(2) 国際原子力機関(IAEA)保障措置 (NPT締約国である非核兵器国)
(2) 国際原子力機関(IAEA)保障措置(NPT 締約国である非核兵器国)
A) IAEA 保障措置協定の署名・批准
核物質が平和的目的から核兵器及び他の核爆発装置へと転用されるのを防止・検知するために、NPT 第3 条1 項で、非核兵器国はIAEA と包括的保障措置協定を締結し、その保障措置を受諾することが義務付けられている。2019 年末の時点で、NPT 締約国である非核兵器国のうち、12 カ国50が包括的保障措置協定を締結していない。
また、NPT 上の義務ではないが、IAEA保障措置協定追加議定書の締結については、NPT 締約国である非核兵器国のうち、2019 年10 月時点で130 カ国が批准している(2018 年末以降、ベナン、エチオピアが批准)。イランは未批准だが、追加議定書の暫定的な適用を2016 年1 月に開始した。
包括的保障措置協定及び追加議定書のもとでの保障措置を一定期間実施し、その結果、IAEA によって「保障措置下にある核物質の転用」及び「未申告の核物質及び原子力活動」が存在する兆候がない旨の「拡大結論(broader conclusion)」が導出された非核兵器国(2019 年6 月末時点で67 カ国)については、包括的保障措置協定と追加議定書で定められた検証手段を効果的かつ効率的に組み合わせる統合保障措置( integrated safeguard ) が適用される。2018 年には67 カ国で統合保障措置が実施された51。
本調査対象国のうち、NPT 締約国である非核兵器国に関して、包括的保障措置協定及び追加議定書の署名・批准状況、並びに統合保障措置への移行状況は、表2-1 のとおりである。なお、EU 諸国は欧州原子力共同体(EURATOM)による保障措置を受諾してきた。また、アルゼンチン及びブラジルは二国間の核物質計量管理機関(ABACC)を設置し、両国、ABACC 及びIAEA による四者協定に基づく査察を実施している。ブラジルは、非核兵器国で初となる原子力潜水艦の保有を目指しており、その核燃料に対するブラジル・IAEA 間の保障措置のあり方について、交渉が行われているが詳細は明確ではない52。
2019 年9 月のIAEA 総会で採択された決議「IAEA 保障措置の有効性強化と効率向上」では、NPT 締約国で小規模な原子力活動しか実施していない国である少量議定書(SQP)締結国に議定書の改正ないし改定を求めるとともに、2019 年9 月時点で62カ国(2018 年9 月時点で57 カ国)について改正が発効したことが記された53。改正前のSQP では、ほとんどの保障措置について実施が留保されていた。原子力導入の意図を表明している国のなかで、サウジアラビアは依然としてSQP の改正議定書を受諾していない。サウジアラビア最初の研究用原子炉が完成間近で、同国はその核燃料を輸入する前に保障措置協定を再交渉し、すべての核物質・活動が適切に保障措置下に置かれるようIAEA と補助取極を締結するなど、SQP を包括的保障措置協定にする必要がある。しかしながら、2019 年には同協定は締結されなかった。
B) IAEA 保障措置協定の遵守
『2018 年版保障措置ステートメント』によれば、2018 年末時点で、包括的保障措置及び追加議定書の双方が適用される129 カ国(追加議定書を暫定適用するイランを含む)のうち、IAEA は、70 カ国についてはすべての核物質が平和的活動のもとにあると結論付け、59 カ国については未申告の核物質・活動がないことに関して必要な評価を続けている。また、包括的保障措置協定を締結し追加議定書未締結の45 カ国について、IAEA は、申告された核物質は平和的活動のもとにあると結論付けた54。
IAEA 保障措置協定の遵守状況について注視されてきたのは、北朝鮮、イラン及びシリアの動向である。
北朝鮮
北朝鮮がIAEA 保障措置の適用を長年にわたって拒否するなか、2019 年9 月のIAEA 事務局長報告「北朝鮮への保障措置の適用」では、公開情報や衛星画像などを通じて把握した北朝鮮の核関連施設などの状況を概観し、核施設にアクセスできないため運転状況や活動の特徴・目的など詳細は確認できないとしたうえで、寧辺の黒鉛減速炉が断続的に稼働していたが2018 年12 月からは運転の徴候は認められず、核燃料の取り出し及びその再装填に十分な期間の原子炉の停止であったことなどが記載された55。また、IAEA 内に設置された北朝鮮チームが情報の収集や検証アプローチのアップデートなどを行っており、「関係国間で政治的合意に至り、北朝鮮によって要請され、理事会で承認されれば、IAEA は適時に北朝鮮に戻る用意がある」とした56。
イラン
IAEA は、イランによる保障措置協定及びJCPOA の履行に関して検証・監視活動
を行ってきた。2019 年のIAEA 総会では、フェルータ(Cornel Feruta)事務局長代行が、「IAEA は保障措置協定下で、イランにより申告された核物質の未転用の検証を継続している。イランに未申告の核物質及び核活動がないとの評価を継続している」57と述べた。また、JCPOA成立から2018 年までの4 年間に、IAEA は追加議定書のもとでのイランに対する補完的アクセスを100 件以上実施してきたとも報じられた58。
2019 年に入り、イランはJCPOA の一部履行停止を続けているが、IAEA による査察の拒否は伝えられていない。2019 年初頭、イランは、テヘランのトゥルクザバド地区にあるサイト―イランが15kg の放射性物質と核関連機器を貯蔵していたとイスラエルが主張した―で、IAEA が環境サンプリングを行うことを認めた。IAEA は2019 年11月、IAEA に未申告のイラン国内のサイトから人為起源の天然ウラン粒子を検知したと報告した。11 月の報告書では、イランがこの問題の解決に向けたIAEA の努力に十分かつ時宜を得た協力を提供していないことが示唆された59。専門家は、今回のサンプリングの結果を保障措置違反の可能性を
示す証拠だと見ている60。
シリア
IAEA 保障措置ステートメントによれば、2007 年のイスラエルによる空爆で破壊されたシリアのダイル・アッザウル( DairAlzour)のサイトが、IAEA に未申告で秘密裏に建設されていた原子炉だったと疑われ、IAEA もその可能性が高いと評価している。IAEA はシリアに、未解決の問題について十分に協力するよう求めているが、シリアは依然として対応していない。シリアが申告した核物質については、平和的活動からの転用を示す兆候はなかった61。
2019 年NPT 準備委員会では、米国など52 カ国が共同声明で、シリア問題の解決を求めたのに対して、シリアは、IAEA が確たる証拠を示しておらず、疑わしいというだけの段階だと主張した62。
50 2015 年にNPT に加盟したパレスチナを含む。その12 カ国は、いずれも少量の核物質しか保有していないか、原子力活動を行っていない。
51 IAEA, “Safeguards Statement for 2018,” 2019.
52 Leonardo Bandarra, “Brazilian Nuclear Policy under Bolsonaro: No Nuclear Weapons, But a Nuclear Submarine,” Bulletin of the Atomic Scientists, April 12, 2019, https://thebulletin.org/2019/04/brazilian-nuclear-policy-under-bolsonaro/.
53 GC(63)/RES/11, September 2019.
54 IAEA “Safeguards Statement for 2018,” 2019.
55 GOV/2019/33-GC(63)20, September 2019.
56 Ibid.
57 Cornel Feruta, IAEA Acting Director General, “Statement to Sixty-Third Regular Session of IAEA General Conference,” September 16, 2019, https://www.iaea.org/newscenter/statements/statement-to-sixty-third-regular-session-of-iaea-general-conference.
58 Jonathan Tirone, “Iran Snap Nuclear Inspections Jump as Tensions with U.S. Rise,” Bloomberg, May 10, 2019,https://www.bloomberg.com/news/articles/2019-05-10/iran-snap-nuclear-inspections-jump-as-tensions-with-u-s-rise.
59 GOV/2019/55, November 11, 2019.
60 Mark Fitzpatrick, “Finding Evidence of Undeclared Past Nuclear Activity in Iran Shows the IAEA Process Is Working,” Survival Editors’ Blog, July 15, 2019, https://www.iiss.org/blogs/survival-blog/2019/07/undeclared-iranian-nuclear-activity-and-iaea-process.
61 IAEA “Safeguards Statement for 2018,” 2019.
62 Katrin Geyer and Alicia Sanders-Zakre, “News in Brief,” NPT News in Review, No. 7 (May 10, 2019), p. 3.