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国際平和拠点ひろしま

Hiroshima Report 2023(10) 核戦力、兵器用核分裂性物質、核戦略・ドクトリンの透明性

2010年NPT運用検討会議で採択された最終文書で、核兵器国は、核軍縮に向けた具体的な措置の進展に関して、2014年NPT準備委員会で報告するよう求められた(行動5)。最終文書では、これに加えて、核兵器国を含む締約国に対して、累次の運用検討会議で合意された核軍縮措置の実施にかかる定期報告の提出(行動20)、並びに信頼醸成措置として報告の標準様式への合意など(行動21)が求められた。これに基づき、5核兵器国、並びに一部の非核兵器国(豪州、オーストリア、ブラジル、カナダ、ドイツ、イラン、日本、カザフスタン、韓国、メキシコ、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、南アフリカ、スウェーデン、スイス、トルコなど)はNPT運用検討会議に国別報告を提出した。

透明性に関する5核兵器国の基本的な政策に変化はなかった。

2021年1月に発足したバイデン政権はオバマ政権期の政策に戻り、NNSAは同年10月に各年の核弾頭貯蔵数(配備済み及び保管中の弾頭が含まれるが、退役し解体待ちの弾頭は含まれない)を公表した。NNSAは、各年の核弾頭廃棄数もあわせて公表した300。他方、爆発に至らない核兵器関連の実験の状況については、2015年第1四半期を最後に更新されず、2018年以降は過去の情報についての掲載も確認できなかった。

英国は2021年に公表した「安全保障・防衛・開発・外交政策統合見直し」で、「意図的な曖昧さの政策を拡張し、運用中の備蓄、配備された弾頭、配備されたミサイルの数を公表しない」という方針を明らかにした301。NPT運用検討会議に提出した作業文書では、自国が提出した国別報告について、第3回準備委員会に提出した草案に対して他の核兵器国、非核兵器国、市民社会を巻き込んだ大規模な協議を行って最終版を作成したことを明らかにした。また、「すべての締約国に対して、2010年行動計画の行動20に沿って、条約の実施及び前回の運用検討会議でのコミットメントに関する定期報告書を提出するよう求め、次回の運用検討サイクルにおいて、これらの報告書の審査及び討議のための時間を確保することを決定するよう求める」とした302。他方、透明性の限界について、以下のように論じた。

透明性には限界があることを強調することが重要である。どのような場合でも、透明性が拡散に敏感な情報の共有に及んではならない。また、国家や非国家の敵対者にとって価値のある情報を公開しないことには、国家安全保障上の重要な理由がある。さらに、英国を含む多くの核兵器国は、核ドクトリンにある程度の意図的な曖昧さを組み込んでおり、それが抑止力を高め、戦略的安定に寄与している。このような場合、透明性の向上は逆説的に安全保障と安定性を低下させる可能性がある。しかし、これらの要素が明確に示され、説明されることが重要である。意図的な曖昧さは、透明性や説明責任を欠くことの言い訳にはなり得ない303。

核問題に関して透明性が他の核兵器国よりも低いと批判されている中国は、「意図と政策の透明性が最も大きな現実的意味を持つと常に考えてきた」とし、「核の透明性措置については、核兵器国間の核戦力の規模、核の基本戦略・政策、戦略的安全保障環境の違いを十分に考慮し、その結果として生じる透明性と焦点の違いを受け入れなければならない」304と主張した。NPT運用検討会議に提出した国別報告を含め、中国が主に言及・記載するのはNPT三本柱に関する中国による過去の取組の概観、並びに政策の方向性・方針などで、核戦略・ドクトリンについても従来の宣言政策の繰り返しといった側面が強く、さらに、保有する核戦力の種類や数、あるいは核戦力近代化の今後の具体的な計画などにはまったく言及していない。

NPDIが2012年NPT準備委員会に提出した作業文書「核兵器の透明性」には、大別して、核弾頭、運搬手段、兵器用核分裂性物質、核戦略・政策について報告を行うためのテンプレート案が添付されている305。このテンプレートを用いて核保有国の透明性に関する動向をまとめると、概ね表1-6のようになる。


300 NNSA, “Transparency in the U.S. Nuclear Weapons Stockpile.”
301 United Kingdom, Global Britain in a Competitive Age, p. 77.
302 NPT/CONF.2020/WP.42, December 21, 2021.

303 NPT/CONF.2020/WP.42, December 12, 2021.
304 NPT/CONF.2020/41, November 16, 2021.
305 NPT/CONF.2015/PC.I/WP.12, April 20, 2012.

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