当サイトを最適な状態で閲覧していただくにはブラウザのJavaScriptを有効にしてご利用下さい。
JavaScriptを無効のままご覧いただいた場合には一部機能がご利用頂けない場合や正しい情報を取得できない場合がございます。

国際平和拠点ひろしま

Hiroshima Report 2018(8)兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)

A)条約交渉開始に向けた取組

1995年NPT運用検討・延長会議で採択された「原則及び目標」では、CDにおける兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)の即時交渉開始及び早期締結が目標に掲げられたが、現在に至るまで条約交渉は開始されていない。CDでは2017年の会期でも、FMCTの交渉を行う特別委員会(ad hoc committee)の設置を盛り込んだ作業計画を採択できなかった。前年までと同様に、パキスタンが兵器用核分裂性物質の新規生産だけでなく、既存のストックをも条約交渉の対象に含めるよう強く主張し、これが受け入れられない限りは作業計画の採択に反対するとの姿勢を変えなかったためである。また、パキスタンは2017年2月に開催されたFMCTに関するラウンドテーブルで、インドのすべての民生用原子力施設がIAEA保障措置の対象となるべきであり、その保証が得られなければ交渉に反対すると述べた160。中国及びイスラエルは、兵器用核分裂性物質の新規生産禁止を定めるFMCTの交渉開始に賛成しているが、西側核兵器国ほどの積極性を示しているわけではない。中国は、核軍縮、非核兵器国への安全の保証、FMCT及び「宇宙における軍拡競争の防止(PAROS)」といった重要な問題に関して、包括的でバランスの取れた態様での実質的な作業をCDで開始することを支持するとしてきた161。FMCT交渉開始をCDにおける最優先事項と位置付けるフランス、英国及び米国とは一定の距離を置いている。CDでのFMCT交渉開始を促進すべく、これまでも様々な施策が講じられてきた。2016年の国連総会決議では、FMCTハイレベル専門家準備グループの設置が決定された。25カ国162の専門家で構成される同グループは、FMCTの実質的な要素に関する検討及び勧告を目的として、2017年と2018年にそれぞれ2週間の会合を開催する163。その第1回会合は2017年7月31日から8月11日までジュネーブで行われ、意思決定機関や検証実施機関等を含む組織のあり方、条約の発効等を規定する法的事項、条約の中核的義務と定義と検証の規定のあり方やこれらの相互関係,条約の目的に資するための透明性及び信頼醸成措置などが議論された。同グループにはパキスタンも参加を要請されたが、3月の同グループ非公式協議会合で、兵器用核分裂性物質の新規生産のみを禁止する条約に係るいかなる議論にも参加できないなどと述べ、参加を拒否した。パキスタンはこれに加えて、CDの役割はコンセンサスで合意されていない国連総会のプロセスによって阻害されてはならないこと、議論はCDで実施できるものであること、CDにおける作業計画採択の阻害要因である政治的懸念を扱わないこと、25カ国からの代表がコンセンサスに達しても、それは参加しない国を拘束するものではないことなどを主張した164。

B)生産モラトリアム

核保有国による兵器用核分裂性物質の生産モラトリアムについては、前年から状況に変化はなく、中国、インド、イスラエル、パキスタン及び北朝鮮が宣言していない。このうち、北朝鮮、インド及びパキスタンは、兵器用核分裂性物質の生産、並びに生産能力の拡大を続けているとみられる165。他方、中国は現在、兵器用核分裂性物質を生産していないと考えられている166。イスラエルの状況は明らかではない。

核保有国は、自国が保有する兵器用核分裂性物質の量を公表していないが、民間研究所による分析・推計については本報告書第3章でとりまとめている。


[160] “Pakistan Wants India’s Entire Nuclear Programme under IAEA Safeguards,” Nation, February 6, 2017, http:// nation.com.pk/06-Feb-2017/pakistan-wants-india-s-entire-nuclear-programme-under-iaea-safeguards.

[161] NPT/CONF.2015/32, April 27, 2015.

[162] アルジェリア、アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、カナダ、中国、コロンビア、エジプト、エストニア、 フランス、ドイツ、インド、インドネシア、日本、メキシコ、モロッコ、オランダ、ポーランド、韓国、ロシア、セネ ガル、南アフリカ、スウェーデン、英国、米国。

[163] “High Level Fissile Material Cut-off Treaty (FMCT) Expert Preparatory Group,” United Nations Office at Geneva, July 28, 2017, https://www.unog.ch/80256EE600585943/(httpPages)/B8A3B48A3FB7185EC1257B280045DBE3?O penDocument.

[164] “General Statement by Pakistan,” Informal Consultative Meeting by the Chairperson of the High-level FMCT Expert Preparatory Group, New York, March 2-3, 2017, https://www.unog.ch/80256EDD006B8954/(httpAssets)/BBA 938B952963392C12580DC0046E8C0/$file/Pakistan+Statement-GENERAL-FMCT++++Informals-NY-March2017.pdf.

[165]『ひろしまレポート 2017 年版』などを参照。

[166] たとえば、Hui Zhang, “China’s Fissile Material Production and Stockpile,” Research Report , International Panel on Fissile Materials, No. 17 (2017) などを参照。

< 前のページに戻る次のページに進む >

 

目次に戻る