Hiroshima Report 2023(6) 原子力平和利用の透明性
A) 透明性のための取組
平和的目的の原子力活動が核兵器への転用を意図したものではないことを示すための措置には、IAEA保障措置の受諾に加えて、自国の原子力活動及び今後の計画を明らかにするなど透明性の向上が挙げられる。IAEA追加議定書を締結する国は、核燃料サイクルの開発に関連する10年間の全般的な計画(核燃料サイクル関連の研究開発活動の計画を含む)をIAEAに報告することが義務付けられている。主要な原子力推進国も、原子力発電炉の建設計画をはじめとして、中長期的な原子力開発計画を公表している150。他方、原子力計画を公表していないものの核活動を行っている(と見られる)国(イスラエル、北朝鮮、シリア)、あるいは原子力計画を公表しているもののその計画にそぐわない核関連活動を行っていると疑われている国に対しては、核兵器拡散への懸念が持たれる可能性がある。
5核兵器国、ベルギー、ドイツ、日本及びスイスは、1997年に合意された「プルトニウム管理指針(Guidelines for the Man-agement of Plutonium)」(INFCIRC/549)のもとで、共通のフォーマットを用いて、民生用プルトニウムなど(原子力平和利用活動におけるすべてのプルトニウム、並びに当該国政府によって軍事目的には不要だとされたプルトニウム)の量を毎年、IAEAに報告することとなっている。上記9カ国のうち、中国は2018年以降、報告を提出していない。フランス、ドイツ及び英国は、プルトニウムだけでなく民生用HEUの量もあわせて報告した151。中国は、建設中の2つの再処理工場について詳細を明らかにしておらず、2基の建設中の高速増殖炉についても軍事目的への転用を意図していないことが明確には示されていない。
日本がIAEAに提出した上記の報告は、2022年7月12日に原子力委員会が公表した「我が国のプルトニウム管理状況」に基づくものであり、そこでは分離プルトニウムの管理状況が詳細に記載されている152。
本報告書で調査対象となっている他の非核兵器国についても、核分裂性物質の保有量を公表しているか、あるいは少なくともIAEAに申告している核分裂性物質に関しては保障措置が適用されているという意味で、一定の透明性が確保されていると言える。
B) 核燃料サイクルの多国間アプローチ
非核兵器国が独自の濃縮・再処理技術を取得するのを抑制する施策の1つとして、ウラン濃縮・再処理施設の利用を多国間で共有するという、核燃料サイクルの多国間アプローチが検討されてきた。これまでに、オーストリア、ドイツ、日本、ロシア、英国、米国及びEUがそれぞれ、また6カ国(フランス、ドイツ、オランダ、ロシア、英国、米国)は共同で提案を行った。
様々な構想のなかで具体的に進展しているのが核燃料バンクである。ロシアのアンガルスク(Angarsk)に設置されたロシア独自の国際ウラン濃縮センターに続き、2017年8月には、核脅威イニシアティブ(NTI)、クウェート、ノルウェー、UAE、米国及びEUの拠出を得て153、IAEAが管理運営を委託したLEUを保管するIAEA・LEUバンクがカザフスタンに開設された154。
150 主要国の原子力発電を含む原子力開発の現状及び今後の計画については、世界原子力協会(World Nuclear Association)のホームページ(http://world-nuclear.org/)にも概要がまとめられている。
151 IAEA, “Communication Received from Certain Member States Concerning Their Policies Regarding the Management of Plutonium,” https://www.iaea.org/publications/documents/infcircs/communication-received-certain-member-states-concerning-their-policies-regarding-management-plutonium.
152 内閣府原子力政策担当室「我が国のプルトニウム管理状況」2022年7月12日、http://www.aec.go.jp/ jicst/NC/sitemap/pdf/kanri220712.pdf。
153 設立経費とその後20年間の運営費として、計約1億5,000万ドルが拠出された。
154 核燃料バンクに関するNTIの当初の提案では、燃料供与の条件を「核燃料サイクル施設の保有を放棄した国」としていた。しかしながら、ロシアのセンター及びカザフスタンの核燃料バンクのいずれにも、そうした条件は含まれていない。