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国際平和拠点ひろしま

(7) 包括的核実験禁止条約(CTBT)

A) CTBT 署名・批准
CTBT の署名国は2020 年末の時点で184カ国、このうち批准国は168 カ国であり、前年から変化はなかった。条約の発効に必要な国として特定された44 カ国(発効要件国)のうち、5 カ国(中国、エジプト、イラン、イスラエル、米国)の未批准、並びに3 カ国(インド、北朝鮮、パキスタン)の未署名が続いているため、条約は発効していない(この他に、調査対象国ではサウジアラビア及びシリアが未署名)。これら8 カ国による条約への署名あるいは批准に向けた動きは、2020 年も見られなかった。
2020 年の国連総会では、条約の早期発効のために遅滞なく無条件での署名及び批准の重要性と緊急性を強調した決議「核実験禁止条約」184が賛成182、反対2(北朝鮮、米国)、棄権3(インド、シリアなど)で採択された。
CTBT 発効促進に関しては、新型コロナウイルスの世界的感染拡大により、隔年のCTBT フレンズ外相会合を開催できなかったが、10 月1 日に豪州、カナダ、フィンランド、ドイツ、日本及びオランダがビデオメッセージとプレスリリースを公表し、CTBT の発効を呼びかけた185。このうち茂木外相は、「21 世紀に入ってから、ほぼ全ての国が核実験モラトリアムを遵守しています。北朝鮮による核実験に対する全世界的な非難は、核実験の禁止に対する規範意識の高まりを示すものでもあります。CTBT の発効促進に取り組み、核実験を防ぐためにCTBT の監視能力を強化しなければなりません」186というメッセージを発出した。
2019 年9 月に開催されたCTBT 発効促進会議では、2017 年6 月から2019 年5 月に署名国・批准国が行った条約発効促進のための活動(未署名国・未批准国へのアウトリーチなど)の概要を取りまとめた文書が公表され、発効要件国に対する二国間の取組(オーストリア、ベルギー、ドイツ、日本、メキシコ、ニュージーランド、ロシア、英国など)、それ以外の国に対する二国間の取組(オーストリア、ベルギー、日本、メキシコ、ニュージーランド、ロシア、UAE、英国など)、グローバル・レベルでの取組(ベルギー、ブラジル、ドイツ、日本、メキシコ、ニュージーランド、フィリピン、ロシア、UAE、英国など)、地域レベルでの多国間の取組(ベルギー、ドイツ、日本、メキシコ、ニュージーランドなど)が紹介された187。

B) CTBT 発効までの間の核爆発実験モラトリアム
5 核兵器国、インド及びパキスタンは、核爆発実験モラトリアムを引き続き維持している。核兵器の保有の有無を公表していないイスラエルは、核爆発実験の実施の可能性についても言及していない。
他方、2020 年5 月には、米国の安全保障問題担当の高官が核爆発実験の再開について議論したものの、NNSA の反対などもあり、結論は出なかったと報じられた188。ウォルター(Drew Walter)国防副次官補は、核爆発実験を実施しないとの政策に変更はないとしつつ、命令があれば数カ月以内に実施できるとも述べた189 。リチャード(Charles Richard)米戦略軍司令官も9 月の上院軍事委員会で、「現時点では、私が核実験の必要性を勧告するような状況にはない。…しかし、将来問題が発生した場合に核実験を行う能力を維持することは国にとって重要であり、私はその勧告を正式に文書化してきた」190と発言した。
北朝鮮は、2018 年4 月20 日に核実験(及びICBM 発射実験)の凍結を発表し、その翌月には豊渓里(プンゲリ)核実験場の入り口を爆破した。しかしながら、2019年12 月末に開催された朝鮮労働党中央委員会総会で、金正恩委員長が核・ICBM 実験の一方的な停止に拘束される理由はなくなったと発言した191。2020 年末の時点では核爆発実験は再開していないが、核実験場が不可逆的に使用不能になったかは不明であり、復旧作業を行えば一部の坑道は再び使用可能だとの見方もある192。

C) 包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)準備委員会との協力
調査対象国によるCTBTO 準備委員会への分担金の支払い状況(2020 年12 月31 日時点)は、下記のとおりである193。

➢ 全額支払い(Fully paid):豪州、オーストリア、ベルギー、カナダ、中国、エジプト、フランス、ドイツ、インドネシア、イスラエル、日本、カザフスタン、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、フィリピン、ポーランド、ロシア、スウェーデン、スイス、トルコ、UAE、英国、米国
➢ 一部未払い(Partially paid):韓国
➢ 未払い:メキシコ、南アフリカ
➢ ( 未払いにより) 投票権停止(Votingright suspended):ブラジル、チリ、イラン、ナイジェリア

D) CTBT 検証システム構築への貢献
CTBT の検証体制は着実に整備が進められてきた。他方で、国際監視制度(IMS)ステーションの設置については、本調査対象国のうち未署名国で検証システムの構築に全く関与していないインド、北朝鮮、パキスタン及びサウジアラビアを除けば、引き続きエジプト及びイランでの進展が遅れている。中国については、半数以上の施設でCTBTO 準備委員会による認証が完了していない194。また米国は、中国がIMS ステーションからCTBTO 準備委員会へのデータの送信を頻繁に遮断していると指摘している195。これに対して、中国は事実を無視したものだと否定し、強く批判した196。

E) 核実験の実施
2020 年に核爆発実験を実施した国はなかった。
他方、米国は2020 年6 月に公表した「軍備管理・不拡散・軍縮合意遵守報告書」で、中国及びロシアが、出力を伴う核爆発実験の禁止(「出力ゼロ〔zero yield〕」)を定めたCTBT に違反して、出力を生じる核実験を実施した可能性があると指摘した197。ロシアについては、「米国は、ロシアが核の出力を生み出す核兵器関連の実験を行ったと評価している。米国は、ロシアが2019年に実施した超臨界核実験や自律的(selfsufficient)な核実験の数を把握していない。ロシアは爆発性キャニスターから核エネルギーを放出する方法で実験を行っている可能性があり、これはロシアの地下核実験制限条約通知義務のロシアによる遵守の懸念を生じさせている」198と指摘した。また中国については、「ロプノール核実験場の通年操業の可能性、爆発物格納容器の使用、ロプノールでの大規模な掘削活動、核実験活動の透明性の欠如(CTBT 準備委員会が運営する国際データセンターへのIMS ステーションからのデータの流れを頻繁に遮断するなど)など、中国の核実験活動の透明性の欠如は、米国、英国及びフランスがそれぞれの核実験モラトリアムで遵守している『ゼロイールド』基準への遵守について懸念を抱かせている」199とした。これに対して、中露とも、CTBT に違反するような核実験は実施していないと述べて、米国の主張を強く否定した200。
核爆発実験以外の活動については、米国が核備蓄管理計画(SSP)のもとで、「地下核実験を行うことなく備蓄核兵器を維持及び評価する」ことを目的として、未臨界実験、あるいは強力なX 線を発生させる装置「Z マシン」を用いて超高温・超高圧の核爆発に近い状態をつくり、プルトニウムの反応を調べるという実験を含め、核爆発を伴わない様々な実験を継続してきた。NNSA はその種類及び回数をホームページで公表してきたが、2015 年第1 四半期を最後に更新されず、2018 年以降は過去の情報についての掲載も確認できなかった。
米国は未臨界実験を継続しており、2020会計年度より年2 回実施するとの方針を明らかにしていたが201、2020 年11 月にロスアラモス国立研究所の職員がネバダ国立核安全保障サイトで、「ナイトシェードA」と命名された未臨界実験を実施した(2019年2 月以来、トランプ政権下では3 回目)。これは、3 回続きの実験の1 回目と位置づけられ、続く2 回の実験の結果と合わせて「兵器を改善させるための重要な情報」を得ることが目的とされている202。
米国以外の核保有国では、フランスが、核兵器の信頼性・安全性を保証する活動として、極端な物理的状況下での物質のパフォーマンス、並びに核兵器の機能をモデル化するシミュレーション及び流体力学的実験(hydrodynamic experiments)を実施していること、これらは新型核兵器の開発を念頭に置くものではないことを明らかにしたが203、その具体的な実施状況については公表していない。またフランスと英国は2010 年11 月に、X 線及び流体力学実験施設の建設・共同運用に関する協定を締結した204。残る核保有国は、核爆発を伴わない実験の実施の有無に関して公表していない。他方、中国に関しては、米国のZ マシンを上回る能力を持つ施設が近く完成すると報じられた205。
CTBT は核爆発を伴わない実験を禁止していないが、NAM 諸国はそれらを含めて核兵器にかかる実験の即時・無条件の停止、並びに実現可能で、透明性・不可逆性があり、検証可能な方法での核実験場の閉鎖などを求めている206。なお、「核爆発実験」の禁止を定めたCTBT とは異なり、TPNWでは「核実験の禁止」が規定されており、これには核爆発実験以外の実験も含まれると解釈しうる。ただし、これに関する検証措置などはTPNW には規定されていない。


184 A/RES/75/87, December 7, 2020.
185 “‘Friends of the CTBT’ Group Issues Video Call for Treaty’s Entry into Force,” October 1, 2020, https://www.ctbto.org/press-centre/news-stories/2020/friends-of-the-ctbt-group-issues-video-call-for-treatys-entry-into-force/.
186 「CTBT フレンズ外相会合 茂木大臣ビデオメッセージ」2020 年10 月1 日、https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100099136.pdf。
187 CTBT-Art.XIV/2019/4, September 5, 2019.
188 John Hudson and Paul Sonne, “Trump Administration Discussed Conducting First Nuclear Test in Decades,” Washington Post, May 23, 2020, https://www.washingtonpost.com/national-security/trump-administration-discussed-conducting-first-us-nuclear-test-in-decades/2020/05/22/a805c904-9c5b-11ea-b60c-3be060a4f8e1_story.html.
189 Aaron Mehta, “Live Nuclear Testing Could Resume in ‘Months’ If Needed, Official Says,” Defense News, May 26, 2020, https://www.defensenews.com/smr/nuclear-arsenal/2020/05/26/live-nuclear-testing-could-resume-in-months-if-needed-official-says/.
190 Rebecca Kheel, “Top Admiral: ‘No Condition’ Where US Should Conduct Nuclear Test ‘at This Time,’” Hill, September 17, 2020, https://thehill.com/policy/defense/516897-top-general-no-condition-where-us-should-conduct-nuclear-test-at-this-time.
191 “Report on 5th Plenary Meeting of 7th C.C., WPK,” NCNA, January 1, 2020, https://www.ncnk.org/resources/publications/kju_2020_new_years_plenum_report.pdf/file_view.
192 “(2nd LD) N. Korea Able to Use Punggye-ri Nuke Testing Site after Restoration Work: JCS,” Yonhap News Agency, October 8 2019, https://en.yna.co.kr/view/AEN20191008008652325?section=national/defense.
193 CTBTO, “CTBTO Member States’ Payment as at 31-Dec-2020,” https://www.ctbto.org/fileadmin/user_upload/treasury/56_31_Dec_2020_Member_States_Payments.pdf.
194 CTBTO, “Station Profiles,” https://www.ctbto.org/verification-regime/station-profiles/.
195 The U.S. Department of State, “Adherence to and Compliance with Arms Control, Nonproliferation, and Disarmament Agreements and Commitments,” June 2020, p. 50.
196 “Foreign Ministry Spokesperson Zhao Lijian’s Regular Press Conference,” April 16, 2020, https://www.fmprc.gov.cn/mfa_eng/xwfw_665399/s2510_665401/2511_665403/t1770510.shtml.
197 この報告書では、「ロシアや中国を含むすべての核兵器国の高官の公式声明は,CTBT の範囲は『出力ゼロ』であるとのこれらの国の解釈を表明している。しかし、『出力ゼロ』の定義については文書による合意が得られていないため、これが具体的にどのような意味を持つのかは明らかではない」とも言及している。 The U.S. Department of State, “Adherence to and Compliance with Arms Control, Nonproliferation, and Disarmament Agreements and Commitments,” June 2020, p. 48.
198 Ibid., p. 46.
199 Ibid., p. 47.
200 “Foreign Ministry Spokesperson Zhao Lijian’s Regular Press Conference,” April 16, 2020, https://www.fmprc.gov.cn/mfa_eng/xwfw_665399/s2510_665401/2511_665403/t1770510.shtml; “Statement by Russia,” First Committee, UNGA, October 9, 2020.
201 NNSA, Fiscal Year 2020 Stockpile Stewardship and Management Plan, July 2019, pp. 8-11.
202 Los Alamos National Laboratory, Operational and Mission Highlights: A Monthly Summary of Top Achievements, November 2020, pp. 1-2.
203 NPT/CONF.2015/PC.III/14, April 25, 2014.
204 NPT/CONF.2015/29, April 22, 2015.
205 Michael Peck, “China Will Soon Have Its Own Z Machine to Test Mock Nuclear Explosions,” National Interest, August 15, 2020, https://nationalinterest.org/blog/reboot/china-will-soon-have-its-own-z-machine-test-mock-nuclear-explosions-166995.
206 NPT/CONF.2020/PC.III/WP.16, March 21, 2019.

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