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国際平和拠点ひろしま

(8) 兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)

A) 条約交渉開始に向けた取組

1995 年NPT 運用検討・延長会議で採択された「原則及び目標」では、CD におけるFMCT の即時交渉開始及び早期締結が目標に掲げられた。しかしながら、現在に至るまで条約交渉は開始されていない。2021年のCD の会期でも、FMCT の交渉を行う特別委員会(ad hoc committee)の設置を盛り込んだ作業計画を採択できなかった。前年までと同様に、パキスタンが兵器用核分裂性物質の新規生産だけでなく、既存のストックをも条約交渉の対象に含めるよう強く主張し、これが受け入れられない限りは作業計画の採択に反対するとの姿勢を変えなかったためである。
2021 年の国連総会では、CD におけるFMCT 交渉の即時開始を求める決議「兵器用核分裂物質生産禁止条約」が、賛成182、反対1(パキスタン)、棄権5(エジプト、イラン、イスラエル、北朝鮮、シリア)で採択された204。

 

B) 生産モラトリアム

軍縮・不拡散イニシアティブ(NPDI)などは核保有国に対して、FMCT が成立するまでの間、兵器用核分裂性物質の生産モラトリアムを宣言・実施するよう求めてきた205。しかしながら、前年までと同様に中国、インド、イスラエル、パキスタン及び北朝鮮がモラトリアムを宣言していない。このうち、少なくともインド、パキスタン及び北朝鮮は、兵器用核分裂性物質の生産を継続していると見られる。
北朝鮮については、2021 年も核分裂性物質の生産や、関連する活動を積極的に行っていると見られることが報じられた。国際原子力機関(IAEA)が2021 年8 月末に公表した報告書では、2021 年2 月中旬から7月上旬にかけて放射化学研究所(再処理施設)が5 カ月間運転された兆候が見られ、この期間は5MWe 実験用原子炉(黒鉛減速炉)の燃料を再処理するのに必要な時間であること、2021 年7 月上旬以降、黒鉛減速炉を再稼働させた兆候が見られたことなどが記載された206。
また、米国の専門家は、1〜2 月に北朝鮮が寧辺(Yongbyon ) のウラン濃縮工場(UEP)の稼働を続けていたと分析した207。9 月には、寧辺で兵器レベルのウラン濃縮が可能な施設を拡張していることが衛星画像から明らかになり、改修により高濃縮ウラン(HEU)の生産能力が25%増加する可能性があると分析された208。さらに11 月には、兵器用プルトニウムの生産に用いられてきた黒鉛減速炉の稼働も報じられた209。
中国は、現時点では兵器用核分裂性物質を生産していないと見られているが、生産モラトリアムを宣言することには否定的である。その理由として中国の軍縮大使は2020 年に、「生産モラトリアムは、FMCT問題を完全かつ効果的に解決するための基本的な道筋ではない。とりわけ現在、一部の国が今日肯定したことを翌日には否定するかもしれず、また前政権が行った政策や公約を現政権が恣意的にすべて否定することもありうる」210と発言した。他方で、中国が民生用として開発を進める先端高速増殖炉と再処理施設が、核兵器目的に利用される可能性への懸念も示されている211。
イスラエルについては、専門家が衛星画像から、兵器用プルトニウムを生産してきたと見られるディモナ核施設で大規模な拡張工事が行われているとの分析を明らかにした212。イスラエルは工事の目的を明らかにしていないが、核弾頭に用いるトリチウムを生産するための施設を建設している可能性が指摘されている213。
核保有国は、自国が保有する兵器用核分裂性物質の量を公表していないが、民間の研究所による分析・推計については本報告書第3 章で取りまとめている。


204 A/RES/76/51, December 6, 2021.
205 NPT/CONF.2020/PC.III/WP45, April 29, 2019. NPDI は、2010 年9 月に豪州、カナダ、チリ、ドイツ、日本、メキシコ、オランダ、ポーランド、トルコ及びUAE によって結成された。
206 GOV/2021/40-GC(65)/22, August 27, 2021. また、Frank Pabian, Jenny Town and Jack Liu, “North Korea’s Yongbyon Nuclear Complex: More Evidence the 5 MWe Reactor Appears to Have Restarted,” 38 North, August 30, 2021, https://www.38north.org/2021/08/north-koreas-yongbyon-nuclear-complex-more-evidence-the-5-mwe-reactor-appears-to-have-restarted/ なども参照。
207 Peter Makowsky, Frank Pabin and Jack Liu, “North Korea’s Yongbyon Nuclear Center: Working through Winter,” 38 North, February 19, 2021, https://www.38north.org/2021/02/north-koreas-yongbyon-nuclear-center-workingthrough-winter/.
208 Zachary Cohen, “Satellite Images Reveal North Korea Expanding Facility Used to Produce Weapons-grade Uranium,” CNN, September 16, 2021, https://edition.cnn.com/2021/09/16/politics/north-korea-yongbyon-expansion-satellite-images/index.html; Jeffrey Lewis, “Yongbyon Enrichment Plant,” Arms Control Wonk, September 16, 2021, https://www.armscontrolwonk.com/archive/1213420/yongbyon-enrichment-plant/. 寧辺のウラン濃縮プラントの開発状況(2009〜2021 年)については、以下も参照。Olli Heinonen, “Development of the Yongbyon Uranium Enrichment Plant Between 2009 and 2021,” 38 North, July 16, 2021, https://www.38north.org/2021/07/development-of-the-yongbyon-uranium-enrichment-plant-between-2009-and-2021/.
209 Olli Heinonen, Peter Makowsky, Jack Liu and Jenny Town, “North Korea’s Yongbyon Nuclear Complex: Further
Evidence of 5 MWe Reactor Operations,” 38 North, November 24, 2021, https://www.38north.org/2021/11/northkoreas-yongbyon-nuclear-complex-further-evidence-of-5-mwe-reactor-operations/.
210 “No Clear Path forward for Fissile Material Cut-off Treaty,” IPFM Blog, May 24, 2020, http://fissilematerials.org/blog/2020/05/no_clear_path_forward_for.html.
211 The U.S. Department of Defense, Military and Security Developments Involving the People’s Republic of China 2021, p. 90 などを参照。
212 Sang-Min Kim, “New Work Underway at Israeli Nuclear Site,” Arms Control Today, April 2021, https://www.armscontrol.org/act/2021-04/news/new-work-underway-israeli-nuclear-site.
213 Richard Silverstein, “What is Israel Building at its Dimona Nuclear Site?” Middle East Eye, March 5, 2021, https://www.middleeasteye.net/opinion/israel-nuclear-site-dimona-what-building.




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