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国際平和拠点ひろしま

[インタビュー] 「積極的平和」と「SDGs」への取り組み 『三菱ケミカルホールディングス』

 2020年8月、「2020世界平和経済人会議ひろしま」が開催された。これはビジネスと平和構築のあり方との関係を多面的に議論する場で、多くの経済人たちがコロナ禍における「積極的平和」と「SDGs」について発言を行った。今回はその参加企業の中から株式会社三菱ケミカルホールディングスの取り組みについて、同社の木下潤一氏に語ってもらった。

 

 

●会社としての考え方
 弊社は2005年にホールディングス制に移行し、持ち株会社の下に4社が並ぶ複合体になりました。「三菱ケミカル」は素材や機能商品、「日本酸素ホールディングス」は産業ガス、「田辺三菱製薬」は医薬品を扱っています。また、「生命科学インスティテュート」では次世代ヘルスケアに携わっています。

 そんな私たちはコーポレートスローガンとして「KAITEKI Value for Tomorrow」という言葉を掲げています。これは事業が多角化してきたことで「私たちは何をやっている会社なのか?」という疑問が生まれ、それに答えたものです。KAITEKIは“快適”をベースに、「人、社会、そして地球の心地よさがずっと続いていくこと」を指しています。そしてそうした環境を実現するため、Sustainability(持続性)、Health(健康)、Comfort(快適)の3つの価値に適うものをビジネスとして推進することを決めました。

 そのKAITEKIを実現する経営手法が「KAITEKI経営」です。私たちは自社の方針を定めるため、3つの軸を用意しました。1つ目の「Management of Economics(MOE)」は「資本の効率化を重視する経営」。いわゆる利益を追求する経営で、恐らく全ての企業が取り組んでいる視点です。2つ目の軸は「Management of Technology(MOT)」。これは「イノベーション創出を追求する経営」で、技術の進化によって革新的な製品やサービスを提供するというメーカーならではの視点になります。そして3つ目の軸が「Management of Sustainability(MOS)」。これは「サステナビリティの向上を目指す経営」で、これこそが人と社会と地球の未来に貢献しようという私たちにとって一番特徴的な視点となります。

 ちなみにこれら3軸はそれぞれ時間の流れが異なっています。稼ぐためのx軸は四半期ごとの短期視点、イノベーションのy軸は基礎技術の開発が必要なので10年単位、サステナビリティのz軸については100年単位で考えています。MOSは長い時間軸をベースに、いかに次世代に地球を引き渡せるかを考えることが求められます。さらに私たちはMOSとMOTを「非財務価値」と位置付けています。通常の財務価値と非財務価値の総和こそが我々の企業価値であり、SDGsへの取り組みも含め、非財務価値のウェイトは年々大きくなっているのが現状です。

●今後の経営戦略
 私たちは昨年、2030年の自社像を規定した「KAITEKI Vision 30(KV30)」という中長期経営基本戦略を定めました。これは人、社会、地球の各領域において目指すべき事柄を明確化しています。

 そのKV30を達成するための最重要戦略のひとつが「DX戦略」です。デジタル化の推進は企業活動全般に及び、たとえば研究開発にビッグデータ、AI、ディープラーニングを導入することで新素材の早期の発見を目指す。製造現場の安全・安心・自動化を試みる。顧客とのつながりを利便性の高いシステムに変革。ビジネスモデルもデジタル化……など多岐に渡ります。私たちは総額240億円を投資し、全方位的な切り口で事業のDX化を進めています。

 今後注力する事業領域としては、まず「GHG(Greenhouse Gas:温室効果ガス)低減」が挙げられます。電気自動車で使われるリチウムイオン電池の高度化を目指します。「炭素循環」に関しては、現在展開中の植物由来のバイオマスプラスチックや微生物に分解される生分解性プラスチックに続き、ゆくゆくはCO2回収、人工光合成をはじめとするCCUSまで視野に入れています。その他「食糧・水供給」「デジタル社会基盤」「人快適化」「医療進化」を含めた選定事業は、2018年時点では会社全体の売り上げの25%ですが、2030年には70%超まで成長させていく計画です。

●目標実現のための施策
 KV30目標を実現するための主要施策のひとつが「サーキュラーエコノミー」の推進です。いま世の中では、地球温暖化防止のため「低炭素社会」あるいは「脱炭素社会」という言葉が喧伝されています。しかし私たちとしては、自らの事業活動における環境負荷低減は当然のこととして、炭素を減らす、炭素をなくすといった発想よりはむしろ、炭素を循環させるという考え方が重要と考えています。

 たとえば私たちは炭素繊維という素材の製造・開発を行っています。炭素繊維の原料は炭素で、生成の過程でも温室効果ガスを排出しますが、軽くて強いという特性があるので車の材料として使用すれば燃費が向上できます。これなど素材だけを見ると「温室効果ガスを出すから炭素繊維はダメだ!」となりますが、使用工程まで考えると環境負荷低減に貢献する素材と言えます。私たちはこうした「LCA(ライフサイクル・アセスメント=ある製品・サービスのライフサイクル全体で環境負荷を算定し、評価すること)」の考え方を採用し、その評価法や推進体制を整備することを目指しています。

 また、私たちは夢の技術と言われる「人工光合成」の開発・実証も進めています。これは二酸化炭素を利用して化学品原料を生成する技術で、これが成功すれば二酸化炭素を減らせるばかりか、二酸化炭素が資源となる時代が来るかもしれません。さらにこうした開発は一社で行うことが難しいため、東京大学などとの産学連携も進めています。

 アメリカのアリゾナ州立大学内に「The Global KAITEKI Center」を開設し、KAITEKIの概念を世界に広げようとしています。

●広島への想い
 広島県はカーボンリサイクルの実証研究拠点が大崎上島に置かれるなど、私たちの目指す方向と重なる部分があります。また、大竹市にある三菱ケミカル広島事業所の歴史は古く、今も炭素繊維を製造するKAITEKI経営の最前線の現場となっています。
 「2020広島宣言」で記された「積極的平和」に関しても、私たちと致しましては、人・社会・地球のKAITEKIの実現に向けて企業としての役割を果たすことで、平和な世界の実現に少しでも貢献できればと考えています。

株式会社三菱ケミカルホールディングス
コーポレートコミュニケーション室 報道グループ
グループマネジャー
木下 潤一

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