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国際平和拠点ひろしま

Hiroshima Report 2024(9) 兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)

A) 条約交渉開始に向けた取組
1995年NPT運用検討・延長会議で採択された「原則及び目標」では、CDにおけるFMCTの即時交渉開始及び早期締結が目標に掲げられた。しかしながら、現在に至るまで条約交渉は開始されていない。CDの2023年会期でも、パキスタンの反対により、FMCTの交渉を行う特別委員会(ad hoc committee)の設置を盛り込んだ作業計画を採択できなかった。パキスタンは前年までと同様に、以下のように述べて、新規生産のみを禁止する条約の策定に反対した。

この根本的に欠陥のあるアプローチを追求する時期は既に過ぎている。核分裂性物質の将来的な生産を終了するだけの結果をもたらす条約は、非対称性を永続させ、核軍縮になんら付加価値ももたらさないことを考えれば、成功の見込みはない。いわゆるモラトリアムを実施した国が核兵器を近代化し、増加させた場合、あるいは保障措置の枠外で核分裂性物質を蓄積している南アジアの国と原子力協力を行うことで、国家が二重基準を行使するような場合に、このアプローチの無力さと欺瞞が露呈する。
したがって、既存の備蓄における非対称性に対処し、すべての国にとって平等で損なわれることのない安全保障をもたらす核分裂性物質禁止条約について、コンセンサスを形成することの重要性を認識する現実的なアプローチが必要である235。

NAM諸国はNPT準備委員会で、「核兵器及び他の核爆発装置のための核分裂性物質の生産を禁止し、透明で不可逆的かつ検証可能な方法で、核軍縮と核不拡散の両方の目的を考慮しつつ、そのような物質の過去の生産及び既存の備蓄をすべて撤廃することを強く支持する」236と発言した。

FMCTの交渉開始が依然として実現しないなか、日本は豪州及びフィリピンと共催で、9月に国連でFMCTに関するハイレベル記念行事・イベントを共催した。岸田総理は記念行事の演説で、「今こそ、核分裂性物質の生産禁止により、世界的な核兵器数の減少傾向を維持していく必要があるのではないでしょうか」237と呼びかけた。

2023年の国連総会では、CDにおけるFMCT交渉の即時開始、並びに兵器用核分裂性物質の生産モラトリアムなどを求める決議「兵器用核分裂性物質生産禁止条約」238が、賛成160、反対5(中国、イラン、パキスタン、ロシアなど)、棄権20(エジプト、イスラエル、北朝鮮、サウジアラビア、シリアなど)で採択された。

 

B) 生産モラトリアム
前年までと同様に、中国、インド、イスラエル、パキスタン及び北朝鮮が兵器用核分裂性物質生産モラトリアムを宣言していない。このうち、少なくともインド、パキスタン及び北朝鮮は、兵器用核分裂性物質の生産を継続していると見られる。

中国は兵器用核分裂性物質を生産していないと見られてきたが、中国が民生用として開発を進める先端高速増殖炉と再処理施設が核兵器目的に利用される可能性への懸念も示されている239。2023年5月には、ロシアが中国の2基の高速増殖炉(CFR-600)用に高濃縮ウランを供給していることを確認した240。

北朝鮮については、2023年も兵器用核分裂性物質の生産や、関連する活動を積極的に行っていると見られることが報じられた。2023年2月に刊行された韓国の国防白書では、北朝鮮が使用済み燃料の再処理を続けており、兵器級プルトニウムを約70kg保有していると報告した241。4月には、北朝鮮の5MW黒鉛減速炉が稼働中であること、さらに寧辺(Yongbyon)の実験用軽水炉の完成が近づきつつあることといった分析が米国の専門家から示された242。同月末には、5MW黒鉛減速炉が稼働停止し、5~8kgの兵器級プルトニウムを抽出可能な使用済み核燃料棒が搬出されている可能性があるとも分析された243。さらに、12月には、グロッシ(Rafael Grossi)IAEA事務局長が、寧辺で建設されていた実験用軽水炉から温水が排出されていることが観察され、これは「原子炉が臨界に達していることを示している」との声明を発表した244。
核保有国は、自国が保有する兵器用核分裂性物質の量を公表していないが、民間の研究所による分析・推計については本報告書第3章で取りまとめている。


235 “Statement of Pakistan,” Thematic Debate on NuclearWeapons, First Committee, UNGA, October 16, 2023.
236 NPT/CONF.2026/PC.I/WP.8, June 14, 2023.
237 「FMCTハイレベル記念行事 岸田総理スピーチ」首相官邸、2023年9月19日、https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/statement/2023/0919fmct.html。
238 A/RES/78/28, December 4, 2023.
239 The U.S. Department of Defense, Military and Security Developments Involving the People’s Republic of China 2022, p. 97などを参照。
240 Echo Xie, “Russia Confirms Enriched Uranium Supplies to China,” South China Morning Post, May 5, 2023, https://www.scmp.com/news/china/science/article/3219424/russia-confirms-enriched-uranium-supplies-china.
241 Hyonhee Shin, “South Korea Defence Paper Calls North ‘Enemy,’ Estimates Plutonium Stockpile at 70 kg,” Reuters, February 16, 2023, https://www.reuters.com/world/asia-pacific/south-korea-defence-paper-calls-north-enemy-estimates-plutonium-stockpile-70-kg-2023-02-16/.
242 Peter Makowsky and Jack Liu, “Growing Activity at North Korea’s Experimental Light Water Reactor,” 38 North, April 1, 2023, https://www.38north.org/2023/04/yongbyon-nuclear-research-center-growing-activity-at-the-experimental-light-water-reactor/.
243 Olli Heinonen, Peter Makowsky, Jack Liu and 38 North, “Possible Refueling at Yongbyon’s 5 MWe Reactor,” 38 North, April 29, 2023, https://www.38north.org/2023/04/possible-refueling-at-yongbyons-5-mwe-reactor/.
244 “IAEA Director General Statement on Recent Developments in the DPRK’s Nuclear Programme,” IAEA, December 21, 2023, https://www.iaea.org/newscenter/pressreleases/iaea-director-general-statement-on-recent-developments-in-the-dprks-nuclear-programme.

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