議に向けた勧告案に「核兵器禁 止条約への多くの締約国による支持、並びにその NPT との相補性を認識する」とい う表現が盛り込まれたが49、核兵器国など の反対により勧告案は採択されなかった。

2017 年の交渉会議にて TPNW の成立に 賛成した国のうち、スウェーデンは 2019 年 1 月、政府が任命した調査官により作成 された報告書を公表し、条約が NPT、 IAEA 保障措置協定追加議定書及び CTBT の重要性を明確かつ拘束力のある方法で再 確認していないこと、条約からの脱退問題 が浮上する場合にスウェーデンを困難な状 況に置きかねないこと、北大西洋条約機構 (NATO)との戦略関係にも影響を与えか ねないことなどを挙げ、総合的判断として、 現在の内容では条約に署名すべきではない との結論を明記した50。これを踏まえてさ らなる協議がなされた結果、スウェーデン は 7 月に、当面条約に署名しないと発表し た51。また、スイスは 4 月に、議会からの条 約署名の要求を拒否し、2020 年末まで署 名・批准の決定を先延ばしする―この間に 国際政治・安全保障の最新の展開にかかる 情勢分析を行う―とした52。

核兵器の法的禁止に関連して、国連総会 では前年と同様に、決議「核兵器の威嚇または使用に関する国際司法裁判所(ICJ) の勧告的意見のフォローアップ(Follow- up to the advisory opinion of the Inter- national Court of Justice on the legality of the threat or use of nuclear weapons)」53、 及び「核兵器使用禁止条約(Convention on the prohibition of the use of nuclear weapons)」54が採択された。その投票行動 は、それぞれ以下のとおりである。

➢ 核兵器の威嚇または使用に関する国際司 法裁判所(ICJ)の勧告的意見のフォロ ーアップ

􏰀  提案:エジプト、フィリピンなど

􏰀  賛成 138(オーストリア、ブラジル、チリ、中国、エジプト、インドネシア、 イラン、カザフスタン、メキシコ、ニ ュージーランド、ナイジェリア、パキ スタン、フィリピン、サウジアラビア、 南アフリカ、スウェーデン、スイス、 シリア、UAE など)、反対 33(豪州、 ベルギー、フランス、ドイツ、イスラ エル、韓国、オランダ、ノルウェー、 ポーランド、ロシア、トルコ、英国、 米国など)、棄権 15(カナダ、北朝鮮、 インド、日本など)

➢ 核兵器使用禁止条約

􏰀  提案:インドなど

􏰀  賛成 118(チリ、中国、エジプト、インド、インドネシア、イラン、カザフ スタン、メキシコ、ナイジェリア、サ ウジアラビア、南アフリカ、シリア、 UAE など)、反対 50(豪州、オース トリア、ベルギー、カナダ、フランス、 ドイツ、イスラエル、韓国、オランダ、 ニュージーランド、ノルウェー、ポー ランド、スウェーデン、スイス、トル コ、英国、米国など)、棄権 15(ブラ ジル、北朝鮮、日本、パキスタン、フ ィリピン、ロシアなど)

イランは 2019 年 NPT 準備委員会で、 2020 年 NPT 運用検討委員会において核兵 器使用の違法化に関して取り組む特別委員 会を設置するよう提案した55。


43 カザフスタンにあるミサイル実験場ではロシアの大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射実験が行われており(最近 では 2019 年 11 月に Topol が発射された)、TPNW で禁止された核兵器への「援助」行為にあたるのではないか とも指摘されている。Ulrich Kühn, “Kazakhstan—Once More a Testing Ground?” Valdai Club, July 12, 2019, https://carnegieendowment.org/2019/07/12/kazakhstan-once-more-testing-ground-pub-79510.

44 A/RES/74/41, December 12, 2019.

45 “Joint Statement on the Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons (TPNW),” 2019 NPT PrepCom, May 2, 2019, http://reachingcriticalwill.org/images/documents/Disarmament-fora/npt/prepcom19/statements/2May_ Austria_Group.pdf.

46 “Statement by Austria,” Cluster 1, 2019 NPT PrepCom, May 2, 2019. また、オーストリア及びメキシコなどが 2019 年 NPT 準備委員会に提出した作業文書(NPT/CONF.2020/PC.III/WP.46, May 1, 2019)も参照。

47 “Statement by China, on Behalf of the P5 States,” General Debate, 2019 NPT PrepCom, May 1, 2019.

48 “Statement by France,” Cluster 1, 2019 NPT PrepCom, May 2, 2019.

49 NPT/CONF.2020/PC.III/CRP.4/Rev.1, May 9, 2019.

50 “Inquiry into the Consequences of a Swedish Accession to the Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons,” January 2019, https://www.regeringen.se/48f047/contentassets/55e89d0a4d8c4768a0cabf4c3314aab3/rapport_l- e_lundin_webb.pdf.

51 Jan M. Olsen, “Sweden Says It Won’t Sign UN Nuclear Ban Treaty,” Associated Press, July 12, 2019, https://apnews.com/40a5b0e8d19d415f942786b0c8d647d7. バルストロム外相は、条文に「核兵器の明確な定義が ないこと、並びに回答されなければならない多くの問題があること」をその理由に挙げた。他方、条約が発効した 際には、その締約国会議にオブザーバー参加するとしている。 “Statement by Sweden,” General Debate, First Committee, UNGA, October 14, 2019.

52 “Switzerland Postpones Decision on Nuclear Weapons Treaty,” Xinhua, April 4, 2019, http://www.china.org.cn/ world/Off_the_Wire/2019-04/04/content_74644259.htm.

53 A/RES/74/59, December 12, 2019.

54 A/RES/74/68, December 12, 2019.

55 NPT/CONF.2020/PC.III/WP8, March 20, 2019.

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