Hiroshima Report 2023(13) 軍縮・不拡散教育、市民社会との連携
軍縮・不拡散教育、並びに軍縮・不拡散における市民社会との連携や多様性・包摂性の重要性は、ますます重視されてきた。
NPT運用検討会議でも、これらの問題が多くの参加国から言及された。89カ国による「軍縮・不拡散教育に関する共同声明」では、「教育は、軍縮・不拡散を促進し、核兵器のない世界を実現するために不可欠なものである。…教育は、核兵器の使用がもたらす悲劇的な結果について、一般の人々、特に将来の世代の人々の意識を高めることができる。教育はまた、個人と人々に、国や世界の市民として軍縮と不拡散に貢献する力を与えることができる」322と記載された。また、NPDIも作業文書で軍縮・不拡散教育の重要性を論じ、「締約国に対して、有意義な対話の促進及び円滑化を含む核軍縮・不拡散教育を促進するための具体的措置をとる」こと、「優れた実践の共有を含むこの問題に関する定期的な交流を奨励し、締約国に対して、そのような経験を共有すること」などを求めた323。
また、67カ国による「ジェンダーに関する共同声明」では、「ジェンダーの視点は、個人や集団が武力紛争や兵器によってどのように異なる影響を受けるかについての重要な洞察を提供し、ジェンダーの包摂性は、より良く、効果的な軍備管理・軍縮・不拡散を可能にする」こと、「異なる集団やグループがどのような影響を受けているかを正確に評価するために、すべてのプロセスや意思決定機関において、多様性と包摂性により配慮し、彼らの重要な視点が結果に反映されるようにしなければならない」ことなどが述べられた324。豪州、カナダ、メキシコ、フィリピン、スウェーデンなどは作業文書で、「条約への女性の参加とリーダーシップを促進するための実際的な方法を検討し、また核政策決定においてジェンダー分析を実施することにより、条約におけるジェンダー視点の関連性を認識するよう求める」325とした。
岸田総理は一般討論演説で、「ヒロシマ・アクション・プラン」の1つとして、以下のように述べた326。
各国の指導者等による被爆地訪問の促進を通じ、被爆の実相に対する正確な認識を世界に広げていきます。この観点から、グテーレス国連事務総長が8月6日に広島を訪問することを歓迎します。
また、国連に1,000万ドルを拠出して「ユース非核リーダー基金」を設け、未来のリーダーを日本に招き、被爆の実相に触れてもらい、核廃絶に向けた若い世代のグローバルなネットワークを作っていきます。
「核兵器のない世界」に向けた国際的な機運を高めるため、各国の現・元政治リーダーの関与も得ながら、「国際賢人会議」の第1回会合を11月23日に広島で開催します。
また、2023年には被爆地である広島でG7サミットを開催します。広島の地から、核兵器の惨禍を二度と起こさないとの力強いコミットメントを世界に示したいと思います。
近年、NPT運用検討プロセスで軍縮・不拡散教育について積極的に発言している韓国も、「我々の努力の将来にわたる持続性を確保するために、韓国は国連事務総長の軍縮のためのアジェンダのチャンピオンとして、若者の参加に関するイニシアティブを主導している」327と発言した。
最終文書案では、「核兵器のない世界の実現を支援するために条約の目標を推進する有用かつ効果的な手段として、軍縮・不拡散教育の重要性を強調」し、「核兵器の使用及び実験により影響を受けた人々や地域社会との交流及びその経験を直接共有することを含め、核軍縮・不拡散に関するあらゆる話題について、公衆、特に若い世代や将来の世代、並びに指導者、軍縮専門家や外交官の意識を高めるための具体策を取ることを約束し、その人道上及び環境への影響を認識するよう求める。締約国に対して、若者が核軍縮に関連する公式・非公式のイニシアティブや議論に参加できるようにすることを約束するよう求める」ことなどが記載された。ジェンダーについても、「NPTの履行及び運用検討における男女双方の平等、完全かつ有意義な参加及び指導を確保することの重要性を認識し、これにコミットする。会議は、条約の実施に関連するあらゆる側面において、ジェンダーの視点をさらに統合するよう求める締約国の要請に留意した」。
NPT運用検討会議に先立って開催されたTPNW第1回締約国会議には、NGOなども数多く参加しただけでなく、(会期を通じて特定の1セッションでのみNGOなどの演説が認められるNPT運用検討会議とは異なり)各セッションで発言枠が設けられ、政府代表団とともに発言・議論ができるなど、市民社会の参加をより強く印象づけた。採択された「ウィーン行動計画」では、「国連、赤十字国際委員会、核兵器廃絶国際キャンペーン、学界、被害者コミュニティ、その他の市民社会組織と緊密に協力すること」、並びに「関連するステークホルダーの積極的な参加を促進し、影響を受ける地域社会の人々や先住民の異なるニーズを考慮し、すべての締約国による強力なオーナーシップを確保すること」などが締約国に求められた。また、ジェンダーに関しては、「TPNWのジェンダー対応性を強調し、TPNW関連のすべての国家政策、プログラム、プロジェクトにおいてジェンダーへの配慮がなされるよう勧告する」こと、並びに「会期間に、条約のジェンダー条項の実施を支援し、第2回締約国会議に進捗状況を報告するために活動するジェンダー・フォーカル・ポイントを設置すること」などが記された。
国連総会では、決議「軍縮・不拡散教育に関する国連の研究」が無投票で採択された328。また、日本提案の核軍縮決議では、軍縮・不拡散教育について、以下のように記載された。
すべての国に対して、核兵器のない世界の実現を支援するために条約の目標を前進させる有用かつ効果的な手段である核軍縮・不拡散教育、特に、対話プラットフォーム、メンタリング、インターンシップ、フェローシップ、奨学金、モデルイベント、青年団活動などを通じて、若い世代が積極的に関与できる取組を促進するよう要請する。また、核兵器使用の現実に対する認識を高めるために、特に、経験を後世に伝える被爆者を含む地域社会や人々への指導者、若者などによる訪問や交流を通じて、核兵器使用の現実に対する認識を高めることを歓迎し、この点に関する、Professionals Network of P5 academics、Youth4Disarmamentイニシアチブ、「軍縮教育:学習のためのリソース」ウェブサイトや、核兵器のない世界のためのユース・リーダー・ファンドの発表など、この点に関する具体的な施策を歓迎する。
新型コロナ禍で前年までオンラインで開催されていた非政府組織(NGO)などが参加するサイドイベントについては、2022年のTPNW第1回締約国会議329、NPT運用検討会議330及び国連総会第一委員会331で、再び対面形式で開催された。
「市民社会との連携」に関しては、各国政府が核軍縮・不拡散に関する情報をどれだけ国内外の市民に向けて提供しているかも判断材料となる。調査対象国のうち、豪州、オーストリア、カナダ、中国、フランス、ドイツ、日本、ニュージーランド、スウェーデン、スイス、英国、米国といった国々のホームページ(英語版)では、(核)軍縮・不拡散に関するセクションが設けられ、程度の差はあるものの他国と比べて充実した情報が掲載されている。
近年の動きとして、核兵器の開発・製造などに携わる組織や企業などへの融資の禁止や引揚げ(divestment)が提案され、実際にこれを定める国が出始めている。ICANなどが2022年12月に公表した報告書によれば、2020年から2022年7月までの間に、主要な核兵器製造企業24社に対して、308の金融機関が7,460億ドル以上を投資した332。
322 “Joint Statement on Disarmament and Non-Proliferation Education,” Main Committee I, NPT RevCon, August 11, 2022. 共同声明には、豪州、ブラジル、カナダ、エジプト、ドイツ、インドネシア、日本、カザフスタン、メキシコ、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ポーランド、サウジアラビア、スウェーデン、トルコ、英国、米国などが参加した。
323 NPT/CONF.2020/WP.10, September 10, 2021.
324 “Joint Statement on Gender, Diversity and Inclusion,” General Debate, NPT RevCon, August 4, 2022. 共同声明には、豪州、オーストリア、ブラジル、カナダ、ドイツ、日本、メキシコ、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、韓国、スウェーデン、スイス、トルコ、米国などが参加した。
325 NPT/CONF.2020/WP.54, May 17, 2022.
326 “Statement by Japan,” General Debate, NPT RevCon, August 1, 2022. 「『核兵器のない世界』に向けた国際賢人会議第1回会合」は、2022年12月10~11日に広島で開催された。
327 “Statement by South Korea,” General Debate, NPT RevCon, August 2, 2022.
328 A/RES/77/52, December 7, 2022.
329 カザフスタン、ニュージーランドなどがサイドイベントを開催した。
330 豪州、オーストリア、ブラジル、カナダ、フランス、カザフスタン、韓国、オランダ、ノルウェー、スウェーデン、スイスなどがサイドイベントを開催した。
331 カナダ、フランス、米国などがサイドイベントを開催した。
332 ICAN and PAX, Risky Return: Nuclear Weapon Producers and Their Financiers, December 2022