○ 4日目のプログラム
・(希望者のみ)被爆樹木めぐりガイドツアー(広島城にて)
・ 研修成果発表(公開セッション)
4日間にわたる広島-ICANアカデミーのプログラムも、いよいよ最終日を迎えました。
この日は、希望者が早朝に集合し、 広島城へ被爆樹木の見学に向かいました。
早朝の広島城は人も少なく、穏やかな雰囲気の中、被爆樹木をゆっくりと見て回ることができました。原爆の投下後、一面焼け野原となり、「75年間は草木も生えない」と言われるほど、壊滅的な被害を受けた広島で、爆風と熱線を耐え抜いた被爆樹木は、 「もの言わぬ証人」として被爆の実相を語り続けています。
被爆樹木は平和公園でも見学しましたが、市内の至るところで、 大切に保存されている様子を見て、参加者のひとりは、「広島市民の平和への想いを感じた」と感銘を受けていました。
その後、全員が会場で合流し、午後から予定されている公開セッションである研修成果発表に向け、準備を進めました。4つのグループに分かれ、今回、広島で学んだことを振り返り、どの項目が印象に残っているか、学んだことを今後どう生かしていくかなど、熱心に議論していました。
午後からはいよいよ公開セッションの研修成果発表会です。 参加者を4つのグループに分け、それぞれ1グループずつ、全員がプレゼンテーションを行いました。
ひとつ目のグループは、核抑止の論理を家父長制(patriarchy)になぞらえ、非常に西洋的な合理性に基づいた考え方であるとし、その考え方は合理的であるがゆえに感情と対立するため、私たち全員が自身の考えを持ち、議論できるものだ、と主張しました。そこで、現在それぞれのコミュニティが抱えている問題と、グローバルなリスクとの関連性について考え、様々な立場から議論していくことが重要であるとし、旧植民地やグローバルサウスの国々が抱える核実験被害等の「(社会的な)癌」を取り除くことが必要である、と訴えました。そのために、国際的な議論から疎外されている当事者の国々や、そこにいるグローバルヒバクシャのストーリーを共有して、核抑止力に頼る現状を打破するため、様々な立場、コミュニティ間での議論、交流の重要性を強調しました。
2つ目のグループは、まず、今回のアカデミーで被爆者や広島の政治家と会った経験から、様々なプレイヤーとコミュニケーションを取り、悩みや考えを共有することの重要性について述べたうえで、核兵器の問題は気候変動等の問題に比べて無視され続けてきた問題であるが、当事国だけの問題ではなく、放射性降下物をはじめとする深刻な影響を世界中に及ぼすため、すべての人々が関わらなければならない問題であることを指摘しました。そこで、被爆者の体験等の核兵器の影響に関する人間的なストーリーのような感情的な側面と核問題の政治的・データ的側面を組み合わせることで、より包括的な理解が得られ、問題への共感やつながりが深まるだけでなく、前向きな変化を促す重要なきっかけにもなり、結果として組織や政策立案者に積極的な変化を促すことができる、との考えを述べ、核軍縮なくして持続可能な発展や安全保障はありえない、と訴えました。
3つ目のグループは、 まず、今回のアカデミーで聞いた被爆者の体験談や、核実験によるグローバルヒバクシャについての話から、核爆発がもたらす直接的、長期的な人体への影響と環境的な影響を挙げ、核兵器の有害性について述べた後、自分たちにできることとして、(1)ソーシャルメディアやマスコミの活用、(2)自分たちそれぞれが平和に関わる活動を続けていくこと、を挙げました。そして、TPNWの重要性、特に第6条の「核兵器被害者への適切な援助、汚染地域の修復」は、放射線の医学的影響だけでなく、環境的影響との関連の上で重要との認識を示しました。その上で、TPNWの重要性の提唱、そして日常的にこの問題に接しない人々との情報の共有が重要である、と訴えました。
4つ目のグループは、まず、人々が核問題を考える際に、難しい用語をはじめとする高度な知識を必要としたり、核兵器保有国主導で議論がなされていてその他の国が置き去りにされていることなどで、一般人にとって敷居が高いことを問題として挙げました。この問題を一般的なトピックとするには、 抑止力を再考し、それを広める新しいアイデアが必要があること、多様な視点と学びが必要であると述べ、これらを意識することで他者を核問題に取り込んでいける、との認識を示しました。私たちの暮らす世界で最もリスクの高い要素が核兵器であり、そのリスクを軽減し安全な世界に暮らすためには、核軍縮、核兵器廃絶、 そして将来におけるいかなる種類の大量破壊兵器も出現させないことによってのみ可能としました。そのためにできることとして、難しいテーマを子供向けにアレンジしたり、複雑な考えをそれぞれの母国語に翻訳したりするなど、核兵器問題をアクセスしやすくする努力を挙げ、自分たちの生活に取り込んでいくことの重要性について述べました。
すべてのグループの発表が終わった後、川崎 哲 ICAN国際運営委員からフィードバックのコメントがありました。
川崎氏は、すべてのグループの内容について、それぞれのアイデアに特徴があり、大変印象的だった、との所見を述べるとともに、参加者の問題に対し真摯に取り組む誠実さと、意識の高さについて、賞賛の言葉を述べました。
また、多くのグループが、 今回聞いた話や学んだことを持ち帰って話したい、と述べたことに触れ、そういったことが核問題に関する意識の根付きと核廃絶への気運の醸成には重要であるため、その意識を継続して持ってほしい、と参加者へメッセージを送りました。
広島で学んだ期間は4日間と短いものでしたが、参加者のひとりは「人生を変える経験だった。これまでの人生の中でも最大級のインパクトだった」と述べました。
広島への原爆投下について、それぞれの参加者は学校で習ったことがあるなど、知識としては知っていたそうです。しかし、実際に広島で見て、感じたことは、参加者それぞれの心に響くものがあったようです。
参加者はそれぞれの国へ戻りますが、そこで広島での体験を、家族や周りの人に話していくことで、それぞれの国で少しでも核廃絶への意識が広まり、世界的な意識の変化につながることを期待しています。